スマートフォンや車載ディスプレイなど中小型FPD市場について、ディスプレイ部門シニアディレクターである早瀬宏氏が講演。2018年の中小型FPDメーカーの売上高シェア(見通し)についてだが、出荷数量では、Foxconn(鴻海精密工業)の支援を受け中国国内需要を取り組むCenturyが11.2%で首位、同じく中国国内向けに液晶ディスプレイを供給するBOEが10.8%で2位、それにHannstar、Samsung、Tianmが続くとするほか、出荷金額ベースでは、依然として有機ELで独占的なシェアを握るSamsungが他社を大きく引き離して首位を独走しているとした。2018年における携帯電話用有機EL市場でのSamsungのシェア(数量ベース)は93.5%で2位のLG Display(2.1%)を寄せ付けなかった。また、2018年のLTPS TFT-LCDメーカーの出荷数量シェアは、1位がTianmaの21.6%、2位にジャパンディスプレイ(JDI)18.0%、そして3位がBOEの1.3%となった。

  • 図1 2018年の中小型FPDパネルメーカーの出荷数量および出荷額シェア(見通し) (出所:IHS Markit)

,A@2018年の中小型FPDパネルメーカーの出荷数量および出荷額シェア(見通し)|

早瀬氏は、スマートフォン市場の動向について次のように見解を述べている。

  • 米中の覇権争いと共に貿易摩擦が激しさを増し、その対象商品として携帯電話機と通信システムに厳しい規制がかかる結果となった。その一方で、商品開発力とコスト競争力を高めた中国携帯電話機メーカーは、携帯電話市場で高いシェアを維持してきたSamsungやAppleのシェアを侵食し始め両社と肩を並べる勢いとなっている。
  • コスト競争を避けプレミアム路線を目指すAppleは、2018年モデルで有機ELの採用を拡大。これに対して中国携帯電話機メーカーも有機ELの採用を拡大。結果として2018年の携帯電話用有機ELは当初の予測に対し上振れする数量の見込みとなった。
  • 一方、すでに十分な機能と性能に達しているスマートフォンに対し、セットメーカーはフルスクリーン化によるデザインの一新で買換え需要の回復を期待したものの消費者の反応は鈍く、結果として2018年の携帯電話機用FPDの出荷数は当初の予測を下回るレベルで前年割れする見通しとなった。この下振れの影響をもっとも受けたのがLTPS TFT-LCDで、その出荷金額は前年を大きく下回る見込みとなっている。
  • 需要は下振れしたもののスマートフォンのフルスクリーン化による大画面化、高精細化の動きは一段と加速している。これに応じる形で中国のFPDメーカーもLTPS TFT-LCDの供給に実力をつけ、セットの生産・FPDの供給両面で中国メーカーは携帯電話市場の主導権を握る状況となった。
  • 普及が浸透したスマートフォンによって需要を侵食されている各種モバイル機器向けFPDの出荷量は依然として縮小を続けている。その中で、独自の需要を拡大する車載モニター用FPDは堅調に成長を持続すると共に、機能を高めたスマートウォッチ向けFPDの出荷が高成長を維持、中小型FPD市場での第2・第3のアプリケーションとして一段と注目度を上げている。

また、同氏は車載モニタ用FPD市場動向について、「電子制御化の一段の加速により、車載用モニター用FPD需要は引き続き堅調な成長を持続すると予測され、FPDの仕様はさらなる大型化・ワイドスクリーン化と高精細化の動きを強めている(図2)。その中で新たに電子サイドミラーを搭載した新型車が市場に登場。車載モニター用FPD市場はさらなる拡大の可能性が期待される」と述べた。

  • CES 2019にて展示・実演された中国Byton社の48インチ超ワイドスクリーンのデジタルダッシュボード

    図2 CES 2019にて展示・実演された中国Byton社の48インチ超ワイドスクリーンのデジタルダッシュボード。2019年末より量産開始する予定 (出所:IHS Markit)

このほか同氏は、中小型FPDの今後注目すべき懸案事項として次のような3点を挙げている。

1. iPhoneの価格設定

ブランド価値と高品質・高性能を売りに高いセット価格を維持してきたiPhoneだが、「期待程販売が伸びていない」状況の中 従来にない「値下げ」を実施するに至ってしまった。

日本国内でも政府指導による「端末分離方式」の徹底によって、機種変更(=新端末買換え)のハードルが一段と高まる。新型iPhoneの投入に際し高いセット価格を設定してきたAppleだが、冷え込む消費者の反応に対しどのような販売戦略を進めていくのだろうか?

2. 中小型FPD需要の飽和や後退

米中貿易摩擦に端を発する輸出入規制や関税強化により、中小型FPDの主軸の需要であるスマートフォンや自動車関連機器の生産が減速ないし減少するリスクが高まる。短期的には貿易摩擦による需要の後退、長期的には需要の飽和が重なり、中小型FPD市場は成長の限界を迎えつつある

供給過剰の状態が続く中小型FPD市場において、いかに需給の均衡化を図るかが産業全体の課題としてその対応が求められようとしている

3. 日本企業の原点回帰

中国メーカーが、パネルもセットもともに主導権を握りつつあり、日本メーカーは「蚊帳の外」となる状況が強まる。加えて短期的・中期的に貿易摩擦による携帯電話や自動車市場に対する負の影響の懸念は依然強く、成熟した市場規模に対し過剰となる供給能力に対しいかにバランスをとっていくかが今後の課題となっていく。

一方で、「貿易摩擦」に振り回されない為にも、改めて国内産業として「部品」から「セット」に至る一貫した「モノづくり」の体制を再構築するべきと考えられる。

中小型FPD市場の長期見通し

最後に、早瀬氏は、中小型FPDの長期見通しとして、「車載モニターに加えスマートウォッチ向けFPD需要の成長も拡大傾向にあるが、中小型FPD市場全体としては市場の中核となる携帯電話機需要が飽和の域に達しており、縮小が続く各種モバイル向けアプリケーションとよもに、全体の数量規模としては成熟市場の色合いを濃くする傾向となっている」との見方を示す中、スマートフォンのプレミアム市場を席巻する動きを見せている有機ELがTFT LCDとの差別化に成功しつつあり、今後も引き続きTFT LCDの需要を侵食しつつ成長を持続するとの予想を披露したほか、技術的に難易度の高い有機ELは価格下落の可能性も低く、中小型FPD市場の金額的な成長を牽引するものと期待されると、金額面でも影響を及ぼす可能性に言及した。

なお、市場規模として成熟市場の色合いが濃くなるものの、設備投資を続けた有機ELの供給能力は依然として拡大傾向にあり、長期的に有機ELはTFT LCDとの価格競争に挑み需要を獲得する必要から金額規模での縮小を余儀なくされるであろうとしている。

(次回は3月20日に掲載します)