暗中模索でがんばる先生たちが集合

小学校でICT活用に取り組む先生たちが全国から集まる「ICT活用実践研究教師塾2009」(以下、教師塾)が、2月14日、内田洋行のユビキタス協創広場 CANVASで開催された。独立行政法人メディア教育開発センターの中川一史教授が実行委員会を務める「ICT活用授業力ゼミ実行委員会(※1)」と、「ICT活用実践研究 中川塾実行委員会(※2)」との合同主催で実施されたものだ。

教職員を対象に開催された「ICT活用実践研究教師塾2009」は定員60名と聞いていたが、当日の参加者は明らかに100名を超えていた。共催はパナソニック教育財団、後援は独立行政法人メディア教育開発センター、内田洋行

すでにパソコンをはじめとしてプロジェクターなどの機器類やインターネット環境は整っているが、「これらをどのような授業で、どういったタイミングで活用すれば効果的なのか?」と悩む先生たちはまだまだ多い。また、積極的にICT活用に取り組んでいる先生たちでも、その実践の効果を自身で評価することは難しいため、実際に有効な活用が行われているのか、判断が付きにくいということも多々あるだろう。今回のイベントは、そういった状況で悩み努力している先生同士が集まり、「お互いに内容をシェアし、共に高め合って行こう」という目的で行われたものだ。

今回の教師塾では、「活用型学習を創る教師の授業力とICT」というテーマで半日かけて、2つの実践内容を題材にした討論会、12人の先生たちによるポスターセッション、総括パネルが行われた。

※1・2 「ICT活用授業力ゼミ」は関東圏の教師を中心に2カ月に一度行われているICT活用の勉強会。「ICT活用実践研究 中川塾」は、パナソニック教育財団(旧松下教育研究財団)のバックアップで、全国の情報教育に積極的な教師たちを対象にして行われたIT活用の実践研究(2004年~)。授業力、メディアの効果的な活用等を鍛えていくことを目的にしたe-Learning形式での1年に渡る研究活動を終えた卒業生たちが、情報交換をしながら実践研究を継続して行っている。

きびしい酷評も受けながら授業内容を検討

教師が集まる勉強会と聞くと、何となく静かな中での発表会が進む感じで、激論が飛び交うといったイメージは全くなかったのだが、このイベントは「教師塾」というだけあって、積極的に「教師に学んで帰ってください」という気合が感じられるものだった。

例えば討論会では、提案を行う先生のプレゼンテーションの後に、他校の教師4名がコメンテーターとなり、評価すべきところ、あるいは改善点の提案などを交えた討論を40分間行うのだが、これがなかなか辛口であり、やりとりも徹底していた。

数十名もの他の教師の前で自らの授業内容を発表した後、評価を受ける。なかなか厳しいコメントも飛び交うのだが、こうした場へのチャレンジも、教育に対する熱意があればこそと感じる

「メディア創造により試行錯誤する授業場面を設定した国語学習 ~くらしの裏ワザ番組をつくろう~」を題材にした、鳥取県米子市立成実小学校 石倉和幸教諭の提案は、以下のような内容だった。

  • 提案:鳥取県米子市立成実小学校4年生の、国語の単元である「くらしの百科の時間です」の学習時に、“メディア創造"を取り入れることによって授業改善を行う。
  • 単元のねらい:調べたことが分かり易く伝わるように工夫して話したり、正しく聞き取ったりできるようにする、手順や理由などが明確になるように、筋道を立てて分かり易く書くことができるようにする。

“メディア創造"を取り入れるというと何だか仰々しく聞こえるが、要は、単元の締めくくりで行われる「発表会」の代わりに、子どもたちに「ビデオ制作」を行わせるというものだ。それぞれの手法を比較して期待される効果を以下のように挙げていた。

  • 従来の発表会をターゲットにした学習法の場合、“基本的な技能の習得に期待ができる"
  • 「絵コンテ」と「紹介ビデオ」作成を行う学習法の場合、さらに“活用型に発展させることができる"

石倉教諭は、授業の様子からはじまって、6班に分かれてのテーマ決めから絵コンテ作りなどの流れを、撮影風景を紹介しながら説明して行った。撮影にはデジカメの動画機能を使い、Mac OS版「iMovie '08」で編集を行ったそうだ。

ICT活用の効果について石倉教諭は、「その場で自分の姿を確認して、すぐ修正をかけられる、やり直しができる環境を準備したことで、試行錯誤の場面をより多く作り出すことができた」「デジタル化のメリットはポートフォリオにもなり、多数に発信ができること、記録に残ること」などを上げていた。

討論会では、「デジタルを使ったら、ワンパターンでなくなるのか」「何回でも撮り直せるというのはメリットなのか」「子どもたちが試行錯誤できるほど、動画を通した多用な表現方法を知っているのか」といった激辛なコメントが挙がり、それに対して石倉教諭は「ICTを使うからというのではない。ICTは、むしろゴールに行きにくくなった時に、何度もできるパスポートではないか」と答えるなど、積極的な意見交換が行われていた。

実践徹底討論は2セッションに分かれて開催。別の部屋で行われていた「お米学習におけるメディア活用力と豊かな学びをめざして」でも、活発なディスカッションが行われていた

今回の討論会を聴講して、教育現場でのICT活用とは、ただ闇雲に推進を唱え、単に成功事例を真似て辿るものではなく、様々な先生方の視点から考えた工夫を、それぞれの単元に落とし込んで行く過程が必要なのだと感じた。そして、それぞれの授業でのICT活用を効果あるものにするためには、個々の先生たちの“授業力"が重要となる、ということだ。

次回は引き続き、ポスターセッションで発表された実例から、いくつか紹介していく。

中川一史教授:横浜市の小学校教諭、横浜市教育委員会情報教育課勤務、金沢大学教育学部 教育実践総合センター 助教授を経て、現、独立行政法人メディア教育開発センター教授。「情報教育に関する学習環境」「情報教育における小中連携カリキュラム研究」「産学共同プロジェク トの実践的研究」など、様々なテーマでの実践研究を行っている。最近の著書に「電子黒板が創る学びの未来新学習指導要領 習得・活用・探求型学習に役立つ事例 50」(ぎょうせい出版)がある