ネットの時流と共に変化してきた学校サイト
"学校裏サイト"、すなわち"小中学校の非公式サイト"の存在が問題視され話題となっているが、本来の公式サイトの現状にはなかなかスポットがあたりにくい。今回は"学校表サイト"の前向きな話題を取り上げてみたい。
2000年当時、「e-Japan構想」を背景とした取り組みの「学校のIT促進」のため、また「開かれた学校づくり」の一環として、全国の公立小中学校で"学校のホームページを立ち上げる"という流れがあった。パソコンやネット環境が珍しく、ブログやSNS、動画サイトなども存在しなかった時代から約10年、ネットの世界は激動した。2005年には、個人情報保護法施行の影響から、プライバシー保護を理由にホームページを閉鎖した小学校も出たのだが、その一方で、学校の差別化や地域社会との関係を深めるといった目的を持って、きちんとした情報開示を行い、情報教育に活用しようという動きが出てきたのもこの時期である。
確かに様々な危険性も秘めるネット上で、どこまでの内容をどのように「情報開示」するのかは、児童の身を預かる学校側としては難しい問題ではある。だが、ここ最近では、積極的に学校の様子や活動内容を公開し、学校を取り巻く様々な人たちのコミュニケーション作りの場の一つとして活用したり、また、子供たちと学校サイトとの関係を考え関わりを持たせることで、情報リテラシーの学習にも役立てたりしているという学校サイトが増えてきている。
「J-KIDS大賞(ジェイキッズ大賞)」と呼ばれる小学校ホームページコンテストの2008年度最終選考で、大賞を受賞した小学校のホームページを紹介しながら考えてみよう。
「J-KIDS大賞」は、慶応義塾大学の村井 純教授が「情報拠点として学校のホームページは、今後大切な役割を持つものである」として発案されたもの。賛同した保険会社の損保ジャパンが中心となって事務局を立ち上げ、IT企業を中心に協賛、協力を募る形で2003年より始まった。年々、賛同する企業や団体、ボランティアの数も増え、2008年12月に行われた「J-KIDS大賞2008年」で第6回目を迎えるまで至っている。
子供たちが自分たちの言葉で毎日情報発信
J-KIDS大賞を受賞した一宮市立瀬部小学校(愛知県)のホームページは、審査でも「情報の量と質が抜きん出ていた」と評価を受けただけあって、日によっては5件以上の情報更新が行われるほどの活発なサイトだ。学校のホームページというと、クラブや児童会の活動の様子を写真で紹介するといった内容が一般的だが、こうした学校行事を伝えるだけの更新作業でさえ、そうそう頻繁にはできないというのが多くの教員たちの実情だろう。
一宮市立瀬部小学校のトップページ。下方部分はカテゴライズされてブログ記事や交流のある地域クラブや他校へのリンクなどがあり、同校関係のポータルサイトになっている |
では、瀬部小ではこれほど多くの内容の更新をいったいどのようにして行っているのだろうか? 同校では、毎日の給食メニューを伝える「せべっこ掲示板」や、ホームページ作りや新聞作りの様子を伝える「パソコン委員の日記」など、児童たちがコンテンツをいくつも担当し、日々の更新作業を行っている。
トップページでは、地域との繋がり、調べ学習、交流コーナーなどがカテゴライズされ、ブログ内の注目記事に直接アクセスできるようにするなど、自分たちの学校のことや活動内容を伝えたいという気持ちが強く感じられるにぎやかなサイトだ。
また、サイトへの訪問者を配慮した細かい工夫もたくさん見られる。例えば、トップページの一番上に「アクセシビリティーに配慮し、文字を拡大して表示できます」と記載されており、クリック一つで最大200%までの拡大に対応している。その下には、翻訳サイトへのリンクを利用して、ドイツ語、ポルトガル語など6カ国語にそれぞれ翻訳変換したページが表示されるようになっている。
子どもたちが「おいしかった」などコメントを付けて毎日の給食を紹介。ブログを使って同校の子どもたちの様子を地域の人や保護者たちに向けて紹介 |
児童、教職員、保護者/地域を結ぶコミュニティサイトの役割も
文部科学大臣賞を受賞した人吉市立中原小学校(熊本県)のホームページは、デザインや構成で審査員を唸らせた。ブログの利用や動画を使った学校紹介など、今どきのネットサービスやアプリケーションを積極的に活用したサイトとなっている。審査では「児童の探求力、表現力、コミュニケーション能力が育まれている点」が評価を受けた。
総務大臣賞を受けた尾道市立土堂小学校(広島県)のホームページは、多くの児童が作成に関われるように『参加型』を意識している。デザイン性にも大変優れていて、見ていて楽しくなるサイトだ。こんな学校サイトであれば、昼休みにでも「我が子の学校の様子はどんなかな」とついつい覗いてみたくなるだろうと思う。
人吉市立中原小学校のホームページ。子供たちが案内する動画コンテンツを使って学校紹介。メルマガ配信や教職員のリレーブログなど学校全体の積極的な姿勢が感じられる(画面は3年生制作の「中原小コンシェルジュ」) |
尾道市立土堂小学校のホームページ。見た目のデザインも情報カテゴライズも整理されていて、同校関係者でなくともついつい覗いてしまうサイト |
経済産業大臣賞を受賞した寄居町立鉢形小学校(埼玉県)のホームページは、ブログをうまく利用した現代版サイトと言っていい。職員、各学年、児童会など主体別のブログ数は、18種もあり、更新も頻繁だ。見る側を意識してうまく情報を整理し、トップページに並べている。「鉢小日記(情報委員会)」「児童会日記(児童会役員)」「親心日記(PTA会長)」「チャレンジイングリッシュ(英語活動主任)」「ころばぬ先の杖(生活指導・安全指導主)」などブログのネーミングにもアイディアが光っている。子ども用ブログが4つあり、多くの児童が関われるようにしている。
寄居町立鉢形小学校は、18種のブログを使って積極的な情報発信を行う。学校サイトがコミュニケーションツールとしても活躍している様子が伺える。ウェジェットや動画ソフトをうまく使って見せ方の工夫も |
これらの学校では、パソコン委員会やパソコンクラブなどで活動する4年生以上のメンバーたちが、顧問の先生の助けを借りて運営を行っている。情報を取り扱うという発想からか、放送委員会や新聞委員会を中心として運営を行っている学校もあり、中には情報委員会という名称の委員会を持つ学校もある。受賞した子供たちに聞くと「自分の書いた記事にコメントを付けてもらうと嬉しくて、がんばろうと思う」という感想が多かった。
情報開示に積極的な学校ホームページでは、「個人情報保護ポリシー」をサイト上で公開するなど、姿勢を明確にしてネット上のモラルや安全面への取り組みにも積極的な様子が伺える。また、学校サイトが、地域、子ども、保護者、教職員を繋ぐコミュニティツール、あるいはポータルサイトとしての役割を担っていると見られる。受賞を受けた以外の学校も含め、子供が積極的にサイト作りに参加できる試みや工夫に取り組んでおり学校側の姿勢に審査員たちからは「次世代のICT人材育成の観点からも優れている」と高い評価を受けていた。
公式サイトが学びの場となっている
現代のICT教育の基盤として必要となるのは、パソコンや携帯電話を情報発信や情報収集ツールとして捉え、さらに「コミュニケーションツール」としてどう取り扱うかを考えさせることではないだろうか。ブログなど現在普及しているサービスをどんどん活用して、子供たちに"ネットの今"に触れさせることは、ICTリテラシーを育てる手段の一つだと考える。
自分たちの学校サイトを見る度に「アクセシビリティ」や「安全」という言葉を意識せずに感じ、ブログ上での他校とのやりとりや情報収集をしたりしながら、ネット上での情報の取り扱い方法を学ぶ。そして、ネットの向こう側にいる誰かに向けて情報発信を行い、他のクラスや学年、あるいは他校の子供たちから、地元のシニアクラブや保護者から、時には卒業生たちや海外からコメントを受けとることで、ネットというバーチャルエリアでの人との距離感を身に付けていっているのではないだろうか。
こうした様子を見ているとICTリテラシーを学ばせる"体験学習の場"として、「学校表サイト」を有効利用しない手はない。また、新しい世代との"距離感"を学ぶという意味では、教師や親、ネット社会や教育の問題に取り組む企業や国の関係者が今後取り組むべき課題を学べる場でもあるのかも知れない。
2008年12月、「第6回全日本小学校ホームページ大賞」(J-KIDS大賞2008)の授賞式の様子。「未来を担う小学生がインターネットを主体的・積極的に活用できる環境を醸成することで、情報教育の推進ならびにインターネット普及に貢献すること」を目的としてJ-KIDS大賞実行委員会(実行委員長:村井 純 慶応義塾大学環境情報学部教授)の運営の下、40の公的機関・企業・団体・大学などの協力により開催されている。日本IBM、日立製作所、シスコシステムズ、キヤノンマーケティング、マイクロソフト、NTTデータ、CSKシステムズ、日本HPなどIT関連企業の多くも毎年継続して協力、協賛を行ってきている。協力・協賛一覧 |