次世代メモリはSTT MRAMが最有力

既存の、高速だが不揮発性ではないDRAMや不揮発性だが低速のNAND型フラッシュメモリに代わる次世代高速不揮発性メモリにはFeRAM(高誘電体メモリ)、ReRAM(抵抗変化型メモリ)、PRAM(またはPCRAM:相変化型メモリ)、MRAM(磁気メモリ)などいろいろな候補があり、研究開発が続行しているが、IC KnowledgeはMRAMのなかでもSTT MRAM(Spin Transfer Torque Magnetic Random Access Memory:スピン注入型磁気メモリ)が最有力とみている。

STT MRAMは、電子のスピンによって生じる磁気モーメントを利用して磁性体の磁化の向きを変える。あとはMRAMの原理と同じで、磁化の向きを電気抵抗の違いに変換することでデータを記録する。従来の磁界書き込み型MRAMに比べて微細化に向いており、低コスト化、大容量化の潜在的可能性がある。 

既存のDRAMは、微細化がきわめて困難になってきたため、微細化の速度が落ちてきており、将来、長期的にはマルチレベルSTT MRAMへ移行するだろう。STT MRAMは書き換え回数や速度の点で申し分ないが、集積密度はDRAMのそれに達していない。このためMRAMは、将来、3次元化する可能性が高い。

最近のプロセッサ・アーキテクチャは、レジスタとL1、L2、L3キャッシュメモリを同一チップ上に搭載しており、キャッシュは簡単にSoC面積の半分を超えてしまう。これらのレジスタとキャッシュは一般に6トランジスタ構成のSRAMで回路設計されている。一方、STT MRAMは、1トランジスタ1レジスタ(1T1R)とインターコネクト層のメモリセルで構成される。このため、STT MRAMを用いれば、SRAMよりも占有面積が1/4以下に減らせる。STT MRAMは上層DRAM用の16nmプロセスにSTT MRAMモジュールを加えるとコストが6%上昇するとIC Knowledgeは予測している。 STT MRAMは、最上層のキャッシュを置き換えるだけの潜在能力を有している。

3D XpointメモリはNAND、DRAMと共存

IntelはMicronと共同で次世代不揮発性メモリ技術「3D XPoint Technology(3Dクロス・ポイント テクノロジー)」を2015年7月に発表した(図3)(注3)。3D Xpoint Technologyで主要なポイントは以下の3点であると両社は主張している。

  • NAND型フラッシュメモリに比べて、1000倍高速
  • DRAMと比べて、10倍高い記録密度
  • NAND型フラッシュメモリに比べて、1000倍長い書き換え寿命

図3 2D Xpointメモリの模式図。3Dトランジスタ技術を生かして、ワード線とそれと交差するビット線の間にメモリセルを垂直に配し、これを2階建て構造とすることで高密度化を図っている。メモリセルの正体は明らかにされていない (出所:Intel/Micron Technology)

(注3)3D XpointメモリをIntelは「Optane」、Micronは「QuantX」と別々のブランド名で発売予定であるが、その時期は未定で、量産は2017年以降になる模様である。Intelは2016年8月にシリコンバレーでOptane搭載のSSD試作品の公開デモを行った。1000倍高速などの表現はあくまでも目標値のようで、いまのところ実現はしていない。3D Xpointのメモリセルの正体を2016年8月時点でも公表されておらず、秘密のままである。

IC Knowledgeはこの新型メモリについて次のように推測している。

  • メモリアレイは2層で、メモリアレイは2X nm、その下のロジック部分は3X nmプロセスを使って製造されるだろう。
  • このメモリの原理は、Ovonics(オブシンスキー効果を用いた電子工学の一分野)で、具体的にはOvshinskyトランスファー・スイッチを有するPCRAM(相変化メモリ)と推測される。
  • このメモリを製造するためには2重露光を7回繰り返す必要があると推測される。
  • 集積密度をさらに増加するには、(1)リソグラフィでパターン縮小するか、(2)メモリ層を積み上げるか、(3)シングルビットからマルチビットに変更するかのいずれかの方法がある。このほかの可能性もあるかもしれない。
  • 3D Xpointメモリの製造コストは、3D NANDフラッシュメモリのそれよりも高く、この状況は今後とも変わらないだろう。DRAMの製造コストよりは低い。つまり、3D Xpointは今後ともDRAMと3D NANDフラッシュの中間のコストのままだろう(図4参照)。
  • 3D XpointはDRAMや3D NANDの相補技術であり、DRAMとNANDの中間に位置するストレージクラス・メモリとして使われるだろう。

図4 3D NAND、3D Xpoint、DRAMの相対的コスト比較。3D Xpoint(図中、灰色で表示)のコストは、いつまでもDRAM(青色)と3D NAND(赤色)の中間に位置する。縦軸はビット当たりウェハコスト、横軸は西暦(年) (出所:IC Knowledge)

先端デバイスはすべて3次元化へ

最後に、Jones氏は2020年以降の半導体技術動向を次のように要約して示した。

  • ロジックデバイスは、2020年代に向けて更なる微細化のめどが立っており、横型ナノワイヤさらにはそれを積み上げた3次元積層横型ナノワイヤへと移行するだろう(図5)。
  • DRAMの微細化の速度は遅くなってきており、長い期間をかけて3D STT MRAMへ移行する可能性が高い。
  • 3D NANDフラッシュは、2020年代にテラビットへと高集積される兆しが見え始めた。
  • 3D Xpointメモリは、DRAMおよび3D NANDフラッシュの対抗技術ではなく、相補技術である。いわゆるストレージクラスメモリとして使われるだろう。
  • 先端デバイスは、将来、すべて3次元化するだろう。

図5 横型ナノワイヤFETアレイの試作例 (直径8nmのSiナノワイヤを2本積層した構造) (出所:imec/VLSI Symposium 2016)