2016年7月に米国カリフォルニア州サンフランシスコで開催された半導体製造装置材料展示会「SEMICON West 2016」の併催講演会で米国の半導体技術動向調査および製造コスト分析企業であるIC KnowledgeのScotten W. Jones社長が次世代の半導体技術について調査会社の立場で示唆に富んだ講演を行った。今回の連載では、この講演内容を踏まえて、半導体技術の最新事情を読み解いてみたい。

熾烈を極めるロジック各社の先端技術ノード開発競争

次世代半導体デバイスの実現を目指して超微細化を追求する半導体メーカー(ファウンドリ含む)は、世界でほんの数社に絞り込まれてしまった。これら最先端プロセスを提供する半導体メーカーは他社より技術的優位性を強調した独自のロードマップを発表し、超微細化を象徴する独自の技術ノード名(注1)を宣伝するなど、微細化競争に拍車がかかっている。これらの数社は互いに競争意識をむき出しにして先を急ぎ、もはや他社と技術ロードマップをすり合わせするメリットがまったくない状況となり、従来からの国際半導体技術ロードマップ(ITRS)の存在意義さえも失わせてしまったほどだ

(注1):14nmや10nmとか言った微細化の指標として用いられてきた寸法のことを指す。最近解散したITRSは、"技術ノード"を最下層のメタル配線(M1)のピッチの1/2と定義していたが、それよりもはるかに小さな数値を使うロジックデバイス製造各社の独自の"技術ノード"を「ロジック業界ノード」と呼んで区別していた。ロジックメーカーが商売を有利に進めるために使っていることから、一部では「商用ロジックノード」とも呼ばれている。ITRSは、そのような技術ノードはもはや物理的な意味を失っていることから、長さの単位であるnmを取り去って、"14"や"10"といったように単なる無名の数で表わされた名札(name label)として用いるように指針を出していたが、ロジックメーカーもユーザーもメディアもだれも守ってはいない。結局は、ロードマップの存在意義が問われたITRS自体が消えてしまった。

彼らの用いる"技術ノード"はITRSの定義から乖離しており、物理的な意味を完全に失っていた。つまり、現在先端メーカーで製造されている16/14nmデバイスには、どこにもそんな特徴的な寸法の箇所は見いだせない。Fin FETのFin幅は10nm未満に加工されているので、技術ノードとして表わされる寸法は最小加工寸法でもない。先端プロセスを扱う半導体メーカーが勝手につけた呼称にすぎない。規則性があるとすれば、DRAM全盛時代の伝統?を引き継ぎ、技術ノードのほぼ7掛けの値を新たな技術ノードとしていることだ。技術ノードが最小加工寸法を表わしていた時代には、寸法を7割に縮小できれば面積は半分になるので、それが微細化の努力目標になっていたが、いまは微細化そのもののスピードが落ちており、技術ノードの進化とともに面積を半減できていない。

Intel、Samsung Electronics、GLOBALFOUNDRIES(GF)が14nmと呼ぶ一方で、TSMCは16nmと呼ぶプロセスの優劣は16や14という実際の寸法を表わしてはいない数字だけでは比較できない。16/14nmという表現は、その時代の同じようなレベルの技術ノードの総称として第3者が使っている呼称であって、当事者であるロジック各社は16nmか14nmのいずれかの呼称を用いている。32/28nm、22/20nmと言う表現も同様である。

図1 半導体ウェハ上に作られたダイの画像。微細化への投資に耐えられる半導体メーカーが数社へと減少した結果、ITRSが示していたロードマップは意味を失うこととなった