2000年代後半、仮想化という技術が、多くの企業そして多くのエンジニアの心を引き寄せ、IT プラットフォームの流れを大きく変えることになった。ただ、仮想化技術の進化は企業内のITを変えただけではなかった。それが、大規模なデータセンターと仮想化によってコンピュータリソースをサービス化したパブリックなクラウドの登場である。当時の私は、一部の制約と引き換えに徹底的な自動化と効率化がなされていくパブリックなクラウドの登場を身近で見ていたため、それを本物の"クラウド"だと信じ、「プライベートに"クラウド"なんてありえない」と感じていた。
では、一般的な企業のシステムはどうなったか?
"クラウド化"の検討はしつつも、その"自動化"には飛びつかなかった。外にデータを預けるというパブリックなクラウドのリスクが要因だという話も正しいが、インフラを担当しているエンジニアにとって、自分の思い通りになる自社内のインフラとの違いに拒否反応を示したのも事実である。自動化と標準化を徹底的に進めるためには"制約"も必要なのだが、その"制約=今までとの違い"が敷居を高くしてしまったわけだ。
そんな中、現実解の一つとして市民権を得たのがプライベートクラウドと言えよう。いきなり外に預けるのではなく、仮想化するだけでもなく、自社内で可能な範囲でクラウドを実現しようという流れだ。仮想化技術が既に身近にあったことも、プライベートクラウド導入への足掛かりになったことは間違いない。
私はというと、"プライベートなクラウド"を否定していては企業システムを語れないという事に気づき、「本物のクラウドから学び、企業システムをクラウドに近づけていけば、システムの運用は大幅に改善されるだろう」と考えるに至ってからは、プライベートなクラウド=身近なクラウドとして、自信を持ってメッセージを発信できるようになった。
さて、ここから本題に入ろう。
マイクロソフトの仮想化技術と言えば、Hyper-V である。
今はWindows Server 2008 R2というサーバOSの標準機能として提供され、標準の管理ツール Hyper-V マネージャが使いやすい事もあって、多くの企業で使われている。ただ、1台1台のHypervisor を個別に管理するだけではプライベートクラウドとは言い難く、複数のHypervisorやその上で動作する仮想マシンを一元的に管理する仕組みが必要となる。そこで出てくるのが System Center 2012 Virtual Machine Manager (SC2012VMM:2012年2月時点は開発中)である。
図1 : SC2012VMMとHyper-Vやその他のHypervisorの関係。複数のHypervisor を一元的に管理し、仮想マシンを適切な場所に配置したり、物理マシン間の移動・複製をサポートする |
SC2012VMMでは、仮想マシンの標準テンプレートをライブラリ化し、そこから迅速に仮想マシンを作成できる。また、仮想マシンを作るだけではなく、プライベートクラウド基盤を構築するための要素を兼ね備えた仮想化管理ツールとなっている。たとえば、以下のような要素を持つ。
ストレージの管理
- FC SANストレージを直接管理・分類し、SLAに応じた仮想マシン配置をサポート
ネットワークの管理
- フロントエンド、バックエンドなどのネットワークを管理し、仮想マシンに紐付け
- IPアドレスのプール化や仮想マシンへの配布
- ロードバランサーと仮想マシンの接続までもテンプレート化
クラスタの管理
- OSのフェールオーバークラスタ画面を表示せずに、Hyper-Vクラスタを管理
- クラスタ環境における、順次パッチ適用の自動化
物理サーバ管理
- Hyper-Vホストのベアメタル展開やSC2012VMMからの電源オン・オフ
マルチ Hypervisor の管理
- Hyper-Vに加え、VMware ESX(vCenter経由)やXenServer を管理
さらにSC2012VMMには、「動的最適化」という機能が追加された。この機能は、SC2012VMM自身が仮想化システムの稼働状態を監視し、仮想環境の運用を続けていく中で、特定のHyper-Vに負荷が偏ってしまった場合に、自動的に仮想マシンを別のHyper-Vに移動し、負荷を均一化してくれるというものだ。既にSCVMMを利用している方は、Operations Manager という監視製品との連携によって実現していた Performance & Resource Optimization (PRO)という機能をご存知だろうが、その一部をSC2012VMMのみで実現できるようにしたと言えよう。ちなみにPROは、仮想環境の負荷のみならずアプリケーションの特性を意識した最適化ができるため、System Center 2012シリーズでも提供を予定している。
図2 : SC2012VMMから実現可能となったリソースの利用状況レポート。SC2012VMM単体で動的な最適化を実現すべく、SC2012VMMは仮想環境のリソースの利用状況を情報として収集し、わかりやすく表示をしてくれる |
また、動的最適化の延長として電源管理の機能も追加されている。例えば20台のHyper-Vとその上で数百台の仮想サーバが稼働していたとする。システムが利用されることのない週末や夜中に、仮想サーバを5台のHyper-Vに寄せ、残りの15台をシャットダウンしておくことで、無駄な電力消費を抑えるという機能だ。再生可能エネルギーなどの次世代型の発電環境が軌道に乗るまでは、インフラ担当者もこのような機能をうまく利用しながら消費電力削減を検討していく必要がありそうだ。
プライベートクラウドの必須機能を備えたSC2012VMM
さて、これまでのおさらいも兼ねてSC2012VMMの全体像を見てみよう。
プライベートクラウドの導入を検討する企業にとって、基盤の重要性は言うまでもない。ただ、プライベートクラウドの最大のゴールとも言えるITのサービス化を意識するならば、利用者主導も避けて通れない。SC2012VMMは、基盤管理に加えて、利用者のためになる以下のような機能を提供する。
リソースの論理分割 (Cloud)
- 社内データセンターの論理分割と、柔軟なリソース配分
セルフサービスポータルの提供と権限委任
- 利用部門の担当者による直接的な仮想マシンの管理
- クウォータをベースとしたリソースの利用制御
サービステンプレートと社内PaaSの実現
- 複数の仮想マシンとその上で動くミドルウェア環境を含むサービスのテンプレート化
- IaaS → PaaS 化によるビジネスに必要なITの迅速な立ち上げ
これまでにない概念も含まれているため説明が必要だろう。
SC2012VMMでは、クラウドという論理境界を作れるようになっている。例えば、営業部クラウドや開発部クラウドといった具合だ。それぞれのクラウドには、CPU数やメモリ容量、仮想マシンの数を設定することができ、各部門の担当者は割り当てられた範囲内で自由に仮想マシンを作ったり削除したりできるというわけだ。各部門の管理者は、セルフサービスポータルを使って仮想マシンの管理を容易に行う事ができる。必要な時に必要な分だけ仮想マシンを増やせれば、ビジネスのスピードもアップすることだろう。
最後は、社内のクラウドをPaaSに変える、サービステンプレートという新しい機能を紹介しよう。SC2012VMMでは、複数の仮想マシンとその上で動くWebサーバやミドルウェア、そしてデータベースを、まとめて1つのサービスとして展開することができ、開発したアプリケーションをその上に展開するだけで迅速にシステムを稼働させることができる。
図4はWeb層とデータベース層、そして2つのミドルウェア層を含むシステムのサービステンプレートの画面である。それぞれの層には展開したい仮想マシンのテンプレート(VHD)やOSの設定、その上で動くミドルウェアやデータベースの設定などが組み込まれ、それらの仮想マシンがどのようにネットワークにつながるかも定義しておくことができる。また、この図の中にロードバランサーを追加することも可能になっている。そして、これをテンプレートとして活用できる、アプリケーション開発者に対してある程度の制約を設けることもでき、運用の標準化へとつなげていけることだろう。また、テンプレートのバージョン管理機能を利用すれば、稼働中のサービスに対してアップデートやロールバックも可能になるため、運用を意識したアプリケーションプラットフォームとして、これまでの仮想化を超える技術として注目され始めている。
このように、Hyper-VとSC2012VMMを利用すれば、仮想環境の管理を徹底させつつも、セルフサービスの推進など、利用者目線のプライベートクラウドに必要な要素が含まれている。もし、プライベートクラウドは敷居が高いと思っている企業があれば、セルフサービス機能付き仮想化基盤からスタートをしてみてはいかがだろうか。Hyper-V も SC2012VMMも評価版を使って容易にテストができるので、まずは触れてみていただければと思う。
Hyper-V の評価版 = Windows Server 2008 R2 SP1 評価版
http://technet.microsoft.com/ja-jp/evalcenter/dd459137.aspxSC2012VMM を含む、SC2012シリーズの評価版 (現在RC版)
http://technet.microsoft.com/ja-jp/evalcenter/hh505660.aspx
執筆者紹介
高添 修(TAKAZOE Osamu)
日本マイクロソフトにおいて、情報インフラ基盤、運用管理基盤、仮想化を含むDynamic IT戦略などを担当するエバンジェリストとして活動している。難しい技術を分かりやすく噛み砕き説明することが得意。普段から、個々のマイクロソフト製品/サービスに閉じた話しではなく、もう一段階上の大きな視点から技術を解説している。TechNet Blog「高添はここにいます」を好評執筆中。
System Center 2012、無償ハンズオン開催!!
今年前半のリリースが発表されている「System Center 2012」。そのSystem Center 2012(RC版)にいち早く触れられるハンズオンセミナーが2月28日、29日に開催される。セミナー名は「1時間で理解する、System Center 2012によるプライベートクラウド体験」。その名のとおり、運用の自動化機能をふんだんに取り込んだ「System Center 2012」を使って、プライベートクラウドを体験してみようという内容だ。
具体的には、「System Center Virtual Machine Manager 2012」によるサービスの作成と更新、クラウドの作成と展開、「System Center App Controller 2012」によるサービスの展開と仮想マシンの操作、「System Center Orchestrator 2012」によるランブックの実行といった項目が用意されている。
本連載で解説してきた内容を、実際に体感できる貴重なチャンス。興味のある方は、マイクロソフトのWebサイトから応募してほしい。
<開催概要>
■日時 : 2012年2月28日(火) 12:00 - 17:40 (1回40分、3回開催)
2月29日(水) 11:10 - 17:40 (1回40分、4回開催)
■場所 : 東京国際フォーラム Cloud Days Tokyo 2012 展示会場(「Cloud Days Tokyo 2012」の展示会場内)
■参加費 : 無料(要事前予約)
■主催 : 日本マイクロソフト
セミナー詳細、Webサイトはこちら >> http://technet.microsoft.com/ja-jp/cloud/hh828789