今後労働人口の大幅な減少が見込まれる中、「社員一人一人の力をもっと伸ばすことができれば」と考えている経営者も多いと思う。社員数を増やせない環境では、社員個々人の力を伸ばさない限り企業の業績を伸ばすのは困難だからである。社員の生産性向上に注目が集まるのも当然だろう。

そこで今回は、社員の生産性を向上させ組織を「増力化」するHRTechの活用を紹介してみたい。

1.「適材適所」配置で現在の組織を「増力化」する

「適材適所配置」と古くから言われるが、従来は感覚的な「適材適所配置」だったところ、現代はデータに基づいた「適材適所配置」へと変化しているように感じる。データに基づいて人材の配置を最適化できれば、本人の適性や指向性が考慮された配置になるため、社員のポテンシャルは最大限発揮され、生産性の向上につながる。では、社員の生産性を向上させる「適材適所配置」を実現するためには何が必要なのだろうか。大きく2つの方法があると筆者は考えている。

1つは、JOB型人事制度の導入だ。これには賛否両論あるかもしれない。だが、タレントマネジメントのようなシステムの機能を最大限生かすのであれば、JOB型人事制度の導入が望ましい。特にジョブディスクリプションをどこまで具体的に定義できるかが重要だ。

余談かもしれないが、年功序列を廃止し、仕事内容と報酬を関係付けすれば、一律の年齢で誰もが退職を迎える定年退職も不要になり、実力のあるシニアが活躍できるようになって、労働人口が減少する時代の労働力確保にもつながる。また、実力のある若手社員についても同様だ。勤続年数に関係なくジョブディスクリプションに定められた上位のポジションの業務を担当できるようになれば、昇進や昇給につながるのでモチベーションが向上し、さらに高いパフォーマンスを発揮する可能性が高い。これだけでも、社員の生産性向上につながる。

話を戻そう。詳細なジョブディスクリプションに記載された情報が活用するデータの一部になるので、ジョブディスクリプションの質が適材適所配置の精度を左右すると考えて良いだろう。

もう1つは、タレントマネジメントシステムの活用だ。詳細なジョブディスクリプションと従業員情報があれば、タレントマネジメントシステムの機能をフルに活用することができる。適正な配置を行う上で考えておくべき要素として、「経験」「実績」「性格特性」「評価」「資格」「スキルレベル」「キャリアプラン」「本人希望(指向性)」「異動履歴」「研修履歴」ぐらいは押さえておきたい。

それらの情報をベースに、ジョブディスクリプションにあるポジションに求められる条件とのマッチング度の高いメンバーをシステムで検索させ、その中からさらに適任者を絞り込む。活用イメージとしては下図の通りだ。

まずは、適正配置を行うために複数の条件で該当者を抽出する。

  • 検索画面から条件に合わせて該当者を抽出する

    検索画面から条件に合わせて該当者を抽出する

次に、該当者のうち、条件を満たす割合の高い人材から表示させ適任者を選択する。

  • 検索画面から条件に合わせて該当者を抽出する

    検索画面から条件に合わせて該当者を抽出する

まずは、会社として重要なポジションや影響力のあるポジションのメンバーの配置検討に活用し、徐々にその範囲を広げていくことによって、幅広く職務適性の高いメンバーを配置していくことが可能になる。このような適材適所配置を実現することで従業員のモチベーションを高め、ポテンシャルを引き出すことによって、現有戦力のパフォーマンスを最大化できるようになる。

2.「適材適所」な人材育成で将来の組織を「増力化」する

長期的な施策にはなるが、人材配置だけなく人材育成でも「増力化」は考えたい。上述の内容は現時点の情報によるマッチングで適材適所配置を実現するものであったが、各組織で将来中心となって活躍できる人材の計画的な育成も重要だ。選抜者の教育などを実施している企業も多いと思うが、その精度を高めたいと感じている方も多いのではなかろうか。そこで活用したいのが、AIによるポテンシャル分析とタレントマネジメントだ。

まず、AIに育成したい役職に必要な要件を分析させる。該当する役職で活躍している従業員の基礎情報をAIに読ませれば、その役職で活躍するうえで必要な要件を把握することができる。人間の判断で抽出した選抜者をそのAIで照合してチェックすれば、人間の選択をAIが補正することになり、将来その役職で活躍する可能性の高い人物を選抜する精度の向上につながる。前回は、採用で「ハイパフォーマー」を選別して採用判断を支援するAI活用を紹介したが、今回も同様の考え方だ。活用イメージも採用のハイパフォーマー分析と似ているため割愛する。

選抜者については、タレントマネジメントシステムを活用して長期的にフォローする。人間とAIで選抜した候補者をタレントマネジメントでプール管理し、定期的に9BOXなどで育成状況をチェックする。必要に応じて絞り込みや追加選抜を繰り返しながら、将来この重要なポジションの後継者に「いつ」「誰が」就任するのがベストなのかを可視化することにより、ハイポテンシャルな人材を計画的に育成することができる。具体的には下図の通りだ。

まずは、重要なポジションや影響力のあるポジションごとに候補者をプール管理する。

  • タレントプール一覧

    タレントプール一覧

将来の営業部長候補としてタレントプールに登録されているメンバーを確認。

  • 該当職種のタレントプール

    該当職種のタレントプール

ポテンシャルに対し成果が発揮できているかを定期的に確認するのが良いだろう。

  • 営業部長候補として選抜されているメンバー8名を9BOXに当てはめたイメージ

    営業部長候補として選抜されているメンバー8名を9BOXに当てはめたイメージ

そのあと、営業部長の後継者として「いつ」「誰が」就任するのが理想的なのかを確認する。下図の場合、現職の坂田氏が不測の事態などで急遽営業部長を外れる場合は大池氏が対応するが、1年から2年後に福田氏を昇格させる人選が理想的であると確認できる。

  • 営業部長の後継者を管理するイメージ

    営業部長の後継者を管理するイメージ

このように、計画的かつ効果的な人材育成を推進できれば、企業の柱となるポジションの人材を効率よく高いレベルで育成できるようになり、組織ならびに企業の戦力を増力化し、企業としての競争力や持続性を高めることにつなげることができるものと考えている。

今回は、HRTechを活用した「適正な配置による増力化」と「計画的な育成による将来の増力化」について紹介した。次回は最近話題の「人的資本経営」の実現を支援するためのHRTechの活用について紹介してみたい。