デジタルハリウッド大学大学院教授、ヒットコンテンツ研究所の吉田就彦です。このコラム「吉田就彦の『ヒットの裏には「人」がいる』」では、様々なヒットの裏にいるビジネス・プロデューサーなどの「人」に注目して、ビジネスの仕掛け方やアイデア、発想の仕方などを通じて、現代のヒット事例を分析していくコラムです。
第6回目のテーマは、AKB48にみるプロフェッショナルの復活
昨年末の「NHK紅白歌合戦」にも出場し、今や大ブレイク中の「AKB48」は、ご存じ秋元康さんのプロデュースで、昨年は日本の近代伝統芸能とでもいうべきアイドルというビジネスモデルを海外に輸出する試みをするなどユニークな活動が話題です。最近では、『日経エンタテインメント!』に20ページの特集をされたり、春のテレビ番組改編特番などでも引っ張りだこ。オリコンで初登場第1位の常連になるなど、まさにNo.1アイドルとなりました。
そのビジネスモデルは、「いつでも会えるアイドル」です。アキバの専用劇場に見に行けば彼女たちにいつでも会えるというのがコンセプトで、毎日行われている熱いステージを直に体感することができます。
この集団アイドルというコンセプトが初めて世の中を席巻したのが、1985年デビューのおニャン子クラブです。彼女たちはフジテレビの番組「夕焼けニャンニャン」から出てきた素人の女子高生集団でした。会員番号の歌などがあり、ファンが対象を選択できるアイドルグループとして、放課後の課外授業のような女子高生たちが人気になりました。仕掛け人のひとりは秋元康さんです。
その後1990年代後半に人気となったのはモーニング娘。(1998年デビュー)です。テレビ東京系の「ASAYAN」という番組の中の1コーナーのオーディション企画から出てきたアイドルスターです。彼女らの場合は少しプロっぽくなって、スターになるオーディション企画でつんくさんのプロデュースを受けて、デビューできるかどうかの過程をリアルなドキュメント風にあおって人気者になりました。
そして、2000年代に登場したのが「AKB48」(2005年活動開始)です。これは前述のように秋元康さんが再度仕掛けたアイドルグループで、今度はテレビというメディアを使わずに、萌え系が話題となっていた秋葉原の劇場という場をメディアとして仕掛けました。
このように、ほぼ10年という時間のサイクルで集団アイドルが螺旋状に進化して現在に至っています。田坂広志さんの「未来を予見する5つの法則」理論でいえば、第2理論「事象は螺旋階段を上るように進化する」という形で歴史は繰り返されたのです。
このAKB48のブレイクをビジネスの視点から見て思うことが2つあります。
ひとつは、田坂さんが言っているように流行は繰り返し入れ替わるという事実です。10年ごとという世代が切り替わるタイミングで同様のコンセプトのアイドルが世の中の人気者になったということと、私が「ヒット学」で提唱しているヒット法則3「常に新鮮な驚きがヒットを生む」の法則通り、新鮮さをキープできる賞味期限はあるということです。どんなに大流行しても今日の対空時間は10年が限度で世の中は飽きてしまうということです。しかもピークはわずか2、3年です。
2つめはプロフェッショナルの復活の予兆です。最近の音楽シーンではプロが仕掛けた作品やアイドルは、一部のマイナーなものを除いて稀有になってしまいました。ジャニーズ系は例外ですが、音楽のヒットトレンドは作られたアイドルのようなものではなく、歌手が自分で詩や曲を書くようなリアリティのある作品やアーティストが多く人気を得てきました。それはある意味、アルビン・トフラーが提唱したプロシュマー的なコンシュマーの存在が音楽業界にも影響を与えた現象です。
そんな状況で、仕掛け人である秋元プロデューサーは、秋葉原という場を利用して従来のアイドルという存在を復活させました。当然いつの時代にもアイドルニーズはあるものですが、秋葉原という場を使って「いつでも会いに行ける」という新鮮なコンセプトで成功させた結果は、まさに「プロフェッショナルの復活」です。今後ますます、コンシュマーが発言力を高め市場を握る傾向が強くなる中でのこの秋元プロデューサーの活躍は、ちゃんとしたプロの手になるものの復活を世の中に象徴的に印象づけました。
この現象だけを捉えて一概には言えないものの、コンシュマーが消費を握り、プロシューマーが存在感を増していく現代の日本のマーケットに、もしかしたらアンチテーゼとしてプロフェッショナルの逆襲が始まっているのかもしれないと感じるのです。一般人が文字通りコンシュマー・ジェネレイテッド・メディア(CGM)を使ってさまざまな意見を発信し、それを面白がる現代の風潮や、中途半端な素人に対して、プロが逆襲するという図式です。
そして、その緻密なプロの手による優れたものが、草食系という言葉に代表される保守的な若者に安心感を与え、みんなが集うところの拠り所になっているのではないかというようにも感じます。音楽シーンでいえば、一時隆盛を極めたインディーズシーンが今はまったく低迷しているという事実とも一致するものです。確かなものに拠り所を求める若者の帰属意識が、プロフェッショナルを求めているともいえます。
この「プロフェッショナルの復活」は、TwitterがブレイクするなどCGMが拡がる現在の日本に蔓延している一億総「言いたい病」と「聞きたい病」に対する時代の揺り返し現象なのかもしれません。
執筆者プロフィール
吉田就彦 YOSHIDA Narihiko
ヒットコンテンツ研究所 代表取締役社長。ポニーキャニオンにて、音楽、映画、ビデオ、ゲーム、マルチメディアなどの制作、宣伝業務に20年間従事。「チェッカーズ」や「だんご3兄弟」のヒットを生む。退職後ネットベンチャーのデジタルガレージ 取締役副社長に転職。現在はデジタル関連のコンサルティングを行なっているかたわら、デジタルハリウッド大学大学院教授として人材教育にも携わっている。ヒットコンテンツブログ更新中。著書に『ヒット学─コンテンツ・ビジネスに学ぶ6つのヒット法則』(ダイヤモンド社)、『アイデアをカタチにする仕事術 - ビジネス・プロデューサーの7つの能力』(東洋経済新報社)など。テレビ東京の経済ドキュメント番組「時創人」では番組ナビゲーターを務めた。
「ビジネス・プロデューサーの7つの能力」とは…
アイデアをカタチにする仕事術として、「デジタル化」「フラット化」「ブローバル化」の時代のビジネス・スタイルでは、ビジョンを「0-1創造」し、自らが個として自立して、周りを巻き込んで様々なビジネス要素を「融合」し、そのビジョンを「1-100実現」する「プロデュース力」が求められる。その「プロデュース力」は、「発見力」「理解力」「目標力」「組織力」「働きかけ力」「柔軟力」「完結力」の7つの能力により構成される。
「ヒット学」とは…
「ヒット学」では、ヒットの要因を「時代のニーズ」「企画」「マーケティング」「製作」「デリバリー」の5要因とそれを構成する「必然性」「欲求充足」「タイミング」「サービス度」などの20の要因キーワードで分析。その要因を基に「ミスマッチのコラボレーション」など、6つのヒット法則によりヒットのメカニズムを説明している。プロデューサーが「人」と「ヒットの芽(ヒット・シグナル)」を「ビジネス・プロデューサーの7つの能力」によりマネージして、上記要因や法則を組み合わせてヒットを生み出す。