デジタルハリウッド大学大学院教授、ヒットコンテンツ研究所の吉田就彦です。このコラム「吉田就彦の『ヒットの裏には「人」がいる』」では、さまざまなヒットの裏にいるビジネス・プロデューサーに注目して、そんな仕掛け人のビジネスの仕掛け方やアイデア、発想の仕方などを通じて、現代のヒット事例を分析していくコラムです。
第3回目のテーマは、Ustreamとダダ漏れそらの。
皆さんは、「ダダ漏れそらの」をご存知でしょうか?実は今、Webの世界で旬な有名人になりつつある人の名前です。今回のコラムは、その「ダダ漏れそらの」さんとUstreamというネットインフラのお話。なんだか、ちょっとITに偏っているように思われるかもしれませんが、実は、これからの時代のキーワードになるかもしれない話なんです。
「ダダ漏れそらの」とは誰なのか、実は若くて可愛らしい女性です。プロフによると1987年12月8日生まれといいますから、現在御年22歳。本名は佐藤綾香さん。れっきとしたソラノートという会社の広報社員で、HNが「そらの」さんです。
広報としてソラノートに入社した彼女は、同社が展開するモバイルコミュニティサービス「そらノート」の広報活動で、渋谷を練り歩いたり、秋葉原で綾波レイのコスプレでチラシを配布したり、ともかくお金がかからなくて話題が広がるプロモーションを日々考える毎日だったようです。
そんな彼女が、みんなの決断集積ブログ「ケツダンポトフ」を立ち上げ、Webカメラを片手に自分をさらしながら、チャットの訪問者に取材をするというとんでもないことを始めたことで、徐々にWeb上で話題となり、ダダ漏れ女子2号の称号を与えられてさまざまな人やイベントの映像取材を始めたときに大きく飛躍することになりました。2009年6月の「iPhone 3GS発売記念前夜祭」の取材では行列に並び、そこからWebカメラを使って中継して、過去最高の閲覧者数1,600人を記録して大きな話題となりました。
そんなことから、その存在を知られるようになった彼女は、その後、民主党の事業仕分けなどさまざまなイベントの生中継「ダダ漏れ」を行い、現場にいなくてもそこの模様をネットで見ることができるという、まるでテレビ中継人のような存在となりました。
実は、私とヒマナイヌの川井先生が、デジハリ大学院で昨年の秋に行ったTwitterの業界別ビジネス・セミナーでは、その模様をダダ漏れ中継していただきました。
また、果敢にもさまざまな人のインタビューも行っています。ネット系の旬な重要人物だけにとどまらず、有名人では、昨年の7月にあの堀江貴史さんや、10月には国民新党の亀井静香大臣、最近ではかまやつひろしさんなども登場しています。
はじめのころのインタビューでは、一般の人から「この内容はヒドイ」とか「何これ中学生がインタビューしてるのか」とかさんざんに言われていましたが、そんなことで彼女はめげません。どんどん突っ込んでいきます。しまいには、新宿大ガード下にいて英語の本をいつも読んでいるホームレスのおじさんにまでインタビューする始末です。すべてはプロフのキャッチコピー通り「体当たり」なので、どんどんぶつかっていきます。清々しいです。
そんな「ダダ漏れそらの」さんが、その存在を広く知らしめ、そのメディアとしての可能性を示してくれたのがWeb動画配信インフラ「Ustream」です。誰でも動画をUPしてライブ中継できるこのインフラサービス会社に1月29日、ソフトバンクが約2,000万米ドル(約18億円)を出資し、決算説明会を「Ustream」で中継したことで一躍注目企業になりました。そして、その存在意義を大きくクローズアップしたのが、そらのさんなのです。Webカメラを使ってどこからでもネット中継してしまうそらのさんの中継スタイルは、「Ustream」という便利なインフラによって実現したのです。あるITジャーナリストによると、そらのさんは「日本一有名なUstreamer」だそうです。
しかも、リアルタイム中継に親和性の高いTwitterの存在が、その可能性をさらに大きくしました。Twitterのコミュニティの拡がりにより視聴者を大量に確保することが可能になることからメディア価値が高まるからです。
昔から新しいメディアの進化と定着は、スターがそのメディアから誕生することで決定づけられてきました。古くは、テレビの力道山や大鵬などのスポーツヒーロー、ラジオの深夜放送文化では落合恵子さんなどのDJという存在、また、インターネット黎明時では電脳アイドルといわれた千葉麗子さん(通称チバレイ)といった具合です。
「Ustream」と「ダダ漏れそらの」。実はこの関係は、まさにメディアがブレイクするときのスターとの関係なのです。この「Ustream」というCGMのインフラ機能は、もしかしたらメディアそのものの未来を変えてしまうかもしれません。単なるITの問題ではないのです。そんな意味で、「ダダ漏れそらの」の今後は十分に注意してWATCHする必要があります。明日の日本の映像メディアを変えてしまうかもしれません。
そらのさんの活動は、そのユニークな「ダダ漏れ」いう言葉に象徴されるような映像メディアの機能性とニュース性の未来を感じさせます。また、そのネーミングセンスも秀逸で、それはヒット作りの重要な必須事項でもあります。Webにアップされている彼女のプロフの言葉使いにその感性は溢れています。
彼女は、自分のTwitterで先日こうつぶやきました。「今年はメディアが融合していきます。Twitter & Ust & TV & Radio & Magazine & Movie、全部実は2、3月に起こります。対立や孤立じゃなくて『融合』です。お楽しみに!」 - う~ん。ますます、目が離せません。
執筆者プロフィール
吉田就彦 YOSHIDA Narihiko
ヒットコンテンツ研究所 代表取締役社長。ポニーキャニオンにて、音楽、映画、ビデオ、ゲーム、マルチメディアなどの制作、宣伝業務に20年間従事。「チェッカーズ」や「だんご3兄弟」のヒットを生む。退職後ネットベンチャーのデジタルガレージ 取締役副社長に転職。現在はデジタル関連のコンサルティングを行なっているかたわら、デジタルハリウッド大学大学院教授として人材教育にも携わっている。ヒットコンテンツブログ更新中。著書に『ヒット学─コンテンツ・ビジネスに学ぶ6つのヒット法則』(ダイヤモンド社)、『アイデアをカタチにする仕事術 - ビジネス・プロデューサーの7つの能力』(東洋経済新報社)など。テレビ東京の経済ドキュメント番組「時創人」では番組ナビゲーターも務める。
「時創人」とは…
時代を動かす"ビジネス・プロデューサー"たちにスポットを当て、ビジネスの裏にある達人の能力から、現代を生き抜く智恵を学んで行く番組「時(じ)創人(そうじん)」。100年に一度と言われる不況、こんな時こそ必要なのが時代を動かす"プロデューサー"なのだ。番組では、敏腕プロデューサー・吉田就彦とテレビや舞台などで幅広く活躍する女優・井上和香をナビゲーターに、「日本を元気」にしていくさまざまな分野の"ビジネス・プロデューサー"たちを取り上げ、そのプロデュース能力に迫り、現代を生き抜く知恵や創造力を学んでいく経済ドキュメント番組。