初めまして。私は今回からこのコラムを執筆することになった吉田就彦と申します。私は、デジタルハリウッド大学大学院教授として、ヒット現象の研究をしていたり、ヒットコンテンツ研究所の代表として、企業への事業支援ビジネスをしています。さまざまな企業に対して、コンテンツ事業戦略やデジタルマーケティング戦略などを中心とした「ヒット作り」や、ビジネスを成功させるためのEQやNLPを取り入れたプロデューサー教育プログラムで「人作り」のお手伝いをしています。
このコラム「吉田就彦の『ヒットの裏には「人」がいる』」では、そんな私の経験や最新のビジネス事例などから、現在の日本におけるヒット作りのヒントを論じていきたいと思います。さまざまなヒットの裏には必ず「ビジネス・プロデューサー」というヒットの仕掛け人がいるもので、そのような仕掛け人の「仕掛け」や発想の視点などを通じて、ビジネス成功の結果としてのヒットを、主にマーケティングの視点から分析していきたいと考えています。
記念すべき第1回目のテーマは「Twitterと広瀬香美」。
今やTwitterは、まさに時代の寵児になろうとしています。このTwitterのことをあまりよく知らない方のために少し説明を加えると、Twitterは、140文字以内という短い文章で、その人の思っていることや感じていること、はたまた発見したことや新しい情報を「つぶやく」ことでネットワークが広がっていく、いわゆるCGM (Consumer Generated Media)といわれている無料のネットサービスです。
昨年、本人がやっていないことがバレてしまいましたが、オバマ大統領やマライア・キャリーなどの有名人がやっていたことで米国では大流行、日本でも元日から鳩山総理も始めて、昨年秋ぐらいからものすごい勢いでユーザー数を伸ばしています。
Twitter自体はその利用者数を発表していませんが、先週の『週刊ダイヤモンド(1/23号)』のTwitter特集によると、日本ではすでに500万人を超え、今年中には1,000万人の大台に乗ると予想されています。
そんなTwitterですが、そのヒットの裏にはさまざまな人がいるということが1回目のこのコラムのテーマです。
もちろん、このTwitterは、米国の一企業によるサービスで、その創業者はあのGoogleからスピンアウトした技術者たちです。彼らは何かおもしろいものを作ろうという思いからTwitterを作りました。その思いの先には、世界中の人がオープンな場で何かを語り、情報を共有し合うことで対話が生まれ、相互にコミュニケーションすることによって、世界が抱えているさまざまな問題を少しでも解決にもっていけるのではないか、という願いがあります。それが通じたのか、世界中でテロの現場や社会体制の裏にTwitterのつぶやきが入っていって、情報が共有化されはじめています。
そんなTwitterを日本に持ってきた会社がデジタルガレージです。日本で唯一Twitter社と資本業務提携しているネットベンチャー上場会社です。実は、私はポニーキャニオンを退社した後、1999年からそのデジタルガレージの副社長を務めていて、現在は退任しているもののかなり前からTwitterのことを知っていました。デジタルガレージの取締役でコーファウンダーの伊藤穣一氏が日本にこの「Twitter」を紹介したからです。彼の世界的なネットワークにより得た情報で、Twitterの可能性にいち早く目を付けてデジタルガレージが投資したわけです。まだ、海のものとも山のものともわからない時期に、です。つまり、Twitterの日本での成功の立役者の一人目は「伊藤穣一」、通称JOIといえます。
そして、そのTwitterを広く日本に広めることになったもう一人の立役者が、シンガーソングライターの広瀬香美さんです。彼女は「冬の女王」として、「ロマンスの神様」などのヒットを連発して大活躍しているアーティストですが、経済評論家の勝間和代さんからTwitterのことを教えられ、そのおもしろさに、ある意味無邪気にはまり、そして彼女のつぶやきがおもしろいことからどんどんフォロワーを増やしていきました。勝間さんのようなプロの使い手ともいえる人から、ネットに詳しくない一般大衆の代表として、その使い方を身をもって示してくれた魁(さきがけ)というわけです。
広瀬さんの「つぶやき」には、大きな特徴があります。第1に、彼女が少女時代のクラッシック音楽の練習で培ってきた癖による毎日コツコツ。第2に、彼女の歌の特徴でもある短いキャッチコピーのような、フレーズを曲に載せて作る曲作りに表れる短い言葉の表現力。そして第3が、彼女がつぶやくたびにみんなが感じる、彼女の人間的な温かさや応援してくれる人に対する感謝の気持ちです。
このような広瀬さんだからこそ、「Twitter」という140文字という短い文章の中に、人に何かを感じさせる「つぶやき」を入れ込めるのです。そして、その「つぶやき」が多くの人を巻き込み、「Twitter」の世界感を日本中に体感させたのです。
昨年末に私がデジタルハリウッド大学院で行った業界別Twitterセミナーで広瀬さんが急遽飛び入りで参加してくれたときに、広瀬さんのtweet(つぶやき)のことを話し、Twitterをうまく利用する秘訣は「人間性」だと言いました。デジタルのツールに表れる人間性がデジタルのツールを有効にしていくのです。
このTwitterの二大エバンジェリストについては、『音楽主義』という雑誌のコラム「吉田就彦のヒット学~ヒットの法則あるわけネエだろ!」にさらに詳しく書きましたのでご興味がある方はそちらをご覧になってください(Webでも見られます)。
ということで、本コラムの第1回目として「Twitter」の広瀬流極意を披露したわけですが、今度、私が司会を務める「時創人」というテレビのビジネス番組の放送の裏で、その番組に出演している私が、その放送を見ながら私個人のアカウントにてtweetするというイベントを行います。広瀬直伝の人間性のある「つぶやき」になっているかどうか、皆さんに御評価いただけると幸いです。私のアカウントは@narryy、当日のハッシュタグは#jisoujinです。皆さまのご参加をお待ちしてます。
執筆者プロフィール
吉田就彦 YOSHIDA Narihiko
ヒットコンテンツ研究所 代表取締役社長。ポニーキャニオンにて、音楽、映画、ビデオ、ゲーム、マルチメディアなどの制作、宣伝業務に20年間従事。「チェッカーズ」や「だんご3兄弟」のヒットを生む。退職後ネットベンチャーのデジタルガレージ 取締役副社長に転職。現在はデジタル関連のコンサルティングを行なっているかたわら、デジタルハリウッド大学大学院教授として人材教育にも携わっている。ヒットコンテンツブログ更新中。著書に『ヒット学─コンテンツ・ビジネスに学ぶ6つのヒット法則』(ダイヤモンド社)、『アイデアをカタチにする仕事術 - ビジネス・プロデューサーの7つの能力』(東洋経済新報社、2月末発売予定)など。
「時創人」とは…
時代を動かす"ビジネス・プロデューサー"たちにスポットを当て、ビジネスの裏にある達人の能力から、現代を生き抜く智恵を学んで行く番組「時(じ)創人(そうじん)」。100年に一度と言われる不況、こんな時こそ必要なのが時代を動かす"プロデューサー"なのだ。番組では、敏腕プロデューサー・吉田就彦とテレビや舞台などで幅広く活躍する女優・井上和香をナビゲーターに、「日本を元気」にしていくさまざまな分野の"ビジネス・プロデューサー"たちを取り上げ、そのプロデュース能力に迫り、現代を生き抜く知恵や創造力を学んでいく経済ドキュメント番組。