三菱重工は2021年11月8日、同社飛島工場(愛知県飛島村)において、H-IIAロケット45号機のコア機体を報道公開した。
機体はこのあと種子島宇宙センターへ運ばれ、今年12月21日に英国インマルサットの通信衛星「インマルサット6 F1」を載せて打ち上げられる予定となっている。
インマルサットは長い歴史と高い実績をもつ世界的な衛星通信事業者であり、インマルサット6 F1は同社にとって最新鋭の次世代型衛星の1号機となる。そんな“ロケットの目利き”である同社が、なぜ重要な衛星の打ち上げに三菱重工のH-IIAを選んだのだろうか。
今年で20周年を迎えたH-IIAロケットの概要から、45号機のミッション、そしてインマルサットがH-IIAを選んだ背景などについて、3回に分けてみていきたい。
H-IIAロケット45号機
H-IIAロケットは、宇宙航空研究開発機構(JAXA、当時は宇宙開発事業団(NASDA))が開発した大型ロケットである。2001年にデビューし、今年でちょうど20周年を迎えた。
H-IIAは、先代の純国産ロケット「H-II」をもとに、信頼性の向上やコストの低減を目指して開発。また、日本の安全保障を中心とする政府のミッションを達成するため、国内に保持し輸送システムの自律性を確保するうえで不可欠な輸送システム、いわゆる「基幹ロケット」に位置付けられている。
ロケットの全長は53m、直径は4m。機体は第1段と第2段、衛星フェアリング、そして固体ロケット・ブースター(SRB-A)といった部分から構成されており、SRB-Aの装着基数を2本ないしは4本、またフェアリングも3種類の中から選択して装着でき、中型衛星から大型衛星まで、さまざまな質量、形状の衛星の打ち上げに柔軟に対応できることを特長としている。
打ち上げ能力は、地表や温室効果ガスなどを観測する地球観測衛星が運用される、地球の高度数百kmを南北に回る太陽同期軌道(SSO)には最大約5.1t。気象衛星や通信・放送衛星が投入される静止トランスファー軌道(GTO)には最大約6.0t。また、2機の衛星を同時に打ち上げ、それぞれ異なる軌道に投入したり、地球のまわりから飛び出すような月・惑星探査機を打ち上げたりといったことも可能としている。
2001年8月29日に試験機1号機の打ち上げに成功したのを皮切りに、これまでに44機が打ち上げられ、6号機(2003年)を除くすべてが成功。打ち上げ成功率は約97.7%で、また7号機以降、38機が連続で成功しており、世界的にも高い信頼性を誇ることも大きな特長としている。
その高い打ち上げ能力や信頼性を活かし、気象衛星や準天頂衛星、情報収集衛星といった政府系衛星から、小惑星探査機「はやぶさ2」のような科学衛星、さらには海外の商業衛星など、数々の重要な衛星を宇宙へ送り届けてきた。
2007年には、JAXAから三菱重工へロケット技術が移管され、以来、三菱重工が衛星打ち上げの受注からロケットへの搭載、そして打ち上げまで責任をもって行う「打ち上げ輸送サービス」を手掛けている。
H-IIAロケット45号機のミッション
今回の45号機では、英国の衛星通信事業者インマルサット(Inmarsat)の通信衛星「インマルサット6 F1(Inmarsat-6 F1)」を打ち上げる。三菱重工にとって、海外顧客からの打ち上げ受注は5件目となる。
インマルサット6 F1は比較的重い衛星であることから、打ち上げにはH-IIA 204と呼ばれる、固体ロケット・ブースター(SRB-A)を4基装備した、打ち上げ能力が最も大きい構成を使う。なお、H-IIA 204の使用は今回で最後となり、その迫力ある姿も見納めとなる。
衛星フェアリングは「4S型」と呼ばれる、直径4mのシングル・ローンチ用の、最も標準的なものを使う。
今回公開されたのは、「コア機体」と呼ばれる、ロケットの第1段と第2段、およびその間をつなぐ段間部と呼ばれる部品である。公開された時点で、すでに飛島工場での機能試験を終了しており、出荷に向けた準備中にあった。
機体はこのあと専用のコンテナに収められ(「収缶」という)、11月12日に工場から出荷。そして船で種子島へわたり、16日に種子島宇宙センターに搬入される。
なお、IHIエアロスペースが製造するSRB-Aと、川崎重工が製造する衛星フェアリングはすでに種子島宇宙センターに搬入済みで、各部品の結合・組み立て、試験を経て、打ち上げに臨むことになる。
打ち上げ予定日時は、日本標準時2021年12月21日23時33分52秒から22日1時33分26秒の間に設定されている。打ち上げ予備期間は22日から2022年1月31日まで確保されている。打ち上げ時刻は予備期間を通して同じとなっている。
ロケットは打ち上げ後、SRB-Aやフェアリング、第1段機体を分離しながら飛行。第2段エンジンは2回に分けて噴射し、打ち上げから26分20秒後に衛星を分離、所定の軌道に投入する予定となっている。
なお、44号機では、ロケット組立棟から射点までの移動に、次世代ロケット「H3」用に開発された新型のロケット運搬台車(ドーリー)が使われたが、今回は従来からあるドーリーを使うという。
(次回に続く)