グループウェアの成り立ちと進化過程
グループウェアという製品分野が世に登場したのは1980年代後半のことだ。業務にまつわる各種の情報を部門/部署あるいは全社で共有することで、個々の社員および組織の業務効率向上を図るツールとして導入が広がっていった。
イントラ(社内)メールや会議室予約、スケジュール管理、電子掲示版といった基本的な機能を備えた初期のグループウェア製品はその後、業務データベース、ワークフロー、カスタム・アプリケーション開発、ナレッジ管理といった高度な機能を取り込みながら進化を続け、一大市場分野を形成していった。
製品分野の歴史は、大きく3つの時期に分けることができる。第1期は1980年代後半から1990年代後半で、ロータス・デベロップメント(現IBMの1部門)の「Lotus Notes」の普及によってグループウェアという名称が定着し、ノベルの「GroupWise」やマイクロソフトの「Exchange Server」といった競合製品が次々とリリースされていった。
第2期は1990年代後半から2000年代中頃で、インターネットの進展に伴い登場した、WebブラウザをクライアントとするWebグループウェアが人気を博し、ユーザー層を拡大した。サイボウズの「サイボウズ Office」やネオジャパンの「desknet's」などが牽引した低価格・短期導入・容易な操作性を売りとするWebグループウェアは、これまでIT活用を十分に行えなかった中小企業から多大な支持を集め、グループウェア市場の主流の一角を占めるに至った。
一方、Notes/DominoやExchangeなどのクライアント/サーバ型グループウェアはこの時期、Webグループウェアの勢いに押された感もあったが、持ち前の高いスケーラビリティやデータベース、CRM、文書管理システムなどとの高度な連携機能を売りに、大・中規模企業のニーズを満たす形で存在感を保った。
こうしてユーザー・ターゲットのすみ分けがなされた形にはなったものの、この時期、勢いに乗るWebグループウェアベンダーが、スケーラビリティを拡張した大・中規模企業向けのエディションを投入する動きも起きている。
第3期は、2000年代中頃に始まり今に至る、いわゆる成熟期である。主なトレンドは次節で紹介するが、モバイルデバイスやリモートオフィスへの対応強化や、ポータル、ソーシャルネットワーキングなどの技術の採用が進み、単なる社内情報共有ツールから、ビジネス価値につながるナレッジの創出や、企業内や企業間、グループ/パートナー間での情報共有を担う統合コミュニケーション/コラボレーション基盤と呼べるまでに製品分野の定義を広げている。
グループウェアの機能トレンド
成熟期を迎えたとは言っても、オープンソースソフトも含めたグループウェア製品分野は、機能や性能、提供形態などさまざまな面で今もなお進化を続けている。以下、現行の製品に見られる主な機能トレンドを挙げ、概観しておこう。
モバイル/リモート・オフィス対応の強化
客先や移動中の車内、自宅などから業務メールを返信したり、自社の業務システムにアクセスしたりするモバイル/リモート・オフィスのワークスタイルは、今や業種・規模を問わず一般的となっている。
主要なグループウェア製品はいずれも早期からモバイル対応を進めており、最近では、画面表示領域や動作可能なアプリケーションに制約のある携帯電話から、PCに近い操作環境を備えたスマートフォンに至る多様なモバイルデバイスで快適な操作を可能にするモジュールが標準ないしはオプションで提供されている。
リッチかつ軽快なエンドユーザー操作環境
ITリテラシーがあまり高くない社員も利用するグループウェアにおいて、操作性の向上は常に最優先テーマの1つとなっている。JavaScriptやAjaxなどのリッチクライアント関連技術を駆使した、直感的で軽快な操作性を実現したエンドユーザー環境は現在、どの製品においてもセールスポイントの1つとなっている。
カスタマイズ性に富んだポータル機能
2000年代初め、社内外の各種業務データをエンドユーザーのクライアントアプリケーション(またはWebブラウザ)に配信するEIP(企業情報ポータル)が、大企業を中心にもてはやされた時期があった。当時のEIPは高価で運用管理も決して容易とは言えなかったこともあり、広く普及するには至らなかったが、そのコンセプトや一部の機能は、現在のグループウェアに継承されている。
大半の製品では、「iGoogle」や「My Yahoo!」のようなインターネットポータルと同様の設定方法で、システム管理者やエンドユーザーがそれぞれの権限でポータルを容易にカスタマイズできるようになっている。
また、複数のWebサービス/アプリケーションのAPIを組み合わせることで自社のビジネス・ニーズに合致した情報やウィジエットをエンドユーザーのポータルに配信可能にするマッシュアップ機能も、ここ数年のトレンドと言える。
ソーシャル・ネットワーキング技術の採用
以前から、「グループウェアを導入したはいいが、会議室予約やスケジュール管理以外の機能を社員が積極的に活用してくれない」といった声がよく聞かれる。これには、サイバースペース上での情報共有やコラボレーションについて周知が足りていないこともあるだろうが、グループウェアのサーバに自ら情報を投入するステップがエンドユーザーにとって面倒であるという事情も少なからず影響していると考えられる。
そこでベンダー各社が目を付けたのが、情報投入のハードルが低く、暗黙知から集合知へと情報共有のスタイルの転換を促すソーシャルネットワーキング技術だ。2005年頃から企業でも注目されはじめたイントラブログやSNS、Wikiといったソーシャルネットワーキング技術がグループウェアの機能の一部として採用されていったのに加え、最近では、ソーシャルネットワーキング製品を単独で提供するベンダーも増えている。
コンプライアンスを意識したセキュリティ/運用管理機能
社内の機密情報も頻繁に扱うグループウェアであるから、セキュリティ面に細心の注意が払われるのは当然ではある。現行の製品はいずれも、コンプライアンスや内部統制の観点を踏まえたセキュリティ/運用管理機能を備えており、セールスポイントの1つとなっている。具体的には、セッションの暗号化や一元的なログ管理および簡易分析機能などが用意されている。
■クラウド・モデルのメリットを生かしたSaaS提供
情報共有/コラボレーション系アプリケーションは、ITリソースを社外に置くクラウド・コンピューティングとの親和性が高い分野だと言われている。Webグループウェア/グループウェア・パッケージをSaaS/ASPとして提供するモデルは5年程前から見られるが、最近のトレンドとして、ネオジャパンの「Applitus」やサイボウズの「サイボウズLive」、IBMの「LotusLive」のような、クラウド専用のサービスが多く登場していることが注目される。
ネオジャパンの「Applitus」で提供しているWebベースの勤怠管理システム「DAIM」の画面。業務アプリケーションまで、提供するアプリケーションの幅が広がっている |
各社のサービスに共通する特徴に、急変するビジネス・ニーズに対応して直ちにサービスの利用を始められる点や、社内のみならず、グループ企業間やグローバル企業の拠点間、パートナー/顧客企業間での情報共有/コラボレーションを可能にしている点など、クラウド・モデルならではのメリットを前面に打ち出していることが挙げられる。