グループ内での統一コミュニケーション基盤の構築に着手

大手ハウスメーカーであるミサワホームは、各地域のニーズに合わせた対応を行うために全国に数十の販売会社を展開している。各販売会社は組織規模も違い、必要に応じてそれぞれが情報システムを導入してきた。しかし、2010年下期のグループ目標としてIT戦略の見直しを行い、グループで統一したコミュニケーション基盤を構築することになった。

ミサワホーム単体の社員数は700名ほどだが、販売会社などを加えた連結ベースでの社員数は9000名を超える。高井戸本館(左)と、社内の執務風景(右)

条件となったのは、組織規模の違う各社に対応するカスタマイズが可能でありながら、統一したシステムが利用可能であることだ。また、出張時にも対応できるようにモバイル環境からのグループウェア利用も考えており、Webメール機能も必須としていた。

そうした条件の中、選択されたのが、サテライトオフィスが導入支援を行うGoogle Apps for Businessだった。

必要な機能をアドオンで追加できるのが魅力

ミサワホーム 企画管理本部 情報システム部長 兼 業務改革推進部 業務改革推進プロジェクト
宮本 眞一氏

「最初は従来から利用していたオンプレミス型のグループウェアと似たものを考えていました。単純に見た目が大きく変わったり、使い勝手が変わったりすることへの戸惑いがあったからです。また、コンシューマー向けのGmailなどは知っていましたが、Google Appsのセキュリティは大丈夫なのだろうかという不安もありました」と語るのは、ミサワホーム 企画管理本部 情報システム部長 兼 業務改革推進部 業務改革推進プロジェクトの宮本 眞一氏だ。

個人向けのサービスがよく知られているだけに、Googleのサービスに対しては「個人向けである」「そっけない」といったイメージもあったという。そうした懸念を払拭し、実際に求めているレベルでの利用が可能であることを示したのがサテライトオフィスだった。

「使い勝手がよいという話は聞いていたのですが、セキュリティについてもGoogle Apps for Businessなら十分に安全であることを知りました。当社では、社内ポータルにまずアクセスさせ、そこからサテライトオフィスの提供するシングルサインオンを経由することで、モバイル環境でも安全性が保てるようにしています」と宮本氏は語る。

ミサワホームでは2011年6月から検討を行い、同年秋に導入を決定。その後、約3カ月で運用構築を行い、2012年1月から全社的な導入を開始した。その過程で、システム担当者を中心に数百名規模での先行導入を行って使い勝手を確認するなど、初めてのパブリッククラウドであったため慎重に検討を進めたが、最終的には短期間でのスムーズな導入が完了している。

エンドユーザーの評判もよく管理負荷も大きく低減

導入にあたっては社内で説明会なども行い、準備を行った。しかし実際には現場ユーザーからの問い合わせなどは非常に少なかったという。

「若手社員を中心に、個人向けサービスの利用者が多くいました。彼らが現場でのサポート役に回ってくれたのです。思ったほど抵抗がなく、スムーズに使い出せたことで社内の評判はいいですね。Gmailの検索能力の高さは特に魅力的です」と宮本氏。

ミサワホーム 企画管理本部 情報システム部 システム推進課
木村 智子氏

一方で管理側の負担も大きく減った。従来はオンプレミスでシステム運用を行っていたため、サーバなどのハードウェアやネットワーク環境に対する保守作業が大きな負担となっていた。これが、クラウドサービスであるGoogle Appsに移行したことで、大きく軽減される結果となった。

「クラウドサービスの場合、万が一システム障害があっても、ユーザー側では何も手が出せません。そのことを不安視する声もあったのですが、今では社内でばたばたするよりも、プロが頑張っているのを待とう、という風に割り切ることにしています」と語るのは、同社 企画管理本部 情報システム部 システム推進課の木村 智子氏だ。

グループ各社の全員が、まず共通のポータルサイトにアクセスし、そこからシングルサインオンでグループウェアを使うという流れになったため、情報伝達は非常にスムーズになった。各販売会社が独自のポータルを必要としている場合には、Googleサイトを利用して部分的にカスタマイズできるテンプレートを用意。本社ポータルと各社のポータルをうまく使いこなせるように工夫している。

ミサワホームの社内向けポータルサイト。社員はここからシングルサインオンで各サービスを利用する。
(画面は一部網掛けをしています)

また、別の面で宮本氏が"大きな効果"とするのが、システムコストの変動費化だ。「(オンプレミスなど)固定費でやっていると、たとえ利用者数が減った時でも、その部分のコストは変わりません。使い方に合わせてコストが変化するという変動費にできたのは大きなメリットです。全社統一にしたこともあり変動費化も含めて2~3割のコストダウンになっているのではないでしょうか」と社員数の増減に柔軟に対応できるメリットを挙げた。

人事情報との連携でアカウント管理の一元化を目指す

今後はさらにGoogle Appsの活用を深めたいとしている。例えばすでに利用中ではあるが、Google Driveをさらに活用して社内のExcel書類をスプレッドシートに置き換えるといったことも検討している。

また、すでにiPadやiPhoneの活用も始まっているが、これも加速させたい狙いだ。「すでにモバイル端末からの利用はユーザーにとってはなくてはならないものになっています。今後は在宅業務への対応なども検討していきたい」と宮本氏。

このほかアカウント管理の自動化にも取り組んでいる。グループ全体で見ると、契約社員など人の出入りも多くあるためもともとアカウント管理には手をかけてきたが、それでも現状を即座に把握するのが難しいこともあるという。そこで、人の出入りを「給与」という面で捉え、本社が各販売会社の給与計算を代行することでグループ全体の人事情報を一元化し、このシステムとGoogle Appsのアカウント管理を紐付けることで自動化することを目指している。

「退職した社員には給与が発生しませんし、入社した社員には必ず給与が出ます。一番わかりやすく確実な切り口だと思います。現在は1万2000アカウントの管理を3人で行っていますが、自動化によって最終的には担当者を1人にするのが目標です」と木村氏は語る。

システム部門が考え方を転換するのが導入成功の鍵

導入を振り返って、宮本氏はシステム部門の気持ちや考え方にも触れた。「新しいソリューションを導入する際には、クラウドはセキュリティが不安だとか、機能やインタフェースがどうだとかいう話はありますが、実際にそれを不安がっているのはシステム担当者です。経営層からそのように具体的な指摘をされることはありません。システム部門が腹をくくるかどうか、というのが最初の課題でしょう」と語る。

実際に導入を行い、使ってみた立場からも大きな不足はないという。「パブリッククラウドは他ユーザーの試行錯誤が盛り込まれています。足りない機能はアドオンで追加できます。大事なのは現状との比較にとらわれるより、そのメリットに注目することです」と宮本氏は続ける。

また、すでにGmailなどの個人向けサービスが大きく普及している中、企業がGoogle Apps導入を行わなくとも、ユーザーが勝手に取り入れてしまうことも考えられる。なし崩しに利用されてしまわないために、企業側がきちんとした"形"で導入するのもひとつの対処方法ともいえる。

「使うならば、システム部門がきちんと管理した上で使ってもらわなくてはなりません。手の内で管理するためのGoogle Apps導入、という考え方も必要でしょう」と木村氏も語った。