急増するメールアカウントと転送データ量。付け焼き刃的にサーバーを増強しシステムを改良しても、数年で限界が見えてくる。出口の見えない状況に苦悩する。この負のスパイラルから抜け出すために、業務システム統括部が導き出した結論とは。

出口の見えないメールサーバー問題に見えた一筋の光明

株式会社マイナビ 業務システム統括部 薄井照丈

2012年初頭、逼迫するメールサーバーの問題を解決するために、株式会社マイナビの業務システム統括部 薄井照丈(以下 薄井)は、自社でサーバーを運営することを止めてクラウドに移行することを決めた。

クラウドであれば、サーバーに限界が来ても臨機応変に資源を増やすことが可能だ。また、万が一、故障や障害が発生しても、サービスの提供会社が24時間体制で対応してくれるためBCPの面から見ても有効である。

「例えば、4月に数百人の新卒が入社すると仮定した場合、現状ではサーバーのディスクやメモリを追加しなければならない。もしかすると、マシンそのものをリプレースする必要も出てくるかもしれない。しかし、クラウドであれば人数分のアカウントを追加すれば済みます」(薄井)

クラウドへの移行が決まれば、次の問題は、どこのサービスを利用するかである。薄井は早速、サービスの提供会社の選定に入った。だが、マイナビの要件を満たすサービスは、なかなか見つからなかった。これはマイナビのメールシステムが、やや特殊だったことも原因の一つだ。

マイナビでは、セキュリティ上の措置として、メールヘッダ情報を判定して配送する/しないを判断する配送ルールがある。このルールに対応できるサービスが見つからなかった。また、コストの問題もあった。マイナビの当時の従業員数は1,700人だが、実はグループメールのアカウントは約3,000あった。このアカウント1つごとに課金されてしまうと、大変な金額となってしまう。

もちろん、薄井としてもある程度の予算はかかるものと考えてはいた。だが、それは決して無尽蔵ではない。ましてや、アカウントへの課金は毎年発生するものだ。現実的に、とても呑める条件ではない。クラウドへの移行は、完全に袋小路に陥った。そこに朗報がもたらされた。それは、グループメールのアカウントと課金について相談していた「 Google Apps 」の代理店からもたらされたものだった。

Googleが持つ、豊富な資源と多彩な機能が問題を解決

「こうすれば、グループメールのアカウントは課金されませんよ」

そこで提示されたものが、「 Google Apps 」のサービスに含まれる「Google グループ」だった。これは、メンバー全員が情報を共有する、掲示板とメールを組み合わせたものだ。単純なメール転送アドレスとは異なるが、必要とする機能はほぼ備えているため利用には問題がない。何より、アカウントに課金されないという点は大きい。

懸案であった、配送ルールへの対応は、関連するサービスとの組み合わせで実現することもわかった。資源の追加についても、Googleであれば問題はない。早速、薄井は「 Google Apps 」の導入を決め、稟議を作成した。選定が決まった後は早かった。2012年8月、稟議を提出して間もなく導入が決定されることになる。

スピードを重視。段階を踏まず一気に移行

今回のような、大規模なメールシステムを移行する場合、リスクを回避するために古いシステムを利用しながら段階を踏んで移行していくのが普通である。実際、薄井もそのように考えていた。

「しばらくは古いサーバーで受信して、それをGoogle側に流すような手段を検討していました」

過去1カ月くらいはメールが残る状態にして、徐々に移行していく。当初はそうする予定だった。だが、そこで計算通り行かないことがわかった。グループメールにおいて、このような転送設定が上手くいかなかったのだ。おそらく、時間をかけて試行錯誤すれば解決する問題だったであろう。だが、システムの限界が目前に見えている状況では、そのような時間的余裕はない。

「であるのなら、いっそ思い切って、一気に移行してしまおう」

薄井はそう決断した。そして、2012年の12月には一部が、2013年2月には、すべてが「 Google Apps 」に移行されることになった。

地道な手作業の日々

短期間で、「 Google Apps 」への移行は成功した。だが、すべてがスムーズに行えたのではない。そこには業務システム統括部の、地道な努力があった。

移行に際して最初に行ったのがメールアカウントのクリーニングである。マイナビでは、毎年数百件ものアカウントが追加されている。一方、特定業務のためのアカウントではいつの間にか使われなくなったものもあり、クリーニングが必要だった。またグループメールについても、一定期間使用されていないようなアカウントはクリーニングの対象になった。なおこの作業は業務システム統括部員による手作業によって行われた。

「まず、実在するメールアカウントの一覧をエクセルで作り、メールを管理するメール台帳と照らし合わせ、利用状況と照合する。そんな作業が1カ月は続きました」(業務システム統括部 中村氏)

このようにクリーニングしたアカウントデータは「 Google Apps 」や関連サービスにCSVファイルで読み込ませることができる。だが、細かな設定までは流し込めない。となると、地道な手動設定も必要となる。様々な苦労を経て、システムの移行が完了した時の様子を薄井はこう振り返る。

「会社としては大きなシステムの移行でしたが、ほとんど裏で行われたことなので、多くの社員はそれほど気にならなかったようです。逆にいえば、みんながシステムの変更を意識せずに仕事ができていたということなので、我々にとっては成功だったといえるでしょう」

では、成功の瞬間、苦労を続けた業務システム統括部のメンバーの様子はどうだったのだろう。

「実は、意外と淡々としていました。メンバーの気質なのかもしれませんが。今、思い起こすと、打ち上げくらいすればよかったかな(笑)」

システムの移行は成功した。だが、実際に運用していくと想定外の事態もいくつか発生した。次回は、それがどのようなものだったのかについて紹介する。業務システム統括部の苦悩はまだまだ続くのだ……。

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