人口減少が叫ばれる中、実のところ、東京は23年連続で人口が増加しています。一方で日本全体の人口は減少を続けています。つまり、東京に人が流れていることを示しています。
ところで、ルーマニアは、大学教育を受けた若い就業者が西欧の国々へと渡ってしまうという構造的な問題を抱えています。そんなルーマニアが抱える課題に対し、ワイズファイナンスソリューションズ(Wise Finance Solutions SRL) 上席執行役員の宮垣雄貴氏は現地で解決に取り組んでいます。
今回、日本で外国人エンジニア派遣に力を入れているヒューマンリソシアの協力を得て、 宮垣氏に話を聞くことができました。同氏の取り組みは、東京集中を危惧する方や地方活性化を考える方にとって参考になるのではないでしょうか。
東欧におけるITハブ化を進めるルーマニア
聞き手: ルーマニアは「東欧におけるITハブ化」を進めていると聞きましたが、実際はどのような状況でしょうか?
宮垣氏: 「東欧におけるITハブ化とは、ルーマニア西部の中心都市であるクルージュ・ナポカ市長に就任したエミール・ボク(Emil Boc)氏が打ち出した市政目標です。ルーマニアは2007年にEUに加盟しましたが、公共インフラ基盤が西欧に比べて見劣りする中、国の経済発展を加速化させる新たな政策の必要性に直面していました。その結果、重厚なインフラ整備を必要としないソフトウェア産業興隆への集中的な環境整備に向け、こうした宣言に至りました。
ルーマニアはEUの極東地域に属し、西欧など他のEU各国と比べて、賃金水準が低いのが実状です。EUは、圏内での移動とそれに伴う就業の自由が保障されているため、大学教育を受けた若い就業者がドイツやフランスといった西欧の国々へと渡ってしまうことが、構造的な課題となっています。
このように、国内の労働市場が縮小することへの懸念から、ルーマニア政府は、高度技能型人材の国内定着を図る政策に取り組む必要に迫られたのです。
聞き手: 学校を卒業した若者がドイツやフランスに流出してしまうのですね。日本では全体の人口減少するなか、東京は人口増加を続けています。もしかしたら、ルーマニアがとった対策が日本の地方にとって参考になるかもしれませんね。
宮垣氏: 参考になるかはわかりませんが、ルーマニアは若い労働力の流出を抑えるため、2010年代前半から国家レベルでのIT教育政策を始め、国立大学を中心にIT系学部の設立が相次ぎました。このことが、ルーマニアでのプログラマーなどIT分野への人気の高まりの要因の1つとなっているようです。
以下の表を見ていただければわかる通り、2015年よりIT系学士課程修了者数が急増しており、プログラマーを目指しITを専攻する学生が急速に増えています。
EU圏をはじめとした他国への人材流出は、ルーマニアの国内産業の空洞化を引き起こした一方で、ITという新しい産業へと身を置いた人々の活躍を実現しました。その結果、ルーマニア人の国際的な評価向上に大きく貢献しているとも言えます。
例えば、ある米国高官は、非公式ながら、マイクロソフトで勤務する技術者の出身国の中で、ルーマニアの数が米国及びインドに次ぐと発言しています。これを受けてか、マイクロソフトでは、ルーマニア語を社内第2公用語とすることを検討しているという話もあります。これは、人口2000万人弱の規模である国であるにもかかわらず、注目に値する活躍と言えるのではないでしょうか。
また、いわゆるZ世代で頭角を現す楽しみな人材も出現しており、昨年米国で開催されたMicrosoft Officeの技能を競う国際大会で、ルーマニア人の高校生2名が金メダルに輝きました。このことは、東欧のITハブ化の若年層への推進、浸透具合を垣間見ることができる事例ではないでしょうか 。
聞き手: 確かに、ITは国家レベルでの産業育成において、他の作業より投資が少なくて済み、その分、産業の育成も速いですよね。ルーマニアはIT産業を伸ばすことで、若者の流出を抑えたのですね。
宮垣氏: はい。ルーマニアでは、ITスタートアップ企業が次々と生まれています。一度国外での仕事を経験した人材が、ルーマニアの経済発展における潜在性とスタートアップへの支援体制に目を付け、帰国後に事業を起こすケースも増えてきています。
例えば、アンチウイルスソフトウェア開発の担い手として2001年に誕生したBitdefender社は、西欧を中心に米系企業と競合するシェア争いを繰り広げています。同社は、ブカレストに仏系Thales社と共有する本社ビルを構え、今後サイバーセキュリティの国際的メーカーとなるべく事業を拡大しています。
eMAG社も、Amazonに追随する企業として、EC分野における巨大企業化への道を歩んでいると言えます。昨今では、ポーランド、ハンガリー、セルビア、ブルガリアといった周辺国にも進出するなど、中東欧圏において確立された地位を築いています。
そして、特に顕著に実績を伸ばしているのは、RPAソリューションを展開している、日本でもなじみがあるUiPath社ではないでしょうか。2005年の設立から急速な成長を見せ、20カ国以上に拠点を展開する企業にまで成長を遂げています。現在は本社を米国に移転し、2019年にはDeloitteにより北米で最も急成長を遂げているハイテク企業500(Deloitte Technology Fast 500)でトップに挙げられたほどです 。
聞き手: 素晴らしいですね。日本の地方都市でもIT産業を育成されているところが多いですが、それぞれ課題がまだあるように思えます。もしかしたら、IT産業の育成で成功したルーマニアにヒントがあるかもしれませんね。宮垣さん、ありがとうございました。