「ネットワーク型変化対応型」SCMの構成要件の一番目は「シンプルなプロセス」である。まず、これまでのSCMプロセスに見られる落とし穴を見ていきたい。
目前の問題にとらわれる
これまでのSCMプロセスは、それをサポートするITの機能や処理能力が不十分であったことから、どうしても人間の能力、特にその調整能力に頼るところが大きかった。ところが人間にはやっかいな特性もあり、どうしても目前の問題に注目してしまうようである。一方で、遠い将来に起こりそうな問題については気がついていても、後回しにしてしまう。
しかし、目前の問題については、コストのかかる対症療法に終始してしまい、根本的な解決は(時間的に)困難な場合がほとんどである。例えば、SCM担当者が遠方の倉庫で売上好調な商品の在庫が残り少なくなったことに気づき、明日出荷分を通常の船便ではなく航空便で緊急補充する、といったケースである。この対応は欠品の可能性を回避し、倉庫担当者に感謝されるに違いない。しかし、緊急補充という余分なコストが発生した上に、なぜ緊急で補充しなければならなかったのか、という原因の追究は後回しになっている。緊急補充の対応をしている間も在庫過少と緊急補充の問題は、あちこちで発生するので、緊急補充が必要となった原因は、結果的に放置される。つまり、SCM担当者は課題解決よりも問題対応に追われるという悪循環に陥ってしまう。
サイクルタイムにとらわれる
これまでSCMでは、計画サイクルタイムの短縮を目指してきた。
例えば、これまで月次で立てられていた生販在計画(以下、PSI計画)を週次で立案することにすれば、需要の変化をより早く供給側に伝えることができ、在庫の最適化と欠品の削減が図れる。計画サイクルタイムの短縮も、変化への対応を早くする方法の1つである。
しかし、この計画サイクルタイムは、SCM担当者の行動・意識に悪い影響を与える場合がある。まず、" PSI計画に必要なデータの収集"が計画サイクルによって行われるので、"サプライチェーン上の変化の検知"もこのサイクルに合わせて行われるようになる。なぜなら、次の計画サイクルまでの間は、変化を検知したとしても、それをPSI計画に反映する機会がないからである。
次に、この計画サイクルタイムの中に製販会議などの名称の"調整"の場が設定されると、サプライチェーンの問題対応や課題解決をこの"調整"の場に集約しよう、との意識が働く。なぜならば、この"調整"の場には関係者が一同に揃うので、合意・決定を得るのに好都合である。結果的に、SCMに関するあらゆる問題対応や課題解決の活動が計画サイクルに縛られることになる。
変化をトリガーとし課題解決に注力する
人による"調整"や計画サイクルタイムの落し穴に陥らないためには、サイクル化される業務プロセスにおいて、人による"調整"業務をなくし、さらにプロセス全体においても人の介在を最小限に抑えることが重要である。また、"サプライチェーン上の変化の検知"を常に行い、人はその変化をトリガーとした課題解決に注力するプロセスを定義すべきである。これが本稿でいう「シンプルなプロセス」である。
「シンプルなプロセス」の設計
「シンプルなプロセス」を実現するには、最新のITを最大限に活用することが必要である。
例えば、AIや高速演算処理は、ルーチンワーク化した調整業務からSCM担当者を解放し、ビックデータやIoTやAIはサプライチェーンを常に監視することを可能にする。言い方を変えれば、IT上の制約で人に頼る点のあった従来のSCMプロセスをITの進化に合わせて刷新するのである。
なお、この「シンプルなプロセス」は、以下のような特長を持っている。
- プロセスの後戻りがない
- プロセスの分岐・合流がない
- (組織・人・情報システムの都合で)本来は1つであるべき業務機能を複数の業務機能に分割していない
- "調整"や"調整会議"といった、内容のあいまいな業務がない。
また、以下の図1に週次計画業務におけるシンプルなプロセスの例を示す。
著者プロフィール
杉山成正(すぎやましげまさ)株式会社NTTデータ グローバルソリューションズ
ビジネスイノベーション推進部
ビジネストランスフォーメーション室
サプライチェーン担当
略歴
1963年京都府生まれ
神戸大学工学部大学院卒。中小企業診断士
メーカにて生産管理・生産技術・設備技術・新規事業企画等の業務に携わったのち、日系情報システム会社にてシステムコンサルタントに。
その後、外資系コンサルティングファーム、日系コンサルティングファームにてプロジェクトマネージャー、ソリューションリーダー、セグメントリーダーを歴任。
製造業における経験を活かし、業務改革、ERP/SCMシステム構築を中心に取組んでいる。