第1回第2回では、話題となっている画像生成AIや文章生成AIなどをはじめとした「Generative AI」(ジェネレーティブAI、生成AI)の概要や、それらがマーケティングやマーケターに与えるであろう影響、マーケティングにおける活用法などについて紹介しました。

今回は、AIやテクノロジーの進化によりマーケティングや広告クリエイティブに起きた変化と、その変化に対してマーケティング担当者はどのように対応してきたかについて、フィリップ・コトラー氏が提唱したマーケティング論も参照しながら解説します。これまでの歴史を振り返ることで、これからの時代にどう向き合うかを考えるヒントにしていただけたらと思います。

1990年代:インターネットの商用化・民営化

1992年、日本で初めてインターネットサービスプロバイダーがサービスを開始しました。その後、1995年にWindows 95が発売され、インターネットは徐々に一般消費者層に普及。世界中のあらゆる国・企業・個人間で容易かつ迅速に情報交換ができる状態となり、マーケティングは大きな変化の局面を迎えました。

多くの情報に瞬時にアクセス可能となった消費者は、世界の貧困や環境の持続可能性などに対する認識と関心を徐々に高めていきます。それに対し企業は、世界をより良い場所にしようとしていることを消費者の心に訴えかけるマーケティングを行う必要が生じてきました。

この手法は「エモーショナル・マーケティング」とも呼ばれ、スターバックスが掲げる「サードプレイス」、アップルが掲げる「クリエイティブ・イマジネーション」などがその代表例として挙げられます。「環境に優しい」「ECO(エコ)」などの言葉を用いて、企業が自らを"社会的責任を果たすブランド "と表現する傾向が見られ始めたのもこの頃です。

こういった背景から、「ブランド」「ポジショニング」「差別化」の3つがバランスよく実現できている状態がマーケティングにおける理想と考えられるようになりました。そして、それらを完全なものにするためのフレームワークとして提唱されたのが、「3iモデル」(ブランド・アイデンティティ、ブランド・インテグリティ、ブランド・イメージ)です。

この三角形が完成している企業は、「大きな意義がある企業だ」と消費者に感じさせることに成功したと言われています。インターネットの普及がマーケティングに与えた大きな変化は他にもあります。下の図は、1990年〜2000年代前半のインターネット広告の歴史をまとめたものです。

この時代は、従来のオフラインメディアとは全く異なる、新しい広告手法が次々に生まれました。常に最新情報をキャッチアップしながら、「インターネット上でいかに自社製品を知ってもらうか」「検索エンジンでどれだけ自社商品にたどり着かせることができるか」、それらについて常に考えを巡らせ、情報を設計することがマーケターの重要なミッションに加わっていったのです。

2000年代後半:モバイル端末の普及とソーシャルメディアの台頭

2008年、日本ではiPhoneが発売され、TwitterやFacebookの日本語版も登場しました。これらの浸透により、消費者は自らの体験やレビューをさまざまなプラットフォームに投稿できるようになりました。

その結果、商品やサービスの印象や使用した感想の共有・情報伝達が日常的に行われるようになり、リアル店舗でモバイル端末を使って価格を比較したりレビューや評判を確認したりと、膨大な情報の「集合知」にアクセスしてよりスムーズに自身の好みに近い購買意思決定を行うことが可能となったのです。

また、消費者同士が情報共有し、積極的につながり合うコミュニケーションが行えるようになった結果、かつて広告やマーケティングキャンペーン、専門家の意見を重視していた消費者の多くが、ソーシャルメディア上の「見知らぬ人」のアドバイスを信用するようになっていきます。企業が発信する情報やメッセージよりも、「Fファクター」(Friends=友達、Families=家族、Facebook fans=フェイスブックのつながり、Twitter Followers=ツイッターのフォロワー)の存在に信頼が置かれるようになったのです。

さらに企業側は、テクノロジーの進化によりWebマーケティングにおいて消費者の動向の推論や細かなセグメンテーションが可能となり、精度の高いターゲティングを行い消費者にアプローチできるようになりました。テレビCMや紙媒体の広告といった「面」でのコミュニケーションから、Web上において「点」に近いコミュニケーションができるようになったのです。

消費者とのタッチポイントが劇的に増えたことで、マーケティングの成功のカギは「Web上のコミュニケーションを通じて認知を高めること」「すべての潜在的なタッチポイントとカスタマージャーニーを理解し、消費者が他者への推奨行動を行うように促すこと」と捉えられるようになりました。コトラーも著書の『コトラーのマーケティング4.0 スマートフォン時代の究極法則』において、「マーケターは、消費者を“商品やサービスの魅力を伝える伝道者”とすることこそが理想である」と説いています。

2020年代:テクノロジーの成熟

2020年のCOVID-19のパンデミックは、人工知能、自然言語処理、センサー技術、ブロックチェーンなど、さまざまな技術の進化を加速させました。各国でロックダウン政策が実施され、フィジカル・ディスタンスの確保が推奨されたことで、DX(デジタルトランスフォーメーション)が急速に進展し、人々のライフスタイル、価値観、消費行動は大きく変化しました。

世界的にDXが加速する中、今後、「デジタル・ディバイド」(「デジタル化がもたらす可能性を信じている人々」と「そうでない人々」に分かれる状況)がより拡大していくことが予想されています。テクノロジーを活用したデータ分析や自動化などは、ビジネスにおける生産性や消費者の利便性を向上させる一方で、消費者の中に企業が行動や属性データを持つことによるプライバシー侵害やサイバー犯罪の可能性に対してネガティブな印象を持つ人々も生んでもいます。

こういった背景から、AppleやGoogleはサードパーティCookieの廃止をはじめ、ユーザーの行動データの収集の規制に動き始めています。そして、この影響により、マーケターはWeb広告の出稿において、広告プラットフォーム側のアルゴリズムによる最適化に依存するだけでは継続的な成果が望めなくなる可能性も出てきています。

そのため、現在マーケターにとっては、「消費者への配慮」とビッグデータやAIなどの「最新テクノロジーの活用による体験(UX)の向上」、両方の観点を持った上で消費者の声に耳を傾け、理解するためのアクションを起こすこと、そしてその上でコミュニケーションを設計することがより重要となっているのです。

このように、マーケターはこれまで時代の変化やテクノロジーの進化に都度対応してきました。そして今まさに、革新的なAIの登場によって変わらなければならないタイミングが来ていますし、いち早く新しいテクノロジーにキャッチアップし対応するマーケターこそが成果を生み出すことができると考えています。

第1回でもお伝えした通り、マーケター自身が画像生成AIを活用したり、AIと対話しながらクリエイティブを制作するデザイナーやライターといった専門家と上手に協業したりすることによって、広告クリエイティブを作るスピードを速め、複数立てた顧客のペルソナや訴求軸の仮説を検証する試行回数を増やし「顧客理解」を深めるといったことも可能な環境となりつつあります。

次回は、実際に画像生成AIを使ってWeb広告に使える素材を作り出すTIPSについてご紹介できればと思います。