第1回では、話題となっている画像生成AIや文章生成AIなどをはじめとした「Generative AI」(ジェネレーティブAI、生成AI)の概要や、それらがマーケティングやマーケターに与えるであろう影響を紹介しました。

今回は、Webマーケティングにおける「Generative AI」の活用法について、具体事例も交えながらお伝えするとともに、今後のマーケティングやマーケターに影響を与えるであろう「Generative AI」以外のAI技術を紹介します。

画像生成AIを活用して制作したFacebook広告、クリック率1.8倍の結果も

弊社では、マーケター向けにWeb広告のプランニングおよびAIを活用した広告クリエイティブ(LP[ランディングページ]・バナー・動画)の制作・改善を月額定額制で提供するサービス「AIR Design」を展開しています。

そのAIR DesignのFacebook広告で、元々は以下画像の左側のバナーを使用していました。しかし、このバナーに使用しているロボットの画像がフォトストックサービスの素材だったことから、他社サービスでも同じ画像を使用した広告が展開されており、弊社ではオリジナルの素材を使用することで差別化を図りたい思いがありました。

そこで、AIR Designでの画像生成AIの活用に向けてさまざまなテストや研究を行っていたメンバーが、画像のモチーフ・構図・テイスト・背景といった視点で生成したい画像の方向性を決め、画像生成AI「Midjourney」を活用して新たにロボットの画像を生成しました。

以下の右側の画像は、そのMidjourneyで生成したロボット画像に差し替えたバナーです。この右側のバナーで試験的に運用を行ったところ、厳密なABテストではないため表示回数などは同一ではありませんが、Midjourneyで生成したロボット画像に差し替えたバナーの方がCTR1.8倍の成果が出たのです。

第1回でお伝えした通り、画像生成AIは「プロンプト」として文章を入力することで、その文字列の内容に沿った画像を生成してくれます。自分の理想により近い画像を生成するためには、多種多様な文字列を大量にプロンプトとして入力する必要があり、この複雑なプロンプトを探ることが画像を生成する工程の中でも特に大変な作業の1つです。

画像生成AIに限らず、Generative AIを使いこなすためには、生成したいコンテンツを生成するためのプロンプトを作り上げるテクニック「プロンプトエンジニアリング」のスキルを高めることが重要です。

  • 左:当初、テスト・研究メンバーではない者が、画像生成AI「Stable Diffusion」のWebサービス・DreamStudioにてロボット画像の生成にチャレンジ。なかなかうまく行かず、少し怖い印象のものしか生成できなかった 右:その後、テストや研究を行うメンバーがサポート。試行錯誤しながら、様々なかわいらしいロボット画像をMidjourneyにて生成。

現在は、AIで生成された画像とそのプロンプトをまとめた「KREA」「Lexica」といったデータベースや、プロンプトの販売・取引ができる海外サービス「PromptBase」といったものもあるので、実際に生成したい人はぜひ参考にしてみてください。

キャッチコピーやLPの見出しなどの広告テキストは「文章生成AI」で

「文章生成AI」は、「言語モデル」「深層学習」という大きく2つの技術から成り立っています。

「言語モデル」とは、ある単語列の次にくる単語を確率分布で表したモデルで、大量のテキストデータを学習することで文章の生成ルールを抽出するものです。「深層学習」は、人間の脳を模倣したニューラルネットワークを構築し、データを学習させることで、人間が行うタスクを自動化できる技術です。深層学習を活用することで、文章生成AIはより自然な文章を生成可能になります。

現在、OpenAI社が開発したチャット形式のサービス「ChatGPT」が、さまざまな使い方が可能なことから大きな話題となっています。例えば、「入力した質問に対して数秒で文章を生成し回答」「元の文章の語調を変化させる」「文章の要約並びに要約の文章化」「キャッチコピーの生成」「コードの生成」「創作(小説のアウトラインの作成)」「画像生成AIで画像を生成するための文章の生成」などに活用することができます。

「ChatGPT」には、2022年初頭にトレーニングを終えたGPT-3.5というシリーズの言語モデルをベースに微調整を加えたAIが活用されています。そして「Chat GPT」も、画像生成AIのサービスと同様、メールアドレスの登録によりアカウントを作成することで使えるようになっているため、例えばキャッチコピーを考えるヒントをもらうなど、業務効率化に役立てることができます。

日本では2022年6月に、OpenAI社が提供する自然言語処理モデル「GPT-3」を活用したAIコピーライティングサービス「Catchy(キャッチー)」がリリースされ、大きな注目を集めました。「Catchy」も、広告のキャッチコピー・記事のタイトルや見出し・LPの見出し、GoogleやSNS広告のタイトル・説明文など、140パターン以上のさまざまな種類の文章をAIが生成してくれます。

  • Catchyで出来る文章のアウトプット例

Generative AIを組み合わせることで、自社専属モデルやその動画コンテンツ制作も可能に

こちらの画像をご覧ください。

この女性のモデル、実在する人物のように見えますが、実は弊社研究メンバーが画像生成AIで生成した架空のモデルです。

また、イスラエルのAI関連企業Studio D-IDが2022年12月14日に発表した、テキストを打ち込むことでアバターやアニメーション作成を行えるプラットフォーム「Creative Reality Studio」を活用すると、この架空のモデルに話してほしい内容をしゃべらせることもできます。

こちらは、AIで生成した架空のモデル画像を「Creative Reality Studio」にアップロードし、話してもらいたい内容をテキストで入力することにより生成した、AIR Designのサービス説明動画です。たった5分程度で完成しました。

話してもらいたい内容をChatGPTで生成することで、より効率的な制作も実現可能

このように、Generative AIを組み合わせることによって、自社専属モデルを生成したり、そのモデルを活用した広告や動画コンテンツも簡単に作成したりできるほど、Generative AIの技術は発展を遂げています。

今後カギとなるのは、「自動判定器」のようなAIと「クリエイティブの定量化」

Generative AIは、画像や文章などをスピーディーかつ大量に生成してくれます。しかし、その中でどれを活用するかは、現状、人が自身の価値観で判断する必要があります。

特に画像生成は、個々人が生成しSNS上にアップしている画像を見ても分かる通り、入力するテキスト次第でクオリティが大きく左右されます。つまり、圧倒的にコストと時間がかからないメリットはあるものの、全てがハイクオリティ・ピクセルパーフェクトではないというデメリットもあるのです。

また、広告クリエイティブをはじめ、ビジネスにおけるデザインや制作物には目的があり、その目的に合致するものを的確に作り出したり、大量に生成された中から選び出したりする技術がなければ、逆にコストがかかってしまう可能性もあります。そこで重要になるのが、AIが生成したものの良し悪しを評価する、いわば自動判定器のようなAIです。

この「自動判定AI」を作るためには、定量的に点数などのスコアをつけた大量のデータを学習させることが必要です。加えて、スコア化のためには、価値基準が曖昧である「クリエイティブの定量化」を行うことが必須となります。パッケージデザインの分野においては、1000万人以上の好意度やデザインに対するイメージなどの学習データをもとにデザイン評価を行う「パッケージデザインAI」といったサービスも出てきています。

弊社の「AIR Design」でも、マーケティングに効果のあるデザインを定量化し、制作したLPやバナーを約160項目で採点した上で顧客に提供しており、今後はその採点の自動化も行う予定です。

スピーディーかつ大量に生成した画像や広告コピーを「判定器」にかけてフィルタリングが行えれば、効率よく目的に合致したクリエイティブを制作できるようになります。そうなれば、マーケティングに携わる人々は、人間にしかできない顧客理解など、本質的で生産的なことに時間を使える未来が訪れると考えています。