画像生成AIは、文章(プロンプト)を入力したり生成したいラフ画をアップロードしたりすると、それに沿った画像を生成するAIで、多くの方がさまざまな画像を生成してSNSなどに投稿しています。そのハイクオリティさに、「AIの発想すごい」「もう私が絵を描かなくていいんじゃないか?」といった声も多数上がっています。また、雑誌の表紙や小説の挿絵、漫画、楽曲のジャケット、ミュージックビデオなど、ビジネス・クリエイティブな領域で、画像生成AIが活用される事例も多数出てきています。

文章生成AIは、入力した質問に数秒で文章を生成し回答したり、「◯◯風の文章にして」と指定すると語調を変化させたり、キャッチコピーや記事の生成、文章の要約や要約文の文章化、コードの生成等、さまざまな文章を生成できます。ビジネスにおいては、Web広告で、AIが生成したキャッチコピーが人間が考えたものに勝ち、獲得単価が半減するといった事例も見られます。

そこで本連載では、こういったAIやテクノロジーの進化により今後のマーティング・広告クリエイティブはどう変わっていくのか、また、その変化に対してマーケティング担当者はどのような対応をしていくべきかについてお伝えしていきます。

初回の今回は、話題の画像生成AIや文章生成AIがマーケティングに与えると考えられる影響と、これからの時代のマーケターが実践すべきことについて、解説します。

加速を続けるAI分野の発展

2000年代初め、人工知能の社会的ブームである「第3次AIブーム」が起こりました。この背景には、大量のデータ、いわゆるビックデータを用いることで、人工知能(AI)自身が知識を獲得する「機械学習」が実用化されたことや、知識を定義する要素(特徴量)をAIが自ら習得するディープラーニング(深層学習)の登場があります。 その後もAI分野の発展は加速を続けており、AIや機械学習(ML)の分野では、この約2年の間に月あたりの論文数が指数関数的に増加しています。

  • 出典:Predicting the Future of AI with AI: High-quality link prediction in an exponentially growing knowledge network

AI技術の発展は今後、より広い領域に影響を及ぼすことが予想されますが、「画像生成AI」や「文章生成AI」の登場によって、マーケティング領域にはすでにその波が来ているのではないかと弊社は考えています。

そもそも「画像生成AI」「文章生成AI」とは何なのか

話題となっている「Midjourney」「Stable Diffusion」「DALL・E 2」などの画像生成AIは、膨大な画像と言語のペアの学習済みモデルで、生成したい画像を文章で入力したり、ラフ画をアップロードしたりすると、数十秒で画像を生成してくれる技術です。

  • Midjourneyで生成した画像(左)、Stable DiffusionのWebサービス「DreamStudio」で生成した画像(右)

左の画像のプロンプト:PhotoReal,hyper quality,highly detailed,elaborate,dof,wide angle,Full Body,young japanese business woman wearing a casual fashon in a modern office color image, 右の画像のプロンプト:color photograph portrait of a woman, washing her face, a professional photograph,|

OpenAI社の「DALL・E2」は、2022年4月に研究者・専門家向けに提供が開始され、7月には一般向けベータ版も公開されて順番待ちリストに入っているユーザーが順次利用できるようになりました。

そして同じく7月に、Midjourney社から「Midjourney」のオープンベータ版が公開。チャットツール「Discord」のアカウントを持つ人であれば誰でもDiscord上で画像生成を行えるようになり、多くの方が自身で生成したクオリティの高い画像をSNSに投稿し、話題となりました。

また、8月末には、Stability.AI社から「Stable Diffusion」がオープンソースで無料公開され、さらに大きな注目を集めています。

現在、MidjourneyはDiscordのアカウントの作成、DALL・E2およびStable DiffusionのWebサービス「DreamStudio」はメールアドレスの登録などを行うことで使えるようになっています。また、Stable Diffusionはオープンソースで公開されているため、Stable Diffusionを開発しているStability AI社以外がiOS/Androidアプリを開発したり、LINEの友達追加をすることでLINE上にテキストを打ち込むと画像を生成できるサービスを展開したりしており、誰でも簡単に画像を生成することが可能となっています。

  • 「Stable Diffusion」のWebサービス「DreamStudio」。メールアドレスの登録、もしくはGoogleかDiscordアカウントを連携してログインすると無料トライアルとしてクレジットが付与され、そのクレジットを使用することでテキストから画像が生成できる(クレジットを消費した場合、追加購入も可能)

「文章生成AI」に関しては、現在、入力した質問に数秒で文章を生成し回答したり、元の文章の語調を変化させたり、コードの生成や創作(小説のアウトラインの作成)等ができる「ChatGPT」というサービスが注目を集めています。こちらは、OpenAI社が開発したチャット形式のサービスで、2022年初頭にトレーニングを終えたGPT-3.5シリーズのモデルをベースに微調整を加えたAIが活用されています。*

  • https://openai.com/blog/chatgpt/

「画像生成AI」「文章生成AI」の登場がマーケティングやマーケターに与えると考えられる影響

画像生成AIや文章生成AIの登場は、デザイナーやイラストレーター、ライターをはじめとしたクリエイティブ領域に携わる人々に影響を与えていることは想像に難くないですが、マーケティングやマーケターにも影響を与えると弊社は考えています。

これらAIの登場により、マーケターには大きく2つの方向性が出てきていると思っています。1つは、直接AIツールを操作しながらクリエイティブを作っていくマーケター。もう1つは、AIと対話しながらクリエイティブをつくり上げるデザイナー・ライターなどの専門家と上手に協業していくマーケターです。

これまでマーケターは、1.0、2.0と時代に合わせて進化してきました。「マーケター1.0」は、テレビCMやチラシがまだ全盛だった頃のマーケターを指します。彼らはプロモーションにおいて、GRP・定量調査などを指標に、オフラインの4大マスメディアへの出稿によって顧客の認知や好意度を上げ、露出の際のコンセプト設計のために顧客と向き合ってきたマーケターです。

「マーケター2.0」は、インターネット普及後のWeb広告中心の時代のマーケターです。Webデザイナーにクリエイティブ制作を依頼し、Webデザイナーがフォトストックサービスなどを活用しながら制作したデザインをGoogle広告などに出稿してユーザーにアプローチを行い、CTRやCVRの数値で効果を判断してきました。

マーケター2.0は、デジタルマーケティングにおいて多くのデータ・数字が追えるようになったことで、それが全てになってしまいました。そして、「そもそも自分たちの顧客とは誰であるか」「なぜ自社の商品を買ってくれているのか」という、マーケティングにおいて重要である「顧客理解」という観点を見落としがちになってしまったように思います。

顧客をきちんと理解できれば、その顧客にマッチしたマーケティングを仕掛けることができ、効率よく商品を売り、価値提供することができるため、本来マーケティングにおいて「顧客理解」は最優先で取り組むべきことなのです。

  • Googleトレンドを見ると、「顧客理解」というキーワードは、モバイル端末が普及・浸透し始め、さまざまなデジタルマーケティングの広告配信手法が開発された2010年頃から検索されなくなってきている

そのためにも、これからの時代のマーケターは、「マーケター3.0」に進化していくべきだと考えられます。マーケター3.0は、「AIやテクノロジーをうまく活用しながら、数字を通して人と向き合うマーケター」、いわばマーケター1.0、2.0が取り組んできたことに加えて、人の作業を代替する先端テクノロジーも活用していくマーケターです。

例えば、画像生成AIを活用すると欲しい画像をすぐ手に入れることができるため、広告クリエイティブを作るスピードを速められます。つまり、顧客のペルソナや訴求軸の仮説を複数立て、検証する試行回数を増やすことができ、その分、「自分たちの顧客がどんな人で、なぜ自社の商品を買ってくれているのか」という「顧客理解」が進むようになるのです。

画像生成AIが登場したことで、このプロセスが当たり前になる時代がすでに来ていますし、これからさらに加速するのではないでしょうか。ストック画像サービス提供企業でも、Adobe社は「Adobe Stock」において画像生成AIで作成したコンテンツの投稿や販売を認める方針を示し、Shutterstock社はOpenAI社の「DALL・E 2」をShutterstockのコンテンツと統合し、ユーザーが利用できる画像生成AIツール「Shutterstock.AI」を提供していくと発表しています。

弊社でも、顧客のペルソナや訴求軸の仮説立てに加え、AIを活用し広告クリエイティブ(LP・バナー・動画)を制作・改善する「AIR Design」というサービスをサブスク形式で展開していますが、今後、画像生成AIをはじめとした先端テクノロジーを即時取り入れながらクリエイティブ制作をもっと効率化し、マーケターの方々に品質の高い広告クリエイティブをよりスピーディーに提供していきたいと考えています。

さらに、これからの時代のマーケターは、一次情報から顧客インサイトをキャッチするといった、「数字で測れない領域」「人間にしかできない領域」に注力することがより重要になるでしょう。求めている画像を瞬時に生成することをはじめ、データに基づく単純作業や共通点の抽出、各種データの分析など、AIが得意とする分野はどんどん自動化が進み、効率化されていくことが想定されます。

今後は顧客を理解するために、顧客に直接話を聞いたり現場に足を運んだりして、人の意思や好き嫌いなどの志向や感情をくみ取った上でコミュニケーションを行いながら一次情報や顧客インサイトをキャッチするなど、「人間にしかできない、顧客と向き合うこと」に集中することが求められるでしょう。