メールの保存もままならない危機的状況
「自然の恵みをお届けする」をモットーに、日本全国で居酒屋を中心とした外食チェーンを展開するつぼ八。メインブランドの「つぼ八」をはじめ、「楽食ダイニング つぼ八」「旨居屋 新八」「ダイニング・テーブル茜どき」「ホルモンの美味しい焼肉 伊藤課長」といった各種業態で、多彩な食のニーズにこたえている。その店舗数は、直営とフランチャイズを合わせて363店舗(2010年12月末日現在)に及ぶ。
最近では、家庭での調理よりも外食のほうがCO2排出量を低減できるという「エコつぼ運動」、店舗で食べ切れなかった料理を持ち帰るサービス「お持ち帰りできます」ポスターなど、環境負荷を低減する取り組みにも積極的だ。
このように全国規模でのチェーン展開を行っている同社だが、実は以前から大きな悩みを1つ抱えていた。それは、社内で利用している情報システムが現状のビジネスに追いつかなくなってきたことだ。
同社はこれまでオンプレミス環境のグループウェアを使用していた。しかし、導入されたシステムはハードウェアの老朽化が目立っており、特にディスク容量の不足はビジネスに直接的な影響を与えるほど深刻なもの。
企画・広報部 システム管理課 サブマネージャーの渡辺晃洋氏も「ディスク容量の不足により、やむなくメールは約2ヵ月で自動削除する設定をかけていました。重要なメールは消える前に各自で保存するよう心がけていたものの、なかには保存を忘れてトラブルに発展するようなケースもありました」と、当時の苦労を語る。
ちなみに、グループウェアといってもその機能はごく一部しか使われておらず、メールが主な用途だったそうだ。
他社製品を凌駕する圧倒的なコストパフォーマンス
同社では2008年に情報システムの再構築を目的として、7~8社の製品を比較検討した。「実は当初、オンプレミス環境での構築を予定していたため、Google Appsは候補リストに入っていませんでした。しかし、WebサイトでGoogle Appsの導入事例を見かけて『これは使えるかも』と感じたんです」と同氏。
Google Appsで一番の魅力に感じられた点は圧倒的なコストパフォーマンスだった。例えば、オンプレミス環境でモバイル連携機能を持たない低価格の製品と比べても、Google Appsは100アカウント程度上乗せした状態で、トータルコストを3割削減することが可能。それでいて、1人当たり25GBのメール容量が使えるGmail、さらにGoogleカレンダーやGoogleドキュメント、Googleサイト、Googleビデオなど各種サービス、加えてモバイル連携の利便性を備えているのは魅力だ。
リーズナブルな価格でアカウント数が増やせる点は、企業経営の観点からも大きなメリットをもたらす。以前は約80の直営店舗ごとに1アカウントを割り当て、各店舗に常駐する1~3人の社員がアカウントを共有していた。しかし、ビジネスの拡大とともにアカウント取得にかかるコストだけでもかなりの負担となってくる。
また、共有アカウントとはいえ、店長クラスの社員だけが本社からの情報を確認していたという実情も課題だった。本社から一般社員への連絡は電話を中心に行われていたが、電話に出られない時も多く、情報共有の遅れが見られたという。しかし、全社員に個別のアカウントを割り当てることができれば、空き時間にメールを確認するだけで迅速な情報共有が可能となるわけだ。
こうしてGoogle Appsのメリットを再確認した同社は、施設予約などの機能が必要だったことから、有料版の「Premier Edition」を10アカウント購入して、約1年半かけて試験的に運用。その上で、2010年2月に全社に正式導入した。現在では本社と直営店舗を含めて、社員全員分に相当する330アカウントを購入している。
メールに加えてドキュメントや社内ポータルも積極活用
旧システムからの移行に際しては、メールを2ヵ月ほどサブドメインへ転送し、従来と同じ環境をGoogle Apps上で構築する形式が採用された。また、基本操作に関する問い合わせが殺到すると対応できなくなるため、事前にヘルプサイトを作成。同時に問い合わせフォームを設置し、頻繁にくる質問はヘルプサイトへフィードバックしていったという。
こうした事前準備の甲斐もあり、基本的な操作を含め最初の1ヶ月ほどで問い合わせ件数が一気に減ったそうだ。
同氏は、現場からの声について「一番喜ばれたのは、何といっても2ヵ月でメールが削除されなくなったことですね。最初は戸惑ったスレッド表示も慣れれば使いやすいですし、強力な検索機能で必要なメールもすぐに探し出せます」と語る。
Google Appsの導入で改善されたのは、メールの使い勝手だけではない。従来のシステムで放置気味だったスケジュール関連の機能や施設予約が積極的に使われるようになったのだ。さらにGoogleドキュメントでは、複数人で同じファイルが編集できる特徴を生かし、店舗の機器・設備の管理や各部署での情報共有のためのツールとして活用。社内向けアンケートで新規業態名を募集した際は「自分たちで選んだという実感が持てる」といった声も聞かれたそうだ。
Googleサイトで構築した社内ポータルも利用されており、人事異動の通達や施設予約などの内容を掲載。「今まではメールの見忘れや読み飛ばしなどが発生していましたが、社内ポータルのチェックを習慣付けることで解消できました」と、同氏も満足そうな笑みを浮かべる。
なお、同社ではGoogle Appsの利用にあたり、専用ブラウザとしてFirefoxを導入し、Firefoxのホームを社内ポータルに設定した。Google AppsはFirefoxで利用し、WebブラウジングはこれまでとおりInternet Explorerを使うといったように、用途に応じてブラウザを使い分けることで、ユーザーの使い勝手を確保している。Firefoxの設定は、本社からリモート操作を行うことで統一を図ったそうだ。
「今後は店舗間の情報共有をさらに充実させていきたいですね。例えば、外観やメニューなどの画像を共有したり、1アカウント当たり3GBまで使えるGoogleビデオで調理マニュアルや接客マニュアルを作成・共有したり、アイデア次第でさまざまな使い方ができます」と、同氏は新たな目標を語る。
このように、つぼ八では課題となっていた旧情報システムからの脱却と同時にビジネスの効率化を実現した。そして今後は業務規模が拡大するほど、Google Apps導入がもたらすメリットも大きくなっていくことだろう。