高コストや新機能の対応が課題だった従来のシステム

アリババ 情報システム部 情報セキュリティアドミニストレータの杉田暁彦氏

アリババは中国のアリババドットコムの日本法人として、インターネット経由での中国や世界の企業との貿易取引サービスを展開する企業だ。インフラ関連の業務を担当している情報システム部 情報セキュリティアドミニストレータの杉田暁彦氏は社内システムについて次のように語る。

「当社は今までメールサーバとしてMicrosoft Exchange ServerをASP形式でレンタルしていました。しかし、コストが高く、新機能への対応も遅れ気味になるといった課題があり、システム部門だけでなく経営者層からも改善の声が上がっていました」

また、ビジネスの特性から同社では中国へ出張する人が多いのだが、中国出張時に速度の遅いVPNを利用するしかない点も大きなネックとなっていたそうだ。

こうしたなかで注目を集めたのがGoogle Appsだ。実はアリババでは、すでに2010年5月より会員向けサービスとして、独自ドメインでのメールアドレス発行をメインにGoogle Appsを導入していた。サービス開始にあたってExchange ServerのASPレンタルも検討したが、メールアドレスの発行に申請から2~3日の期間を要するようでは、即時対応が求められるビジネススピードについてこられない。しかし、Google Appsであれば低コストかつ迅速なメールアドレス発行が行えるほか、セキュリティに関しても企業向けの導入実績があるので安心して利用できる。

同社で社内システムの見直し案件が発生した際、会員向けサービスで実績を持つGoogle Appsが候補に挙がるのは当然のことだったわけだ。

Google Appsの導入を決定した同社では、2010年8月にまず各部署の代表者10名に対して先行導入を開始。彼らをアドバイザー役として、2ヵ月後の10月より全社導入に踏み切った。

Google Appsを導入した当初、社内ではGmailのスレッド表示やアーカイブの概念、Googleカレンダーの表示順などについて、戸惑いの声が多く寄せられたという。これらに対して同氏は「毎日使うものなので、いざ環境が変わると誰もが抵抗を感じるのは当然です。しかし、従来と同等もしくはそれ以上の利便性を持つサービスだとわかれば、すぐに使えるようになります。大切なのは不安を払拭してあげることです」と、可能な限りきめ細かな対応を心がけたという。

このような取り組みは着実に成果を上げ、社員の間でもGoogle Appsの機能を積極的に学ぼうとする意欲が芽生えていった。今では最新情報をチェックした社員から、逆に「こんな機能知っています?」と言われることも増えたそうだ。

シングルサインオンでセキュリティと利便性を同時にアップ

Google Appsを社内システムに採用したことは、同社の日常業務に大きな改革をもたらした。杉田氏は次のように具体例を挙げてGoogle Appsの導入メリットを教えてくれた。

「Exchange Serverを使っていた頃は、メールに加えてカレンダーを使った会議室予約、ワークフローによる稟議システムなど、サービスに応じて複数のアカウントを使い分ける必要がありました。しかし、Google Appsでは同期マネージャを使うことで、Active Directoryと連携して1つのWindowsアカウントですべてのサービスを利用可能です。また、シングルサインオンの併用でセキュリティと利便性を同時にアップできるのも嬉しいですね。何かトラブルがあれば、すぐにアカウントをロックできますし」

さらに、「単純にアカウントの料金だけを比較しても1年間で600~700万円の削減、従来比で約10分の1という大幅なコスト削減を実現できました。これだけのコストメリットがあれば、乗り換えない手はありません」と、同氏は企業にとって重要なコスト削減効果を具体的な数値で示してくれた。

現在同社では、社内システム向けの100アカウントに加え、会員向けサービスにおいてもGoogle Appsの導入を開始し、アカウント数の合計は1,000に達している。「社内システムに関して、ユーザー数が100人を超えたらオンプレミス環境へ移行しようかという意見もありました。しかし、Google Appsは実際に使ってみると利便性が高く、スピードが求められるビジネスにも十分に対応してくれました。今では1,000人規模になってもGoogle Appsを使い続けるつもりです」と、同氏も満足そうな表情を浮かべる。

セミナー開催時のアンケートにも大活躍

Google Appsは現場にも大きな業務効率の向上をもたらした。特にセミナー開催時のアンケートにおいて大きな改善効果が得られたという。

「今までセミナーで行ったアンケートの集計は紙に記入してもらった内容を手作業でPCに入力していました。それがGoogleドキュメントのフォーム機能を使うと、集計まで自動処理してくれるので助かります」と同氏が語るように、アンケートの入力から集計までの作業効率が大幅にアップ。この結果、セミナーの担当チームを従来の4人から2人体制へと変更し、余剰人員を別の業務へ振り分ける余裕ができたそうだ。

そのほか、社内の標準ブラウザをGoogle Chromeへと変更したことで、Google Appsの利便性が一段とアップしたのも注目したい部分だ。

Google Chromeは動作が速いだけでなく、より多くの拡張機能が利用できたり、Gmailへのファイル添付がドラッグ&ドロップで行えたりするなど、Google Appsとの親和性が抜群だ。一般的に「Webベースのアプリケーションだから諦めなければいけない」と考えがちな部分までフォローしてくれるのは、ユーザーにとって嬉しい限りだろう。

最後にGoogle Appsに対するリクエストを聞いたところ、「もう少しGoogleドキュメントの権限管理が細かく行えるようになれば、より一層便利になると思います。今後は、社内に点在するシステムをなるべくGoogle Apps上に展開していきたいですね。Google App Engineを使った独自のアプリケーション構築なども視野に入れています」と、力強いコメントをくれた同氏。その表情からは、Google Appsに対する大きな信頼と期待が感じられた。