Google Appsでセキュアな情報管理を実現
前編では、ガリバーインターナショナルがGoogle Appsを導入したことで、連絡業務の効率化や情報システム部門の改革を図ることができたとお伝えした。しかし、同社にとってGoogle Appsはさらに幅広い分野でメリットを生み出している。例えば、カーシェア事業ではすべての顧客に統一されたフォーマットのメールを配信しているが、スプレッドシートのマクロ機能を使って一斉メールの送信作業の簡素化を図っているのだ。
確かにセキュリティの観点から、顧客のメールアドレスをクラウド上へ保存することに反対意見を持つ人がいることも事実である。ただ、 顧客とのやり取りをすでにGmailでしているのであれば、それは本末転倒だ。というのも、Gmailはグーグルによってセキュリティがほぼ100%確保されているからである。経営企画室の椛田泰行氏は、「社外と共有できるドメインが使える管理者を限定し、一般社員は外部に情報を公開できないようにして いるのもノウハウの1つです」と話す。
さらに、Google Appsは顧客情報の管理という点でも優れた特性を持っている。例えば、Excelで顧客情報を管理する企業は少なくないが、このファイルをメールに添付して関係部署へ送付した場合、宛先の入力ミスなどによって情報漏洩の可能性が高まる。それならば、Google Apps上に顧客管理用のスプレッドシートを設けて共有したり、顧客宛てのメールをマクロで一斉送信したりするほうが何倍も安全と言える。
こうして、同社では会員向けのキャンペーン情報や御礼メールなどの配信業務にかかる負担が大幅に軽減された。ちなみに、この会員メール向けに使われている顧客情報は基本的にメールアドレスのみで、氏名その他のデータは一切含まれていない。
「Google Appsのスプレッドシートは単なるExcelの代用ではなく、工夫次第で簡易データベースのように使うことができるなど、開発するほど便利になっていきます」と、同氏は嬉しそうに語った。
社員からの積極的な使い方の提案も
また、社員からもGoogle Appsの積極的な使い方を提案する声が上がっているという。同氏によると「細かな使い方を挙げればキリがありませんが、予算管理をGoogleドキュメントで共有したり、今まで総務の担当者が巡回してアップデートしていた座席表が今では自分でアップデートできたりするようになりました。しかし正直なところ、取引先との課題管理シートがExcelからGoogleドキュメントへ変更できるとまでは思っていませんでしたね。これは良い意味での誤算です」と、当初想定していた以上に効果的な使い方まで生まれてきたそうだ。
そのほか、同社では1アカウント当たり25GBまで使えるGmailの容量を生かして、徹底的な電子ファイル化を進めている。従来のようなクライアント依存のシステムではメールの送受信が固有の端末に限られるし、FAXも受信時に宛名が書いていなければ「これは誰宛てのもの?」といったように毎回確認する必要が出てくる。しかし、メールやFAXを共通アカウントのGmailに受信・保存しておけば、不要な紙を印刷したり担当者を探し回ったりするようなこともなくなる。
「通知設定をしておけば、FAXを受信した時もすぐにわかります。Gmailの容量はかなり余裕があるので、最近はPDFなどもメールで保存するようにしています」
Google Appsの基本はGmailにあり
同氏にGoogle Apps導入時のポイントを聞いたところ、「Google Appsの基本はまずメールだと思っています。とにかくGmailの操作に慣れることが、Google Appsを使いこなすための近道です」という答えが返ってきた。
とはいえ、数多くの店舗がそれぞれ勝手に設定を行っていたのでは、業務にも支障を来してしまう。そこで土台づくりとして、初期段階で全店舗のアカウントに代理でログインし、ラベル設定の標準化を行ったそうだ。
「ラベルの標準化の内容はお客様から届いたメールには赤いラベルを、重要度が高いメールには青いラベルを付けたり、本文や件名などでフィルタリングしたりするといった具合です。慣れないうちから任せてしまうと、どうしてもユーザーによって設定が異なってしまいますので、企業として最低限の設定は統一する必要があります」
なお、ブラウザはGoogle Appsとの親和性が最も高く、機能もフルに使えるGoogle Chromeを社内標準にしているそうだ。
Google Appsと親和性の高いiPadもフル活用
そのほか、同社ではGoogle Appsに関連した取り組みとしてiPadの導入・活用も積極的に進めている。これはまだ計画の段階ではあるが、今まで社内で使っていたノートPCを廃止し、各社員にGoogle Appsと親和性の高いiPadを配布し、デスクトップPCも1台を4~5人で共有する体制を構築しようとしている。
椛田氏はこの計画について、「ともすると、PCを操作しているだけで"仕事をしている"と錯覚してしまいます。単純なオペレーター業務ならデスクトップPCでも構いませんが、アイディアが重視されるホワイトカラー層は特にノートPCからiPadに切り替えて、根本から業務体制の改善を図りたいですね。自分自身、実際にiPadに替えてから仕事のスピードが上がっていると感じています。企業にとってはハードウェアとソフトウェアの両面でコストを大幅に削減できるのもメリットです」と語る。
こうした観点から、同社では30人ほどiPadの先行導入を行っているほか、iPadを使ったプレゼンテーション大会も開催。すでに社内で5本の基幹業務向けアプリを開発するなど、「脱ノートPC」への取り組みが加速している。同氏も「あくまでも『これってノートPCの代わりだよね』ではなく、『これはiPadしかできないよね』というiPadの良さを追求していきたいですね」と語る。
iPadで営業の出張訪問も大幅に効率化
iPad活用という観点では、出張訪問を行う営業マンにiPadを支給したことが大きな改革につながっている。出張訪問を行う営業マンは、顧客に対する車両提案用に今までノートPCを持ち歩いていたが、これをiPadに変更。
容量の関係から1枚目の写真だけをiPad内に保存し、2枚目以降は3G回線やWi-Fi経由で取得する仕組みとなっており、約4,000台の車両在庫データを保存することに成功した。この方式ならば、電波環境が悪い出張訪問先でも端末内のデータだけでスムーズな車両閲覧が可能だ。画像表示の美しさや顧客が思わず触れてみたくなるグラフィカルなインタフェースに加えて、何より営業マンの利便性向上に大きく貢献しているという。
また、顧客訪問時の査定システムもiPadの導入で大幅な効率化が図られている。今まで訪問査定では、紙にデータを記入した後に電子化するという手順を踏んでいたが、約100種類もの項目を入力し直す作業が大きな手間であり、同時に入力ミスによるトラブルの危険性もはらんでいた。この作業が、iPadにより紙ベースの自然な使い勝手を残しながらも、そのままデータとして保存できるようになったのである。
同氏も「ノートPCでも電子データとして保存できますが、多くの人は"触る"ほうが圧倒的にラクなんですね。実際に現場からは『紙より使いやすい』と高評価です」と語る。
そのほか、営業マン向けのiPadでは、サービス概要を説明するパンフレットの代わりとして動画付きの高品位なコンテンツが表示できたり、顧客が個人情報登録やアンケート入力を行ったりすることができる。
「iPadの社内活用がここまで進んだのも、すべてはGoogle Appsの存在があったからこそです。今後は基幹業務のクラウド化も含めて、さらに新たな取り組みに着手していきたいですね」と語る同氏。
Google AppsはもちろんiPadの有効活用など、業界のアーリーアダプタとして今後もガリバーインターナショナルの取り組みから目が離せない。