スマートフォンとの連携で現場も大満足
トップツアーではGoogle Appsの機能をフル活用するべく、営業向けに約1,000台のスマートフォンも導入した。旅行営業本部 営業企画部 マネージャーの住本卓巳氏は「当社では今まで、会社支給のケータイを持っているエリアとそうでないエリアが混在していました。支給の有無は各エリア長の判断に任せていましたが、運用の二系化の非効率から、Google Appsと親和性の高いAndroid端末を全営業社員に支給しました」と語る。
同社の営業社員は、ツアーに添乗する機会も多い。そうした際、従来は商談中の顧客に対し連絡がりづらくなる旨を伝えて出発していた。しかし、スマートフォンが行き渡った現在、添乗先でもメール確認とアクションがとれるため、業務効率は大幅に向上。迅速かつスマートな対応の実現されたことで、顧客からの反応も良いそうだ。
また、出勤途中でメールを確認し、会社に到着した時点ですぐ仕事に取り掛かれるなど、日常業務においても高い効果を発揮している。
「Google Appsはどこからでもアクセスできる利便性を持つ反面、スマートフォンに限らずホテルのビジネスセンターにある端末やインターネットカフェなどからも簡単にアクセスできてしまうため、企業として注意すべきはセキュリティ対策です」と語るのは、経営管理本部 IT戦略部 部長の安原弘文氏だ。
企業側がいくら注意喚起をしても、ユーザー側はその利便性から「少しだけなら」と意識せずに使ってしまうことは少なくない。この繰り返しが結果として企業の情報漏洩につながるというリスクを伴う。情報漏洩が発生したら、経営上で多大な損失を被るのはもちろん、当人も大きな責任を感じるだろう。
「当社の場合、顧客情報などの機密性が高い情報はGoogle Apps上ではなく、すべて社内サーバへ格納しています。しかし、Google Apps上の掲載情報についても情報漏洩のリスクを最小化するため、アカウント同期マネージャとシングルサインオンを導入しました」と語る安原氏。こうした形で、トップツアーでは利便性の向上と同時にセキュアな環境を実現している。
リプレース後のトラブル対策にも注目
企業にさまざまなメリットをもたらすGoogle Appsだが、従来の情報インフラを完全にリプレースするとなれば、少なからず問題は発生するだろう。そこで、安原氏に現場を中心としたシステム移行後の様子を聞いたところ、「Gmailには関連したメールを束ねて表示する『スレッド表示』機能があります。これは一般ユーザーには便利な機能ですが、Webページから問い合わせメールを受け取る一部の部署は例外でした。同じ件名を持つ数百件のメールが束ねられてしまい、メールが整理しづらくなるというトラブルが発生したのです」という答えが返ってきた。
この問題はGmailにスレッド表示の解除機能が実装されたことで解決したが、当初はクライアントソフトにOutlookなどを使うことで対応したそうだ。一般的に利便性の高い機能も業界や業務内容によっては予想外の結果を招くことがあるという点も、今後Google Appsを導入する予定の企業にとって参考になるだろう。
そのほか、Googleサイトにおいて同一階層で1,000ページを超えた場合にサイトマップがうまく表示されない現象も発生している。「お知らせページを作成すると投稿のたびに1ページずつ増えるため、サイトの構成次第では1,000ページを軽く超えてしまうということがあります。サイトマップはユーザーが普段あまり意識しない部分ですが、制作者側の課題として現在解決中です」
電子カルテのような利便性を求めて
トップツアー 旅行営業本部 営業企画部 部長 脇坂克也氏は今後の方向性について、「あとはワークフローの充実と電子カルテのような使い方ができるアプリケーションがあれば便利ですね」と語る。
これはあくまでも将来的なビジョンだが、トップツアーでは各営業担当者にモバイルPCを持たせ、オフィスにいなくてもすべての営業業務が完結できるような方向性も考えているという。担当者がより顧客に近い位置でレスポンス重視の活動を目指すというイメージだ。
営業担当者の仕事をすべてモバイル上で行えるようにするには、その動きに対応できるポータルサイトが必要となる。現在も営業向けのポータルサイトは存在するが、コンテンツは本社からの最新情報、Google Apps関係のヘルプ、各部門へのリンクなどがある程度。同社が求めているのは、旅程表・見積り作成や電子カルテによる手配管理、経費支出申請、すべての営業業務が網羅できる、本当の意味でのポータルサイトなのだ。
こうした観点からすると、今のGoogle Appsにはワークフローや各種申請フロー、そして各顧客の情報を仔細に記載した電子カルテのように使えるアプリケーションが不足しているという。
「電子カルテに関しては、過去の利用履歴はもちろん、好みの航空機の座席位置、喫煙の有無、食事の好みなどまで細かく記載し、なおかつ簡単に検索できるようなものが欲しいですね。Googleドキュメントはまだパフォーマンス改善の余地がありますし、それだけの情報を入れるとなれば容量の問題も出てきます。すべてをGoogle Appsで構築するのか、別にポータルサイトを用意するのかは未定ですが、顧客満足度の向上と営業の効率化には、こうした環境が欠かせないと思っています」と同氏。
また、トップツアーの顧客は企業や官公庁、学校など法人が中心で、営業マンが渉外活動を通じて顧客案件を受注し運行するというのがビジネスモデルとなっている。そこで悩ましいのが顧客要望に対する提案力や内容だ。これらは経験や実績に左右され、ベテラン社員と新入社員とではどうしても差が出てしまう。
しかし、強力な共有ナレッジの仕組みがあれば、新入社員でも質問や検索を通じてベテラン並みに回答することが可能になる。ホテルやレストラン選び、観光地でのアレンジ、旅の演出等あらゆる顧客のニーズにも、きめ細かく応じることができるようになるため、そのような仕組みも引き続き検討しているようだ。
「今まで各個人の脳内に閉ざされていた知識やノウハウを全社的に共有し、財産として利用することで、お客様への提案力や問題解決力を高めていきたいですね」と、同氏は今後のビジョンを語ってくれた。
今回はGoogle Appsの利便性だけでなく、あえて導入後のトラブルなども含めてお伝えした。これからGoogle Appsの導入を考えている企業は、ぜひこれらを参考にしていただきたい。