450mmの進捗状況
G450Cが公表した2015年7月時点の450mm化に向けた最新進捗状況は以下の通りである。
1:450mm装置搬入状況
SUNY Polytechnic Institute傘下のCollege of Nanoscale Science and Technology(CNST)キャンパスには、世界中の主要半導体装置メーカーより合計51台の450mmウェハ対応半導体プロセス装置が納入されている。これらの装置を用いた450mmウェハ処理では、極めて良好な結果が得られており、今のところ450mm大口径化に向けて大きな技術的な問題点は無いと判断している。今後さらにヘテロエピタキシャル成長装置など数種類のプロセス装置が搬入されることになっている。
2:450mm露光装置搬入
昨夏以降、450mmシリコン・ウェハへのパターニングは、ニコンに業務委託し、同社の熊谷製作所が所有する450mmウェハ対応液浸ArF露光装置デモ機を使って行ってきたが、ニコンは当初の予定通り、450mm対応ArF液浸スキャナ「NSR-S650D」(図6)をAlbanyキャンパスの450mmクリーンルームに2015年4月に納入した(図7、8)。G450Cは、2015年9月よりAlbanyで露光作業を始める予定である。
図6 ニューヨーク州CNSEキャンパスへ納入される450mm露光装置 (出所:ニコン) |
図7 450mmクリーンルームに搬入・設置作業中の450mm露光装置 (出所:G450C) |
図8 450mmウェハ対応ArF液浸露光装置「NSR-S650D」 (出所:ニコン) |
SUNY Polytechnic Institute学長兼CEOのAlain E. Kaloyero氏は、ニューヨークでのニコン露光装置によるパターニング開始に関して「ニューヨーク州Cuomo州知事が提唱する次世代半導体チップ開発へ大きな弾みとなり、世界の半導体産業を牽引する技術ロードマップへ大きな一歩となる」とコメントしている。ニコン 常務執行役員 半導体装置事業部長の馬立稔和氏は「2013年の契約締結以来、当社は450mmウェハ対応機の開発プログラムを着実に進めてきた。この春NSR-S650DをG450Cに無事出荷し、まもなくウェハのパターニングを開始することとなった。コンソーシアムを通じて多くのパートナーと密接に協力し、G450Cのマイルストーン達成に貢献したい」とのべている。
著者註:
計画通り450mm露光装置開発すすめたニコン
2012年12月に千葉県幕張で開催されたSEMICON Japanにおいて、ニコンの牛田専務(当時、現社長)が突然「(ライバルの蘭ASMLに対抗してASMLの当時の計画より1年前倒しで)2015年に450mm対応ArF露光装置(試作機)を、2017年に量産機を出荷する」と発表して参加者を驚かせたが、社運をかけて計画通りに試作機を出荷したことになる。後述の通り、半導体業界では、450mmウェハ量産導入のめどが立っていないため、牛田氏はその後、「量産機は、2017年以降で、先端半導体メーカーが要望する時期に出荷する」と言い換えているが、ニコンは2014年12月に開催されたSEMICON Japanでも450mm露光技術開発が順調にすすんでいることをアピールしていた(図9)。
ニコンは、2015年4月の装置搬入を7月のSEMICON WESTの開催に合わせて発表したが、これに先立ち、ニューヨーク州ではCuomo知事自身がわかりやすい言葉で州民に説明している(図10)。専門家から見ればあいまいな表現だが、州民にとっては液浸ArFなどの難しい言葉をさけてなんとか説明しようとするCuomo州知事の熱意が伝わってくる。州知事自体が、ニューヨーク州の産業振興にG450CをはじめAlbanyのナノテク研究をいかに活用しようとしてしているかをうかがわせるエピソードだ。
なお、蘭ASMLは、すべての450mm対応露光装置(EUV、ArFとも)の開発を一昨年末以降中止している。その理由として、複数の顧客から注文が期間の定めなく延期されたためとしているが、顧客名は明らかにされていない(おそらくIntel、TSMC、Samsungの3社と思われる)。ASMLにおける300mm対応EUV用光源の開発が遅々として進まないため、さらに出力の大きな光源を必要とする450mmどころではないASML内部の事情もあるようだ。ニコンの牛田社長は「EUVリソグラフィは、いわばコンコルドのように、技術的には素晴らしく見えても実用化はしない、筋の悪い技術」として、ニコンとしてはEUVリソグラフィに参入しないことを表明している。
3:450mmウェハ - ノッチレスかつエッジ排除領域1.5mm
従来の300mmウェハでは、結晶方位を示すマークとしてウェハのエッジ部分の一部を削ってノッチをつけていた(それ以前にはオリエンテーションフラットと称して、ウェハの端を一直線に切り取っていた)が、450mmウェハでは、ノッチレス化することがSEMIスタンダードとしてすでに承認されている(図11)。300mmウェハに対して、450mmウェハの表面積は、幾何学的には2.25倍だが、ノッチ付き300mmウェハに対してノッチレス450mmウェハの有効面積は2.4倍になる。
図11 結晶方位を示すオリエンテーション・フラットとノッチ(左)、およびノッチレスとなることがきまった450mmウェハ(右)の裏面3カ所に付けられるレーザーマーク(右下) (SEMI資料を基に著者作成) |
さらに最近になって、450mmのedge exclusion area(ウェハ周辺の除外領域=ウェハ品質を保証しない外周部の領域)を300mmのウェハまでの2.0mmから1.5mmに減少することがきまり、これでさらに450mmウェハの有効面積が広がる(図11右下)。450mm化推進者は、こうまでして、450mmウェハの(300mmに対する)有効面積を広げて、450mm大口径化の経済的合理性を確保しようと必死になっている。
なお、450mmウェハがノッチレスとなるのにともない、ウェハ裏面に結晶方位を示すレーザーマークを3カ所に刻印することになる。しかし、これにより後工程(裏面研磨など)でさまざまな問題が生じる恐れがあるが、この対策について検討中である。
4:個別プロセス・装置評価進捗
- リソグラフィ:上述のニコン露光装置に加えて、コーターデベロッパ―としてSOKUDO DUO 450を搬入設置したほか、ギガフォトンの出力120Wのレーザー光源をその露光装置に取り付けた。日本国内(ニコン熊谷製作所)では、すでに73枚のウェハのパターニングが行われている。用いたパターンは、40nm 1:1ラインアンドスペースと40nmコンタクトホールである(図12左)。重ね合わせ精度(Critical Dimension Uniformity:CDU)はそれぞれ2.36nm、5.15nmだった。この数値は、ニコン熊谷製作所の実験機でのデータであるが、Albanyにおいてさらに改善のめどが立っている。さらに、28nmおよび40nmピッチ誘導自己組織化によるパターン形成実験は滋賀県彦根のSCREENセミコンダクタソリューションズで実施した(図12右)。今後、これらのパターニングの改良実験はAlbanyで継続実施する。
図12 450mmウェハへのパターニング。左がニコン露光装置によるラインアンドスぺ―スおよびコンタクトホール形成、右が誘導自己組織化による28nmピッチSTIおよび40nmピッチBEOL(Back End Of Lin:配線)パターン形成 (出所:G450C) |
- エッチング:ポリシリコンおよびシリコン酸化膜エッチングの均一性は300mm並みに達している。装置の生産性は装置メーカ―側で改善中。450mmウェハ上に40nmピッチ誘導自己組織化によるM1(最下層金属配線層)/トレンチ構造を全面に形成することに成功した(図13)。
- 薄膜形成:膜厚均一性(周辺1.5mm除外)および膜質は、300mmの場合と同等あるいはほぼ同等。ギャップフィル性能は、TEM観察で良好な形状を確認した。装置生産性は、各成膜装置および中電流イオン注入装置で300mmの場合を上回る。
- 酸化拡散・洗浄・CMP: 熱酸化膜の性能は300mmと同等。縦型酸化炉のスル―プット(wafers per hour)は300mm比15%のギャップがある。これを年内に10%以下に縮める。(洗浄やCMPに付いては今回言及なし)