本コラムでは、企業で働くプログラマーだった筆者が、起業するまでの道のりや起業してからの日々についてお話します。今回も前回に引き続き、独立を考えている会社勤めをしている方に向けて、「独立する前(会社勤めのうち)にやっておいたほうがよいこと」についててお話しします。前回取り上げた「お金」以外にも、会社に勤めている間に築いておいたほうがよいものがあるのです。
独立すると簡単に質問できなくなる?
お金の次に困ったこと、それはコネクションです。以前勤めていた会社が一番のクライアントになるというのはよくある話です。また、過去の同僚の紹介で仕事をもらったりという話もよく聞きます。これらを実現するには、当然会社に居る頃から、会社を辞めても連絡を取り合えるような良い関係を築いておく必要があるというわけです。
また、日々刻々と変わり行くIT系技術についていかなければいけないのは皆同じですが、独立すると会社組織に所属していた時のように気軽に質問することが難しくなります。理由はいくつかありますが、1つ目は、独立したらサラリーマンも個人事業主も、周りのほとんどが「お客様」になる可能性があること。顧客に技術的な質問をしているようでは心配されてしまいそうなので、質問する時には吟味するようにしています。
2つ目の理由は、独立して頑張っている知人にとって"時は金なり"だから。こちらの勝手な都合で授業料も払わずに拘束するのは失礼な気がするのです。私自身も、会社勤めの知人にハード(難しいというよりも面倒)な質問をされ、その答えを見つけるのに半日潰れたにもかかわらず、「ごめん。あの企画、予算の関係でダメだった(笑)」などと言われて、ガックリしたことが一度ではありません(涙) 。独立すると、自分の時間の使い方が売上に直結すると言っても過言ではありません(もちろん安定したサービスの提供が行えて、そんなこととは無縁の人もいらっしゃると思いますが)。会社勤め時代に、気楽に質問しあって相談できたのは、利害が一致している同じ組織やチームだったからなんだなぁと改めて感じさせられました。
その点、コミュニティは利害に関係なく参加できますが、反面、答える側には義務も義理もありません。また、こちらがと~っても急いでいたとしても、安易に回答を教えるのはその人のためにならないということで、"答えを考えさせるような"回答しか得られないことがあります。加えて、質問する際に業務などについては公開できないことが多いので、相手にわかるように説明するために、仮想の状況を辻褄が合うように作り上げるのに相当な時間がかかったりすることもあり、勉強にはなるのですが、実務での問題解決には極力利用しないようにしています。
「共に解決する状態」を作り出すための2つの策
私にとって独立とは、「会社という威光を一切持たずに1人の人間としてスタートしなくてはならないこと」でした。また、会社時代よりも人間関係が重要であり、会社時代の時のコミュニケーションの最低ラインを"笑顔での立ち話(まったく興味がない相手とでもできる)"とするなら、独立後は"一人ひとりと握手できる関係"を築くくらいの気合が必要だという感じがします(笑)。 気合を入れた分、無駄な出会いは0%と言いたいところではありますが、一技術者が営業の畑で生きていくにはまだまだ世間は厳しく、敏腕営業マンの下で修行したい今日この頃です。
ところで、独立して1人で技術者を続ける方達の多くが、先に述べたような「誰に質問してよいのやら」といった問題に直面しているなぁと感じる出来事が度々あります。この問題の弊社内における解決方法は「同じ船に乗せること」。つまり、まずは共に解決しようとする"気持ちが持てる状況を作ることと、できるかぎり報酬を発生させられる状況を作ること、つまり普通のオフィスさながらチームに予算を付けて、質疑応答にかけた分の労力も報酬が支払えるようにする、ということです。
同じ目標を持ち報酬が出るからこそ、チームメイトの質問に親身になって答えたり、質問が出そうな状況では先回りして補足をしてあげたりといった親切心が湧き、また、その親切に対する「ありがとうございます」という言葉が人間関係もスムースにさせて、チーム全体が阿吽の呼吸で進むようになると思うのです。この結果として、予定よりも少ない工数で済むことも多く、今のところはこれが良い方法と信じて実践中です。
どんな小さな仕事でも、お金が伴うことはとても大事なこと。それを学んだのも独立してからでした。会社時代はプログラミングのみで予算に絡むことはまったくの人任せだった私は、独立してすぐは「このくらいでできる」という工数がプログラマーとしてのものでしかなく、結果として諸経費の分赤字……ということもありました。次回はそんなお話もしてみたいと思います。
執筆者プロフィール
藤城さつき(Satsuki Fujishiro)株式会社タンジェリン代表取締役。
在宅勤務に重点を置き、全国各地の技術者やデザイナー(在籍250名以上)を臨機応変にチーム編成しながら、豊富な質と量の技術力を提供する。今のところ、在宅勤務に対する障害・偏見は多いが、今の日本人にとって絶対に必要なワークスタイルの1つと信じて日々邁進中。
一方、会社員時代に設立した、コンピュータ関連業界で働く女性のためのコミュニティ「eパウダ~」を運営。男性が多いこの業界における女性の人間関係・働き方・生き方についても日々模索中。旦那1頭と兄弟猫2頭の4頭家族。