ロシアの国営宇宙企業ロスコスモスは2017年11月28日、極東のヴォストーチュヌィ宇宙基地から、「ソユーズ2.1b」ロケットを打ち上げた。ヴォストーチュヌィ宇宙基地は2015年に"開港"したばかりの新しい発射場で、今回が2機目のロケット打ち上げだった。

このソユーズ2.1bには、ロシアの気象衛星「メテオールM 2-1」に加え、18機の小型・超小型衛星も搭載。その中には宇宙ゴミの回収・処分を目指す日本の企業アストロスケールの衛星も含まれていた。

ロケットは離昇後、順調に飛行したように見え、ロスコスモスなどは一度「打ち上げ成功」と発表した。

ところが、その後一転、衛星を載せたままロケットが墜落し、打ち上げは失敗に終わっていたことが明らかになった。

高い信頼をもつはずのソユーズ・ロケットに、いったいなにが起きたのだろうか。

  • 上段を搭載したソユーズ2.1bロケット

    19機の衛星、そして「フレガート」上段を搭載したソユーズ2.1bロケットの打ち上げ (C) Roskosmos

ソユーズの失敗、けれどもソユーズのせいではない

19機の衛星を搭載したソユーズ2.1bは、日本時間11月28日14時41分(モスクワ時間8時41分)、ロシア極東部アムール州にあるヴォストーチュヌィ宇宙基地を離昇した。

計画では、打ち上げの約1時間後に主衛星である「メテオールM 2-1」を分離。続いてロケットを再度噴射して軌道を変え、日本企業アストロスケールの小型衛星「IDEA OSG 1」を分離。さらにもう一度ロケットを噴射して軌道を変えて、残りの17機の超小型衛星を分離する、打ち上げ完了まで4時間の旅路になるはずだった。

メテオールM 2-1はロシアの気象衛星で、地球を南北に回る軌道から観測を行う。静止軌道の気象衛星とは異なり、気象の様子を細かく、全地球規模で観測できるものの、継続的な観測をするためには複数の衛星が必要になる。ソ連時代にはほとんど毎年1機のペースで続々と打ち上げられ、配備されていたものの、ロシアが誕生してからは資金難で打ち上げが止まり、機能喪失に陥った。近年になりようやく再建が始まり、このメテオールM 2-1はその復権を担う、重要な1機でもあった。

この打ち上げに相乗りしていたIDEA OSG 1は、スペース・デブリ(宇宙ゴミ)の回収、処分を目指す日本企業アストロスケールの小型衛星で、小さなデブリを観測することを目的とした衛星だった。

この他にも、ロシアの大学が開発した小型衛星や、大容量通信のための実験を行う小型衛星、気象や船舶の航行を観測する民間企業の超小型衛星など、今回のソユーズにはあわせて19機もの衛星が搭載されていた。

しかし、予定の時刻になってもメテオールM2-1からの信号が届かず、そればかりか他の18機の衛星からの信号も届かなかった。この時点で、少なくとも目標としていた軌道には乗っていないということになり、行方不明になってしまった。

そして調査を進めた結果、軌道にすら到達できず、ロケットごと地球に大気圏に再突入し、墜落していたことが明らかになった。

ただ、この失敗は「ソユーズ・ロケットの打ち上げ失敗」ではあるが、2017年12月4日時点の分析では、真の犯人はソユーズ・ロケットではなく、「フレガート」と呼ばれる上段ロケットにあったと考えられている。

打ち上げを待つ気象衛星メテオールM 2-1

打ち上げを待つ気象衛星メテオールM 2-1(中央)と、相乗りする小型・超小型衛星(下部) (C) Roskosmos

上段とはなにか

フレガート上段はロケットと衛星の間に搭載されて打ち上げられ、ロケットからの分離後に、積んでいる衛星を目標の軌道へ送り届ける役目をもつ。ロシアにはこの他に「ブローク」や「ブリーズ」といった上段があり、中国にも「遠征」シリーズがあるが、日本や米国のロケットではあまり見られないので、馴染みのない存在かもしれない。

フレガートのような上段の最大の特長は、長時間の宇宙航行や、ロケットエンジンを何度も点火することが可能で、たとえば複数の衛星をそれぞれ異なる軌道に投入したり、何度も軌道変更を必要とするような複雑な軌道に、衛星を直接投入したりといった芸当ができることにある。

ちなみに、米国にもアトラスVロケットに搭載される「セントール」という上段があり、日本のH-IIAロケットの第2段機体も似たようなことができる(詳しくは「2機の衛星を異なる軌道へ投入せよ! - H-IIAロケットが挑む、未来への挑戦」を参照)。

ただ、本質的にロケットの第2段機体であるH-IIAやアトラスVとは違い、フレガートなどはメインとなるロケットのさらに上に追加する形で搭載される、それ単体が完全に独立したロケット、あるいは宇宙機のような存在である。言葉を変えれば、H-IIAやアトラスVは上段(第2段)がないと飛べないが、ソユーズにとってのフレガートは、ミッションによって必要というだけで、別にフレガートがなくても飛ぶことはできる。

ソユーズ・ロケットには問題がなかったということを裏付けるように、早くも12月3日には、失敗したのと同じソユーズ2.1bロケットが軍事衛星を積んで打ち上げられ、成功している。この打ち上げでは衛星のミッション上、もともとフレガートが必要なかったため、今回の事故の影響を受けずに済んだのである。

  • メインとなるロケット

    メインとなるロケット(左)と、フレガート上段と衛星(右)。フレガート上段はロケットと衛星の間に搭載されて打ち上げられ、ロケットからの分離後に、積んでいる衛星を目標の軌道へ送り届ける役目をもつ (C) ESA/NPO Lavochkin

フレガート上段

フレガートのような上段ロケットがロシアで生まれたのには、いくつかの理由がある。

たとえばロシアはその地政学上、比較的高緯度の場所にしかロケット発射場を造れないため、赤道上にある静止軌道に向けて衛星を打ち上げる場合には、大きく軌道を変える必要がある。

また、高度の低い軌道から高い軌道に乗り移ったり、ある軌道に正確に衛星を投入しようとしたり、さらには惑星探査機を打ち上げる際にも、複雑な軌道変更が必要になる。

それらを衛星側、探査機側が負担しようとすると、燃料がたくさん必要だったり、その分観測機器などを減らさなければならなかったり、あるいは機体が複雑になりすぎたりといった欠点がある。

そこで開発されたのが、まさに宇宙のタグ・ボートとして機能するフレガートだった。

開発、製造は、NPOラーヴォチキンという、ソ連時代からある航空宇宙の名門設計局・企業が担当している。同社は長年、月・火星探査機などの開発を手がけており、長期間宇宙に滞在したり、エンジンを何度も噴射したりする、まさにフレガートのようなロケットの開発を得意としている(ちなみにソユーズ・ロケットはRKTsプラグリェースという、まったく別の会社が製造している)。

フレガートは6つの球形タンクを円状に、それもそれぞれが少しずつめり込むように並べた独特の外見をしており、まるでドーナツのポン・デ・リングのようでもある。このうち4つに推進剤が、残りの2つに電子機器が収められている。この独特な形状は、運用中に推進剤が減ることによる機体のバランスの変化を最小限に抑えるための工夫だとされる。

  • 組み立て中のフレガート

    組み立て中のフレガート。6つの球形タンクを円状に、それもそれぞれが少しずつめり込むように並べた独特の外見をしており、まるでドーナツのポン・デ・リングのようでもある (C) NPO Lavochkin

カタログスペックでは、最大3日間の軌道滞在と、20回以上ものエンジンの再着火が可能とされる。エンジンの推進剤には非対称ジメチルヒドラジンと四酸化二窒素を使う。またメインとなるエンジン以外にも、ヒドラジンだけを使う一液式の小さなスラスターもあり、姿勢制御や精密な軌道投入を可能としている。

現在では、初期型のフレガートを改良した「フレガートM」や、特徴的な6つのタンクに小型のタンクを追加して推進剤を多く積めるようにした「フレガートMT」、さらにその下にドーナツ状のタンクを追加した「フレガートSB」といった派生型もあり、ミッションによって使い分けられている。ちなみに今回の打ち上げで使われたのはフレガートMだった。

フレガートは2000年に初めて打ち上げられ、以来今回までに64機が宇宙を飛んだ。これまでに、精密な軌道投入を必要とする地球観測衛星や天文衛星のような衛星を打ち上げたり、火星探査機を打ち上げたり、複数の衛星をそれぞれ異なる軌道に投入したりと、まさに当初の狙い通りの働きをしている。

はたして今回、このロシアが誇る高性能な上段ロケットに、いったいなにが起きたのだろうか。

  • ソユーズ2.1bロケットの組み立ての様子

    今回打ち上げられたソユーズ2.1bロケットの組み立ての様子。奥に見える金色の部分がフレガート。手前のフェアリングの中には衛星が収められている (C) NPO Lavochkin

(次回に続く)

参考

https://www.roscosmos.ru/24385/
Soyuz fails to deliver 19 satellites from Vostochny
https://www.laspace.ru/company/products/launch-vehicles/fregat/
https://www.laspace.ru/rus/fregat.php
Fregat space tug

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。

Webサイトhttp://kosmograd.info/
Twitter: @Kosmograd_Info