IHS Markit Technologyディスプレイ部門の上席アナリストである宇野匡氏は、ディスプレイ部材市場の価格動向について「パネル価格がこの約一年半にわたって高止まりしており、部材価格の下落率もかなり落ち着いてきている」と述べた。
3社で支えるガラス基板市場の動向
IHS Markit Technologyディスプレイ部門の上席アナリストである宇野匡氏 (提供:IHS) |
「ガラス基板は主要3社で世界のパネル投資をカバーしなければならない。2011年以降の価格下落により、現状の価格では単独での投資ですべてを賄える状況になく、特に中国市場においては、いかに有利な条件で政府やパネルメーカーの援助を引き出すかが鍵となる」とするように、中国での投資が最大の焦点となるとする。
パネルメーカーはガラスの価格より、供給することを優先しているため、四半期での価格下落は2%以内に落ち着いている。パネルメーカーの積極的なG10投資計画に対して、ガラスメーカーは主要3社で対応しなければならず、中BOEに対し圧倒的なシェアを有する米CorningはG10.5に対する窯の投資を発表した。しかし、従来と違ってG10.5の窯投資は金額が高額なためリスクが高く、中国地方政府の投資援助を受けている実情である。同社が上手いのは、投資の形態としてはCorning100%所有となっている点にあるといえる。ジョイントベンチャーでは技術流出のリスクがあるためで、投資援助を受けながらも100%所有を実現した手腕は流石といえる。
また、旭硝子は中CSOT(China Star Optoelectronics Technology)で独占的なシェアを持っており、G10.5の投資に対応すべく検討を進めている段階にあると言える。そして日本電気硝子は、LG DisplayのG10.5の投資を検討しているのと同時に、中国厦門にすでに投資済みの3窯に加え、新たに3窯の投資を進めている。同社は従来、BOEに対してガラス供給をほとんどしていなかったが、G8のB10ラインに対して、東旭光電科技と後加工のラインを合弁で設立しており、2017年6月の工場稼動以降、BOEに参入を開始した。
偏光板とドライバICの市場動向
また同氏は、偏光板の市場動向について「2016年後半まで、競合により価格下落が継続した結果、大手であっても損益ギリギリでの操業となり、一部では値上げの交渉も行われた。実際には値上げは成功はしなかったが、価格下落を止める結果となった。しかし、偏光板ではメーカー淘汰がほとんど起こっておらず、今後も競合との駆け引きから価格下落が激化する可能性がある」としたほか、ドライバICについても、「かつては日系メーカーが大きなシェアを持っていたが、2012年にルネサス エレクトロニクスが撤退して以降、価格下落は緩やかな状況が継続している。特にスマートフォン用ドライバICは大型パネル用のドライバICにはない付加価値機能が搭載されており、元々の価格が高いため、3%以上の下落が継続している」とし、中でもバックライトとドライバICの狭額縁設計が必要となっており、二層タイプのCOF(Chip on Film)に対するコストダウン要求が強いとした。
このほか、バックライト市場の動向については、「PETやアクリルなどの素材を除くと、フィルム加工の部材からはほぼ日系メーカーは撤退してしまった。価格下落も非常に落ち着いている」とし、落ち着いた状況にあるとした。
新たな市場の段階に入ったタッチパネル市場
IHS Markit Technologyディスプレイ部門プリンシパルアナリストの大井祥子氏 (提供:IHS) |
タッチパネル市場について、IHS Markit Technologyディスプレイ部門プリンシパルアナリストの大井祥子氏は、「携帯電話向けタッチパネル市場はEmbeddedタイプが拡大を続け、Add-onタイプの減少による市場の集約は必至となった。厳しい選択を迫られるタッチパネルメーカーが増加する見込みである一方で、アプリケーションからの新たなニーズに対応して存在感を維持するタッチパネルメーカーもある。1つはセンサのフレキシブル化に対応する高度な技術と開発力を持つメーカー、もう1つは指紋認証やフォースタッチなどの付加機能を手掛けるメーカーである」とし、より高度な技術力が求められる市場になっていくであろうとした。
Embedded化は今後も浸透していくと予測されるものの、搭載アプリケーションの裾野拡大とともにタッチパネルというプレミアムそのものは減少するとも予測。その一方でフレキシブル対応や指紋認証、フォースタッチ、ペン入力、狭額縁といった新たな付加価値への対応がより求められるようになり、ディスプレイメーカーはこれらすべての機能を内製するか、外付けとするかの選択を迫られることになるとした。
なお、大井氏は、「現行技術において、特にフレキシブル対応によるコストアップが著しい。市場の頭打ちを見据えてセットメーカーではどのようにこれを吸収するかが課題となるだろう。また、高付加価値が見込めるとして新規技術、新規参入など市場の活性化も見込まれる」と、タッチパネル市場が新たな段階に入ろうとしていることを説明。中でも、対応アプリの広がりは、個々のアプリケーション特有の要求に対応する必要があるとしたほか、既存アプリについても、市場の変化やセット内容の変化から求められる新たな要求に応えられるタッチパネル技術を核とした材料開発、プロセス開発が進むことが期待されるとした。