パネルの大型化、高解像度化が進むテレビ市場

IHS Markit Technologyコンシューマエレクトロニクス部門シニアディレクター・上席アナリストの鳥居寿一氏

IHS Markit Technologyコンシューマエレクトロニクス部門シニアディレクター・上席アナリストである鳥居寿一氏は、テレビ市場の動向について、「2016年後半からのパネル価格の急激な上昇により、2017年のテレビ需要は、2016年に好調だった北米・中国を中心に弱い状況となっており、液晶テレビの需要もすでに予測されている2億2000万台を上限に下振れする可能性もある」と述べた。

また、「55型以上ならびに4Kテレビの出荷は着実に拡大しており、2017年も前年比でそれぞれ24%増、同42%増の成長を見込む」とするが、2017年第3四半期のパネル価格が想定より下がらなければ、収益面でテレビメーカー(ブランド)側の負担となり、米国および中国での年末商戦が期待以下となるリスクがあるともした。

こうした状況の中、2017年以降は、テレビブランド間のシェア競争が激しくなり、韓国・中国ブランドによる「パワー&サバイバル・ゲーム」へと突入することが予想される。特に社内にパネル部門を持つ垂直統合型で積極拡販を推進するブランドのシェアが増加傾向にあり、中でもトップのグローバル・ブランドは、プレミアム有機ELテレビなどハイエンド機種をそろえることで大型・4Kに対する構成比率を上昇できるため、パネル価格の上昇を吸収することができる可能性があるという。

また、中国のストリーミング・ブランド界隈は、BAT(中国のインターネット業界を代表する3企業、百度(バイドゥ)、阿里巴巴(アリババ)、騰訊(テンセント))を中心にコンテンツメーカーがスマートテレビ周辺市場に進出、着々とビジネスモデルの確立を目指していることから、LeTVは大きく台数を落とす可能性があるとする。

さらに、2017年は「ブランド数の拡大」、「画質の向上」、「差別化仕様・デザイン」といった流れにより、有機ELテレビがプレミアムテレビとして一定の地位を確保することが見込まれる。「最大の成果は、量販店のテレビ売場で一般の消費者が説明無しで『有機ELテレビの画質は綺麗である。先進技術を採用した製品である』と容易に感じることができる点にある」(同)とのことで、2018年以降の液晶テレビがそうした流れに対抗していくためには、北米を中心に75型の拡大を目指すほか、2020年の東京五輪という最大のコンテンツ・機会として8Kをどのように活用していくのか、さらには2025~2030年へ向けた長期的な取り組みとして据えて臨んでいくことが必要になるとした。

市場が拡大するも価格が足かせとなっている有機ELテレビ市場

IHS Markit Technologyコンシューマエレクトロニクス部門プリンシパルアナリスト韓国駐在のKen Park(朴慶善)氏

有機ELテレビに注目が集まるようになってきた2017年。こうした動きの背景について、IHS Markit Technologyコンシューマエレクトロニクス部門プリンシパルアナリスト韓国駐在のKen Park(朴慶善)氏は、「液晶テレビ市場は、すでに台数のピークを向かえ減少トレンドに入った。最大のポイントは、大きくて安価でありさえあれば良く、差別化ができなくなってきた点にあり、液晶パネルという技術では、もはや減少トレンドに歯止めをかけることができない。しかし有機ELは、液晶と比べて高画質で、誰が見ても発色が鮮やかできれいだとわかる新技術であり、消費者に訴求しやすいことから、注力しやすい技術となっている」と説明。参入ブランドもこの1年間で東芝、パナソニック、ソニーなどを含めて2倍の12ブランドに増加。1500ドル以上のプレミアムテレビ市場では37%、3000ドル以上では半分以上のシェアを獲得し、液晶テレビ市場を侵食している」と説明した。

ただし、さらなる普及に向けた課題もある。その最大のポイントが価格で、「有機ELテレビの価格は同型の液晶テレビ+10型程度の価格帯で消費者に高いという印象を与えている。パネル供給メーカーもLG Display 1社に限られており、生産能力に限りがある」としたほか、テレビでトップクラスの地位にあるSamsungが液晶テレビから量子ドットLEDテレビへの方向性を打ち出し、有機ELテレビを否定していることも、有機EL普及の足かせになっているとの見解を示した。

パブリックディスプレイとデスクトップモニター市場

IHS Markit Technologyコンシューマエレクトロニクス部門ディレクター・上席アナリストの氷室英利氏

パブリックディスプレイ市場については、IHS Markit Technologyコンシューマエレクトロニクス部門ディレクター・上席アナリストの氷室英利氏が見解を示し、「堅調に拡大しており、ディスプレイ以外の企業参入や中国市場の拡大などが注目される。特に中国メーカーの動きが速い。また、用途別では、店舗に設置するサイネージが中心であるが、今後は付加価値モデルを中心に運輸、教室、会議室への需要拡大、加速が期待される」と説明し、今後は、用途や目的により「適材適所」の最適ソリューション提案力、製品ラインアップの整備などが求められるようになるとした。

また同氏は、デスクトップモニター市場にも言及。「単純な"デスクトップPC用の画面"から脱却し、多様な映像ホストに接続する機会が増え、さらにモバイルデバイスにできない大画面(単体の大画面のみならず2画面以上のマルチディスプレイ含む)、高解像度の容易な享受が可能になったことで、モニター市場は再拡大の可能性がでてきた」とし、技術トレンドとして「高付加価値化」を挙げた。中でも表示する情報のうち、静止画であれば表示色域の拡大が必須要件となっていくとしたほか、ゲーム用途やストリーミング視聴など、動画の占める割合が今後ますます増加する傾向にあり、そうしたニーズへの対応も求められてくることとなるという。

高付加価値化による新たな需要の創出と買い替えサイクルの短縮が期待されるほか、最大の期待は2020年のWindows 7のサポート終了に向けた需要の盛り上がりであり、それを踏まえた次の需要ピークは2019年かもしれないとしていた。

(次回は9月21日に掲載予定です)