ポスト有機ELとして「マイクロLED」や「量子ドット・ディスプレイ」が候補に挙がっている。IHS Markit Technologyディスプレイ部門シニアディレクター兼上席アナリストのCharles Annis氏は、今回のフォーラムにおいて、初めてマイクロLEDについて以下のように言及した。

  • ソニーが大型スクリーンのLEDディスプレイをデモしたり、Apple/LuxViewがApple Watch向けにマイクロLEDを開発中で、いずれ量産するのではないかとのうわさで、マイクロLEDディスプレイに注目が集まっている
  • 発光効率や反応時間(ナノ秒レベル)や消費電力や動作温度範囲(-100~+120℃)や寿命の点で有機ELより優れていて、有機ELのように酸素や湿度が存在すると劣化するというようなこともない。カラーフィルタもバックライトも不要なシンプルな構造でコスト低減のポテンシャルはあるが、どうやって量産し、製造コストを低減できるか未知数で、現段階で大きな期待を持つには早すぎる。多数のLEDを配置する量産技術の確立に時間を要するとみており、設備投資につながってくるのはかなり先だろう
  • 現状では、輝度の高さや低消費電力や小型化が可能なためスマートウォッチ、輝度の高さや大型化が可能なためサイネージなどのパブリックディスプレイ、フレキシブル化や長寿命や動作温度の広さなどの特徴を生かして車載といった用途に使えるとみているが、浸透率は緩やかだろう。生産能力やコストを液晶および有機ELと比較すると、スマホやテレビを置き換えるのはかなり難しい。

段階的に量子ドット・ディスプレイの実現を目指すSamsung

Samsung Electronicsの大型テレビは、LG Electronicsの白色ベタ塗り+カラーフィルタ方式の有機ELを追従せず、3原色塗り分け・独立自発光の量子ドットLED(QLED)ディスプレイ方式へ段階を追って移行しようとしている。

IHS Markit韓国駐在のアナリストは、その様子を以下の図のような模式図を使って説明した。(1)まず第1段として、液晶ディスプレイのバックライトの直上に高色域化し鮮やかな画像を実現する量子ドットシートを配置する方式。これはすでに商品化している(図の左)。(2)第2段として、現在、バックライト上の量子ドットシートを廃止し、量子ドットをカラーフィルタとして用いる方式を開発中だという(図の中央)。(3)そして最終的には、バックライトも液晶もやめて量子ドットに電流を流して自発光させる(図の右)。

同社が市場をほぼ独占しているスマホ向け小型有機ELパネル(3原色独立自発光)の有機EL部分を量子ドットLEDで置き換えたシンプルな構造である。同社が有機ELパネル製造に採用しているメタルマスクを用いた真空蒸着方式では大型パネル製造が困難だが、量子ドットは印刷法が適用でき大型化に向いているという。

量子ドットは無機発光物質であるため、化学的に安定で信頼性が高い。色純度が高く、色再現範囲が広く、明るく、高効率で長寿命が期待され、マイクロLEDと"究極のディスプレイ"を競うことになることが期待される。

すでに2017年5月に米国ロサンゼルスで開催されたディスプレイ国際会議展示会「SID(Society for Information Display)」においても、中国BOEが5型と14型の2種類の量子ドットLEDを展示していた。量子ドット層はインクジェット法で作製したという。すでに中国メーカーが量子ドットLEDディスプレイの開発で、ある程度の段階まで到達しているという事実は脅威である。このように、世界中の多くの企業や研究機関が実用化を目指して開発に取り組んでいることもあり、日本勢の動きにも期待したいところである。

図 Samsungの量子ドットテレビの進化予測 (出所:IHS Markit)

(次回は9月7日に掲載予定です)