ものづくりの世界において、コンピュータの演算能力の向上は、従来の実際の試作品を用いて行っていたテストから、コンピュータ上でシミュレーションを行い、その挙動などを解析することで、試作品製作コストの低減や開発速度の向上を可能にした。フローサイエンスジャパンが提供する汎用3次元熱流体解析ソフトウェア「FLOW-3D」もそうしたシミュレーションを元に、コントロールボリュームによるFDM(Finite Difference Method:有限差分法)に基づいて非定常流れを解くことが可能なソフトであり、正確な自由表面流れを予測することができることから、鋳造や水理、コーティング、射出成形、航空宇宙、船舶、インクジェット、コンシューマ機器といった幅広い分野で活用されている実績を持つ。
また、同社ではFLOW-3Dが汎用製品ということもあり、標準パッケージでは、先端の問題を取り扱うユーザーなどには機能が不足している部分が出てきているとの認識から、そうした問題について、従来の個別ニーズごとのカスタマイズ対応から、ユーザーが負担する開発コストの軽減を目指し、自社にて要望の多い機能の開発・提供を進めており、現在、以下の6つの新機能が提供可能となっている。
- レーザ溶接
- DEM(個別要素法)
- F.SAI
- 気泡追跡
- Cad2Stl
- FLOW-VU
レーザ溶接を用いた新たな溶接ニーズへの対応
近年、レーザ発振器の高性能化に伴い、さまざまな産業でレーザ溶接もしくはアーク溶接とレーザ溶接を組み合わせたレーザ・アークハイブリッド溶接が活用されるようになってきた。
レーザ溶接には大きく分けて、レーザの照射により対象物の表面を広く浅く溶かす手法である「熱伝導型レーザ溶接」とレーザをレンズを介して焦点を絞ることで高いエネルギーを狭い範囲に当て、ピンポイントで深く掘り下げていく「深溶け込み型レーザ溶接(キーホール型溶接)」があるが、そうしたレーザ溶接を用いた際の「ブローホール」と呼ばれる欠陥となる気泡がどのように形成されるのか、表面に溶け込み、溶融池を形成した金属がどのような流動パターンを形成するのか、溶接後の形状の解析から、よりより溶接条件はどういったものか、といった現象をシミュレーションで解明したいというニーズがあった。
FLOW-3Dの標準機能でもアーク溶接であれば物理モデル化することができるが、現状、レーザビーム関連の機能は搭載されていなかったという。そのため、今回の新機能では、レーザにより生成される熱流束やレーザ光源の移動・設定状態、蒸発反力が大きく現象評価のために無視できないことからの蒸気圧、シールドガスといった特有の機能を開発することで、レーザ溶接に対応したほか、ポスト処理もこれらの処理に応じた結果表示をできるようにしたという。
例えば、レーザ光源が移動しながら溶接していくためのジオメトリックな関係を設定できる機能や、レーザ照射の際のフォーカシングをどうするかといったことを設定できる機能などを搭載することで、熱伝導型でも深溶け込み型でも容易にモデル化を図ることを可能とした。
また、アーク溶接では指向性がないためハンピングビードといった連続したこぶ(不整ビード)ができてしまうという課題が、レーザ溶接は指向性はあるものの解析誘導が狭いという課題がそれぞれあるが、それらを補う手法としてレーザ・アークハイブリッド溶接が活用されている。このようなハイブリッド溶接は、アーク溶接の指向性を向上させ、レーザ溶接単体よりも高速な溶接を実現できるため、将来的にも活用が期待されており、今回提供を開始した新機能と標準機能がジオメトリックな関係を保ちながら入力できる機能を活用することで、そうした技術もモデルとして取り扱うことが可能になっている。
粒子と流体の流動計算における粒子同士の相互作用を考慮した「DEM」
FLOW-3Dの標準の質量粒子モデルは、あくまで粒子間の相互作用を無視するというものだが、実際に粒子と流体の流動計算を行うにあたって、粒子同士の相互作用は無視できないとニーズがあった。「DEM」はそうしたニーズにこたえることを目的として開発された機能だ。
この機能を活用することにより、粒子同士が衝突する際の接触時の力、作用する力をモデル化することが可能となる。これは2つの粒子だけでなく、複数個の粒子衝突を考慮することもできる。
DEMを用いで評価される力は、フォークトモデルと呼ばれる"バネ"と"ダッシュポット"でモデル化されている。弾性力部分がバネモデルで、非弾性衝突のエネルギー散逸の部分がダッシュポットで模擬されており、働く外力として重量や抗力を考慮することもできる。
基本的に用いる運動方程式はFLOW-3Dで使われている質量粒子の運動方程式と同じものだが、ここにDEMとして評価される項目が追記される形となっており、実際のシミュレーションとしては、「ボイド+DEM」、「1流体+界面無し+DEM」、「1流体+界面有り+DEM」を基本的な流動モードとして取り扱うことが可能。粒子タイプも、標準機能の質量粒子モデルと同じように粒子サイズ(半径)と密度が同じもののほか、サイズは同じだが密度が異なるものや密度は同じだがサイズが異なるもとといったものも扱うことが可能だ。これらにより標準の質量粒子モデルでは、粒子同士の相互作用が考慮されていないため、すべて下に沈んでしまっていたが、DEMを用いることで有限のジオメトリックな関係を評価することが可能になる。
ちなみに、DEMを用いた実際の計算では粒子数が膨大になるので、計算負荷が高まることから、現実的な計算リソースを考えると、粒子の粗視化を行う必要がある。粗視化の方法は複数あるが、粗視化をした場合と粗視化の代わりに粒径を大きくして数を減らした場合で比較すると、粒径を大きくした場合、個々の粒子特性が変化して挙動が変わってしまうため、実際の計算としては使えないことなってしまうということが理由の1つだ。
また、DEMでの計算負荷を考える際には、粒子モデルによる安定制限を考慮する必要があるが、サブタイムステップという考え方を導入することで、粒子の場合と流体の場合のタイムステップを変え、必要以上に計算時間をかけないで効率よく計算を行うことを可能としている。
これにより、例えば同社が行った中子砂の吹き込みのシミュレーション実験では、こうした問題でよく用いられるビンガム流体では実験との整合性があまり良くないため、同社では以前から粒状流モデルというモデルを開発し、連続体からのアプローチでも実験との高い整合性を実現できるモデル化を成し得てきていたが、今回のDEMを使ってもそれとほぼ同じ結果を得ることができることを確認しているとする。