今回は、実際に作品を作り出す前に、Flashがどのように使われているのかを見てみよう。Flashを利用する場合、ふたつの意味がある。ひとつはオーサリングツールとしてのFlash。もうひとつは最終フォーマットがFlash形式である"SWFフォーマット"であるということだ。前者は、制作課程から、Webでの配信形態もFlash(SWF)であり、一貫してFlashが利用されている。一方、後者はFlash以外のツールも組み合わせて使っている。この方法が出てきたのは、現在、FlashのSWFフォーマットが普及していることに起因している。この講座では、オーサリングツールとしてのFlashに重点を置き、解説していきたい。
今回はFlashコンテンツというものが、どんなものを指すのか、Flashを学習する上でよく耳にするキーワードにちなんだ実例を紹介していこう。次回では、さらに自然にFlashを利用している実例を紹介する予定だ。
アニメーション
アニメーションのメディアは多種多様で、Flashともっとも相性が良いWebから、TV、映画、DVDまでと幅広い。また、WebでFlashから書き出す映像は、SWFフォーマットから、MOV(QuickTime形式)、GIFアニメーションまで様々なスタイルがある。
国際的に高く評価されている、うるまでるび(※代表作『おしりかじり虫』など)は、アニメーション制作にFlashを使用している。最近ではオリジナルのアニメーションツール「うるまでるびペイント」を開発しているが、実はこのツールからSWFフォーマットへの出力が可能なのだ。つまり、オーサリングツールは独自でも、再生環境は普及しているFlash形式を採用しているということになる。また、ラレコ氏の『やわらか戦車』、蛙男商会の『鷹の爪団』、マイコミジャーナルで『創作番長クリエイタ』を連載している青池良輔氏の『CATMAN』などがFlashを使用したWebアニメーションでは有名。これらの作品のうちいくつかは、Webにとどまらず、TV、映画、DVDと様々なメディアに展開している。当初はWeb用アニメーションツールとして利用されていたFlashだが、現在はWeb以外のアニメーション制作ツールとしても利用されているのだ。
ゲーム
Flashはゲーム制作者側から見ると、プログラミング言語と、グラフィック機能を持ち、音声なども自動で圧縮してくれるなど、非常に使い勝手が良いツールであるといえる。また、ユーザーの立場から見ると、ダウンロードしなくてもブラウザで実行できるという利点は大きい。そのため、Flashを使用したゲームは、本格的な有料オンラインゲームから、無料ゲームまで膨大な数がある。
無料といっても、完成度が高いゲームも多いので、いくつか事例を紹介しよう。たとえば、「MagicPen2」は実際に画面に絵を描いて、ゲームの中にアイテムを作成し、ピタゴラ風に画面の中のアイテムを組み合わせてボールを旗まで移動させるゲーム。「脱出ゲーム」というジャンルを築いたといわれている「CRIMSON ROOM」は、3D風の描画には3Dソフト(plasma)を利用しているものの、Flashを使用した代表的なゲームのひとつだ。
インタラクティブ
FlashがWebで利用されるのは、インタラクティブ性のあるコンテンツを作成するときだ。インタラクティブとは、マウスやキーボードといった入力に対して、なんらかの反応が画面や音で返ってくるというもの。一般的には、その反応がデザインされていて、面白い体験ができるようになっているものを指す。目的を持たずとも楽しめるコンテンツが、インタラクティブ要素の強いコンテンツだと言える。
「UNIQLO_GRID」では、UNIQLOロゴをユーザ操作で合体したり分割することができる。ロゴ分割や合体の様子は、このアプリケーションにログインしている世界中のユーザで共有できるようになっている。インタラクティブが自分だけではなく、ネットの向こう側にいる別の誰かの画面に反映されるのだ。ただし、このようなコミュニケーション型のFlashコンテンツを作成するには、サーバーの開発や設置・高度なActionScriptの知識が必要となる。「AudioTool」は、音楽を作成し、データを保存できるweb上の楽器だ。録音した音源を、他人と共有したり、聞いてもらうこともできる。バーチャルな世界で現実の楽器を詳細にシミュレートしているが、なんとなく触っていれば、楽しむことができるという構造もバーチャルらしい。
サイトメニュー
サイトメニューは、Flash初期の頃から作成されているコンテンツのひとつだ。実は、ActionScriptというプログラミング言語が搭載される前から作成できたので、もっともポピュラーなFlashの利用方法と言える。
「キユーピー」のサイトメニューはFlashで作成した一般的な構成だ。「au お客様サポート」は、トップページすべてをFlashで作成しており、ローディング中は、画面全体をぼかすなどFlashらしい演出を取り入れている。
いかがだっただろうか? 今回紹介したFlashコンテンツは、実際にWebで気軽に見ることができるものが多いので、Flashがどのように活用されているか、確認してみて欲しい。ポイントは、どのコンテンツも特別なツールを使って表現されているわけではなく、みんなFlashを利用しているという部分だ。Flashは難解で特別なツールではない。次回は、よりFlashをWebの中でナチュラルに扱っている実例を紹介していきたい。
伊藤のりゆき(NORI)
有限会社トゴル・カンパニー代表。オーサリングエンジニアとしてFlashとMovable Typeでの制作を中心に活動。ロクナナワーク ショップ講師、アックゼロヨン審査員、ライターとしてFlash関連書籍や雑誌記事の執筆を行うなど、幅広く活動している。また、写真家としての顔も持つ。フォトブログ「Snap || Nothing」はこちら。