経理財務になぜDXが必要か。 それは、これまでの仕事のやり方では、経理財務がその役割を果たすことができなくなっているからです。では、なぜ役割を果たせなくなっているのか、そもそも経理財務の役割は何なのか。今回は、このあたりから、経理財務におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性について解説します。

経理財務の役割

経理や財務と聞いて、会社のお金の管理をしているイメージを持つ方が多いと思います。

日々の入出金の管理や経費管理、決算報告や資金調達など、会社のお金の動きを全般的に管理し、会計帳簿に記録し、経営層や株主などのステークホルダーに会社の財務状況を報告する。

これらはすべての経理財務部門に共通する役割で、財務会計や資金管理と言われる領域です。この財務会計の機能がなければ、会社を作ることはできませんし、お金を管理しなければ、事業を続けることはできません。

一方で、会社の経営状況を定量的な数値として把握し、その数値に潜む問題をとらえ、改善策を提示することで会社を目標達成へと導く「舵取り」のような役割もあります。こちらは管理会計と言われる領域になります。この管理会計の機能がなければ、事業を成長させることは難しく、継続することすら危うくなるかもしれません。

少し具体的に、財務会計と管理会計の内容について、商品を海外から仕入れて国内販売するようなビジネスを例に解説します。

ある期間での商品の仕入れと顧客への売上、顧客への配送などにかかった費用など、売れ残った商品の金額等を計算する際に、決められたルール(≒会計基準)に則ってそれぞれの取引に該当する勘定科目に分類・集計し、今期のもうけがいくらだったかを”損益計算書”としてまとめることは財務会計に該当します。

そして、もうけを計算して当初の目論見よりも少なかった(あるいは多かった)ときに、その差異の原因を突き止め、どうすれば目論見通りにもうけることができるかを検討する材料を提供するのが管理会計です。

売上が少なかったとしたら、差異の原因として、「販売の数量が足りなかったのか」「単価が安すぎたのか」「値引きをしすぎたのか」といったことが考えられます。

一方、仕入が多すぎたとしたら、差異の原因として、「余分に仕入れすぎたのか」「高く仕入すぎたのか」「顧客への配送コストが思ったよりも高かったのか」「円安が進んで輸入価格が高くなり過ぎたのか」といったことが考えられます。

管理会計では、さまざまな観点から定量的な数値情報を分析し、改善施策を検討する材料を提供します。経理財務の管理会計担当者は材料提供に加えて、改善施策を提案することも期待されます。

管理会計は経営企画や事業計画といった経理財務以外の部門の役割とする企業もありますが、他の部署が担うにせよ、ベースとなるのは会計数値です。会計のスキル、上述の例ではもうけを計算する(損益計算書を作成する)ルールやプロセスを理解していないと、その役割を全うすることは困難です。

経理財務を取り巻く環境の変化

近年、企業を取り巻く環境が大きく変化しているのと同様に、経理財務を取り巻く環境にもさまざまな変化が起きています。以下、変化について具体的に見て行きましょう。

財務会計

企業活動のグローバル化やデジタル社会の進展に伴い、会計基準や法律、東証の規則など、財務会計に関連するルールや法律が改正されています。金融商品引法(J-SOX)、IFRS、四半期決算、リース会計基準、電子帳簿保存法、ESG情報開示、人的資本情報開示などが相当しますが、これらはその一部に過ぎません。

なぜ、経理部はいつも忙しそうにしているのか。なぜ、決算は毎回同じことをやっているように見えるのに、いつも長時間残業しないといけないのか。その大きな要因の一つが、こうした制度変更への対応です。事業環境の変化やテクノロジーの進化による事業内容や事業形態に変化は、それを管理するためのさらなるルールの追加・変更をもたらし、その頻度や複雑性は高まるばかりです。

資金管理

グローバルに事業を展開する企業では、サプライチェーンの多様化によって、新しい国や地域で物を作ったり、運んだり、ストックしたりするようになり、その結果、資金が留まる国や地域の数が増え、取引に使う通貨の種類も増加しました。

そのため、資金管理においては、各国の送金規制や為替リスクへの対応で、単に業務量が増えるだけでなく、新たなナレッジやスキルも必要になっています。

管理会計

近年の事業環境の先行き不透明感によって、経理財務の管理会計面での役割に対する期待も以下のように変化しています。

(1)より早く、よりリアルに
予想もされなかったような変化が起こる世界の企業経営では、計画されたことを確実に実行するだけでは不十分で、環境の変化に迅速に対応する機敏性(アジリティ)も要求されます。経営者は市場のニーズや変化をいち早くとらえ、迅速に意思決定を行うことが必要であるため、経理財務部門には、より早く、よりリアルな経営情報を経営陣に届けることが求められています。

(2)情報提供者からビジネスパートナーへ
これまでは、会社の経営状況を分析し、問題点の指摘と改善策を提示することで経営の意思決定を支援する“情報提供者”の役割を担うことが求められていました。

しかし、今は情報提供者を越えて、会計の専門知識やビジネス全体を俯瞰し多面的に分析するスキルを生かし、事業戦略の立案や実行に対して能動的に発信することで経営の意思決定に参画する、いわゆる“ビジネスパートナー”の役割が期待されるようになっています。

これは管理会計というよりもFP&A(ファイナンシャルプランニング&アナリスト)と言われる領域で、欧米企業では以前から積極的に取り入れられていましたが、近年、日本企業でもFP&Aというポジションを設ける企業が増えつつあります。

経理財務の現場が直面する課題

これまでお伝えしたように、経理財務が果たすべき役割は年々、複雑化し、高度化しています。一方で、リーマンショック以降、多くの日本企業が固定費削減を進める中で、経理財務部門はスリム化が進み、限られた人的リソースで、知恵を絞り、汗を流し、最小限の投資で、乾いたタオルを絞るように業務効率化に取り組み、環境の変化に対応してきました。

チームワークと創意工夫で、経営層や株主、監査人、他部門など、社内外からのさまざまな要請に応える少数精鋭の職人集団

経理財務部門の組織としての特徴を少しかっこよく表現すると、こんな感じでしょうか。しかし、今、この職人集団が危機を迎えています。その原因として、以下の2点が考えられます。

(1)経理人材の流動化

1人の人材が1つの企業に勤め続ける終身雇用のスタイルが特に若手世代において崩れつつあることは、経理財務においても以前から見られました。しかし、その傾向が強まるだけでなく、さらに現場で最も戦力を発揮する中堅世代においても流動化が始まっており、職人集団のスキルやナレッジの継承が困難になるだけでなく、現行業務が回らなくなる恐れがあります。

(2)コロナ禍の影響

コロナ禍による出社制限で、全員が同じ場所に集まり、阿吽の呼吸のチームワークで結果を出すという、これまでの仕事の進め方ができなくなりました。中でも最も大きな影響を受けたのが、決算業務です。

決算業務には数多くのタスクがあり、タスクの間には前後関係や親子関係があるため、各タスクの担当者は他の担当者の進捗状況を確認しながら業務を進める必要があります。しかし、突然のリモートワークで進捗状況をリアルに把握することが困難になりました。

また、決算では勘定残高が正しいことを検証するために、会計データ以外に社内の他システムのデータやExcel等で管理しているデータ、取引先からの各種証憑や銀行口座の残高情報など、さまざまな情報を参照する必要があります。そうした情報は、紙の伝票や文書の形でファイリングされているものも少なくなく、オフィスに出社しないと確認することができません。電子化されている情報も、自宅からのアクセスを想定した環境下には保存されていません。

昨今、オフィス出社回帰の傾向も見られますが、自然災害やパンデミックで業務遂行が突発的に困難になるリスクが高くなっており、オフィス出社を基本スタイルとしたとしても、全員が出社をしなくても業務を遂行できる環境の整備は必要です。

これまでいろいろな要求に、最小限の要員で応えてきた経理財務はすでに疲労困憊です。これまでの業務改善とは異なる圧倒的な業務効率化を果たさないと、今後想定されるさらなる変化や要求に応えることはきわめて困難です。

経理財務部が期待される役割を果たすためには、従来の延長線上ではない思い切ったデジタルテクノロジーの活用による業務変革(経理財務DX)が必要なのです。

では、どこから手をつければよいか、どんな形や方向性でDXを進めればよいかについて、次回より解説します。

著者プロフィール


ブラックライン株式会社 ファイナンシャルエキスパート

屋形 俊哉(やかた・としや)

NECで経理部門に約13年在籍の後、SAPジャパンで会計領域のプリセールスとして15年半、財務管理のSaaSベンダーのキリバ・ジャパンでプリセールスとして約3年在籍。現在はブラックライン株式会社にて、経理人材が持つ経営への貢献のポンテシャルの最大化とエンゲージメントの向上のために、経理財務のデジタル化に関する情報発信と提案活動に努める。