9月1日(日本時間)、米国の宇宙企業スペースXの「ファルコン9」ロケットが、打ち上げに向けた試験中に爆発する事故が発生した。この事故によりロケットは完全に破壊され、ロケットの先端に搭載されていたイスラエルの人工衛星「アモス6」も喪失。さらに発射台も大きな被害を受けた。

事故から4カ月が経った1月2日、スペースXはこの事故の調査結果を発表。同時に1月8日の打ち上げ再開を目指すと発表した。はたして、イーロン・マスク氏が「スペースX史上、最も難解で複雑な失敗」と語った事故の原因は何だったのか。そしてスペースXとファルコン9はこのどん底から這い上がれるのだろうか。

爆発し、黒煙を上げるファルコン9ロケット (C) U.S. Air Force

事故調査が終わり、打ち上げ再開に向けた動きが始まっている (C) Iridium

解き明かされた「難解で複雑な原因」

9月1日の事故後、スペースXからはまず11月中の打ち上げ再開を目指すという発言があったものの実現せず、続いて12月中を目指すという発言もあったがこれも実現せず、年明けを迎えることになった。

1月2日、スペースXは事故原因の調査結果を発表し、ロケットの第2段の液体酸素タンク内に搭載してある、ヘリウムの入った3つの圧力容器のうちのひとつの破損によるものだった、と明らかにした。

この圧力容器は外側(外張り)が炭素繊維複合材、内側(内張り)がアルミニウムで作られた二重構造になっており、Composite Overwrapped Pressure Vesselの頭文字から「COPV」と呼ばれている。ファルコン9の第1段と第2段の両方に搭載されており、中には極低温に冷やされたヘリウムが詰め込まれ、各段のタンクの加圧に使われる。

このCOPVは液体酸素タンクの"中"、つまり液体の酸素に沈み込ませた形で設置されており、言い方を変えるとCOPVと液体酸素が直接触れ合った状態にある。圧力容器の中に入った冷たいヘリウムは、冷却し続けなければすぐに温度が上がって膨張してしまうため、同じように冷たい液体酸素に沈み込ませることで、温度が上がるのを抑えている。

今回の事故では、まずCOPVの外側の炭素繊維複合材と内側のアルミニウムとのあいだにある隙間、もしくはアルミニウムが歪んだことで発生した隙間に、推進剤である酸素が入り込んで蓄積。くわえて、炭素繊維の破壊や摩擦によって火がつき、爆発に至ったという。実際、事故現場から回収されたCOPVからは、内張りのアルミニウムが変形していることが確認されたという。

また、COPVの中に充填された極低温のヘリウムが、周囲の液体酸素を冷やして固体酸素にしてしまった可能性もあり、この場合さらに引火する危険が高まるとしている。

COPV。左側は構造が見えるようにカットしてある。これはファルコン9に使われているものとは別物だが、基本的な造りは同じである (C) NASA

ファルコン9の液体酸素タンクの内の画像。画像の右に2つ、左にひとつ見える黒い物体がCOPV (C) SpaceX

COPVのような、炭素繊維複合材を使った圧力容器、というのは珍しいものではなく、金属製の容器に比べ軽く造れるので、ほかのロケットでも、あるいはほかの用途でも広く使われている。また、圧力容器を液体酸素タンクの中に置くことも特段おかしなことではなく、ほかのロケットでも液体水素や液体酸素のタンクの中に圧力容器を入れるといったことは行われている。

しかし、ファルコン9の場合は「COPVを液体酸素の中に入れる」という点がほかにはない特徴だった。ほかのロケットの場合、COPVを使う場合は推進剤タンクの中に入れず、外に搭載する。あるいはタンクの中に入れる場合でも炭素繊維複合材を使わない、純粋な金属製タンクを使用する。

これには、炭素繊維複合材が極低温に弱く、また内側の金属部分との熱膨張率の違いで割れたり破裂したりする可能性があること、生産時に品質にムラが生じやすいこと、さらに液体酸素という強力な酸化剤の中に炭素繊維複合材を入れることは(まさに今回のような)引火につながる可能性がある、といった理由がある。

さらに、ファルコン9の現行型「フル・スラスト」では、推進剤をたくさん詰めるよう、通常よりもさらに冷やして密度を高めており、さらにヘリウムもより冷却し、さらに充填も打ち上げ直前に急速に流し込むという手順をとっていた。そのためほかのロケットよりも各部分へかかる影響が大きく、それが今回、COPVで顕著に出た、ということもあった。

こうしたファルコン9ならではの理由が重なり、事故に至った。

1月8日の打ち上げ再開を目指す

事故発生後、スペースXは「故障の木解析」と呼ばれる、こうした事故ではおなじみの解析方法を使って原因を推定。さらに地上での再現試験なども経て、特定に至った。調査には連邦航空局(FAA)、米国空軍、米国航空宇宙局(NASA)、そして国家運輸安全委員会(NTSB)、外部の専門家なども参加しており、今回の結論には彼らスペースX以外の専門家の同意も得られたものと考えられる。

スペースXではこの調査結果を受け、短期的、長期的の2つの面から是正措置を取るとしている。

まず短期的には、COPVの設置場所を変え、詰め込むヘリウムの温度をこれまでよりも若干上げられるようにするという。もちろん極低温であることには変わらないが、少なくとも隣接する液体酸素が固体にならない程度には温度を上げるということだろう。またヘリウムを充填する手順も以前のやり方に戻し、ゆっくり流し込むようにするという。この場合、ヘリウムの充填量が減ったり、充填中に蒸発するヘリウムの量が増えるなど、効率やかかるコストという点でやや劣るものの、致し方ないところだろう。

また長期的には、COPVの内側のアルミニウムの歪みを防ぐための設計を変えるとしている。これが完成すれば、ヘリウムを充填する手順をもとに戻し、ここ最近と同じ、急速に流し込めるようにできるとしている。

1月2日の時点で、ファルコン9の打ち上げ再開は1月8日に予定されている(時刻は不明)。打ち上げ場所はカリフォルニア州にあるヴァンデンバーグ空軍基地で、衛星通信会社イリジウムの通信衛星「イリジウムNEXT」を10機まとめて打ち上げる。

ヴァンデンバーグ空軍基地で進むファルコン9の組み立て (C) Iridium

すでに衛星の用意も完了している (C) Iridium

また、事故が起きたフロリダ州ケイプ・カナヴェラル空軍ステーションはまだ修理中だが、隣接するケネディ宇宙センターの第39A発射台を使えるようにする作業が進んでいる。この発射台はもともとスペース・シャトル、さらにさかのぼるとアポロ計画で使われたサターンVロケットが打ち上げられていた場所で、シャトルの引退後にスペースXがNASAから借り、同社の有人宇宙船「ドラゴン2」を打ち上げるための改修を続けていた。しかし、今回の事故が起きたことで、ドラゴン2だけでなく無人の人工衛星も打ち上げられるようにするための改修も同時に行われることになった。

もともと事故前から、ドラゴン2を打ち上げるための作業が進んでいたこともあり、改修作業はほぼ完了し、1月下旬には打ち上げが可能になるという。

かつてサターンVやスペース・シャトルが打ち上げられたケネディ宇宙センターの第39A発射台は、現在ファルコン9などを打ち上げられるように改修が進んでいる(画像は想像図) (C) SpaceX

NewSpaceの雄、這い上がれるか

結論から言えば、今回の事故はスペースXに極低温の液体酸素やヘリウム、そして炭素繊維複合材を扱うための知見が欠けていたということになろう。また、今回の事象が試験で再現できたということは、事前の試験も不十分だったということになるだろう。さらにファルコン9は2015年にも一度失敗しており、このときの原因はCOPVを支える支柱に欠陥があったと結論付けられているが、実は今回と同様の原因だった可能性も指摘されている。いずれにしても、同社がファルコン9の開発、そして改良を急ぎすぎた結果という感は否めない。

だが、そうした今流行の言葉で言うところの「スピード感」こそが、スペースXをスペースXたらしめているのも事実で、ほかのロケットのように入念な設計や開発、試験を経ていれば、今回のような事故は起きなかったかもしれないが、一方で同社が今日のような著しい成長を果たすこともなかっただろう。そしてこれからも、重厚長大なこれまでの宇宙開発とは一線を画するこのやり方を、彼らは貫き続けるだろう。

しかし、その姿勢をどう評価するのかは顧客である。衛星の事業者が、いくら安価でも危なっかしいロケットに自社の衛星は載せられないと判断すれば、スペースXは商業打ち上げという収入源のひとつを失うことになる。また今年以降からは米空軍など政府系衛星の打ち上げも始まり、さらに2018年からは宇宙飛行士を乗せた有人飛行も控えており、同社にとってはとにかく8日の打ち上げを成功させ、さらに連続成功を続けていくことで、顧客の信頼を取り戻していくほかない。

また、COPVの設計変更を行うということは、これまでのロケットの設計が間違いであったということを意味する。スペースXはファルコン9で政府系衛星や有人宇宙船を打ち上げるにあたって、米空軍やNASAなどから審査と認証を受けてきたが、その有効性も疑わしくなる。設計変更後のロケットそのものの再認証が必要になるのか、設計を変えた箇所のみ最低限の再審査で済むのかは現時点では定かではないが、ともかく2017年はスペースXにとって試練の年となりそうである。

もっとも、スペースXはそんな心配をよそに、2016年12月29日、Instagramに「ファルコン・ヘヴィ」ロケットの写真を投稿した。ファルコン・ヘヴィは同社が今年打ち上げ予定の巨大ロケットで、ファルコン9を3機束ねたような姿をしている。

まだファルコン9の事故の調査結果を発表する前の段階でこの写真を公開したあたり、ファルコン9の打ち上げ再開はもちろん、さらにその先へも我々は立ち止まらず突き進んでいくぞ、というメッセージのようにも受け取れる。

ファルコン・ヘヴィの想像図 (C) SpaceX

スペースXが2016年12月29日に投稿したファルコン・ヘヴィの写真 (C) SpaceX

【参考】

・Anomaly Updates | SpaceX
 http://www.spacex.com/news/2016/09/01/anomaly-updates
・SpaceX failure probe complete; flights to resume Sunday from California - Spaceflight Now
 http://spaceflightnow.com/2017/01/02/spacex-failure-probe-complete-flights-resume-sunday-from-california/
・Iridium satellites closed up for launch on Falcon 9 rocket - Spaceflight Now
 http://spaceflightnow.com/2016/12/30/iridium-satellites-closed-up-for-launch-on-falcon-9-rocket/
・SpaceX plans Jan. 8 return to flight after completing failure investigation - SpaceNews.com
 http://spacenews.com/spacex-plans-jan-8-return-to-flight-after-completing-failure-investigation/
・Falcon 9 Fireball And COPV Safety
 http://www.spacesafetymagazine.com/space-disasters/falcon-9-fireball-copv-safety/