独自の健康食品や化粧品をECに特化した形で販売している北の達人コーポレーションをご存知だろうか? 同社は会社名から類推できるように、北海道札幌市に居を構えており、2015年11月に東証一部上場後も本社を動かさず、地場の企業として力を見せている。
ECサイトに欠かせないものは導線の確保であり、SEOなどのサイト改善以外に求められることと言えば、SNS運用であり、Web広告だろう。もちろん、Web以外の広告も重要な流入経路となりうるが、北の達人コーポレーション セールスマーケティング部の部長を務める安倍 晴日氏によると、広告予算の大部分はWebに充てているという。
細かいセグメントがFacebook広告の魅力
「FacebookとGoogle,Yahoo!を中心にECサイト『北の快適工房』のWeb広告を打っています。新聞の折込やTV CMという選択肢も否定はしませんが、Web広告による流入であれば、お客様の情報を細かに把握している分、我々も早いタイミングで顧客フォローが容易にできます」(安倍氏)
Webの強みは、単に顧客のサイト流入が読めるからだけのものではない。例えば、海外のユーザーにも容易にアプローチできる点だ。
「昨年の年末に台湾支社の営業を開始しました。それ以前から、海外への出稿を行っていましたが、Facebookは細かいセグメントでターゲティングできるため、かなり反応が良かった。また、我々は北海道の会社ですが、その立場を活かした北海道の魅力発信をFacebookのファンページで行うことで、広告流入だけではないファンの育成を行っています」
同社は公式ファンページで、台湾や香港などの中国語圏の国・地域に"メルマガ感覚"な北海道の観光情報を発信している。両地域では雪が降らないため、雪の写真などを掲載すると良い反応が返ってくるのだという。今後は、タイ語での運用も検討している。
「Facebookの広告運用は、国ごと、デバイスごとのセグメントがきめ細やかにできますし、カスタムオーディエンスで実際の購買層に近い層へ向けてピンポイントで広告が打てる。その上、Facebookの純正広告管理ツールがかなり使いやすく、出稿効果分析、画像のABテストといった欲しい機能が充実している。なので、代理店を挟まずに直接Facebookとやり取りして、出稿を行っています」
Facebookのセグメンテーションは、あまり説明はいらないかもしれない。1歳ごと、趣味や関心、旅行中で今どこにいるのかといった運用側も想定していないような細かいターゲティングが可能になる。
「GoogleとYahoo!の二強時代にはなかった細かいターゲティングが簡潔なインタフェースで設定出来る事が大きな魅力ですね。もちろん、それだけでなく、カルーセル広告やキャンバス広告といった、ユーザーさんに直接魅力的に映る広告商材の利用も前向きに検討しています」
LINEやInstagramなどもしっかりカバー
そもそも同社がSNSに関心を寄せたのは2011年、ちょうどスマートフォンが若年層に急速に広まった頃だ。
「実は、mixiやGREEなどの国産SNSでも広告運用は行っていました。ただ、スマートフォンの普及とともに、FacebookやTwitterも大きく伸びてきたので、そのタイミングでこちらにも出稿を行うようになりました」
SNSに限らず、Webサービスの栄枯盛衰は非常に短期間で移ろいが見られる。直近では、LINEやInstagramへの出稿も行っていると安倍氏は語る。
「LINEは、直近でキャラクター契約中のタレントを活用した広告施策を展開しました。やはり、各社が試験導入で様子見している段階で積極的に打ち出すことが重要かと考えています。Instagramについても、昨年10月の正式な広告解禁前から運用させていただきました。こちらは、顧客の満足度向上よりも、勾配のきっかけになるようにと、ブランディング目的で出稿しています」
化粧品という商材がゆえ、同社は国内外でさまざまなタレントとキャラクター契約を結んでおり、彼女らに商品を宣伝してもらう"拡散プロモーション"を打つことで、少ない費用で大きな効果を狙っている。
Twitterの場合は、Facebookと比較して140字+商品画像という明快さから数万件のRTによる拡散効果があった。一方で、Facebookは「狙っている客層に合致する広告を打てば、少し高い洗顔料であっても売れる時は売れます。特に中華圏の国では、いわゆる"爆買い"されるお客様も多く、Facebookを利用している年齢層と合致していることもあり、大きな効果を生んでいます。ユーザー継続率もFacebookの方が良いと感じています」と、安倍氏はユーザー層にあわせたきめ細やかな運用の重要性を語る。
ちなみにInstagramはまだ掴みきれていない部分もあるようで「Facebookと同一のコメントで投稿したら、Instagramだとコンバージョンレートが下がったことがありました。同じ10代女性でセグメントしても、Facebookは情報収集がメイン、Instagramは好きなフォロワーを"流し見"という文化の違いがあるのかもしれません」としていた。
同社のInstagram広告。化粧品メーカーにおいては、Instagramはある意味主戦場となるだろう。Facebookの管理ツールでInstagramに出稿できることもあり、運用も容易と安倍氏は語っていた |
海外への足がかりは「灯台下暗し」?
昨年末にできた台湾支社は、まさに海外進出を本格化させる一手となるが、当然Web広告へのフィードバックも重要な要素となる。
「そもそも台湾支社となった理由の一つに、札幌でのヒアリングがあるんです。札幌駅近くに本社を構えているのですが、たくさんの中華圏観光客の方が化粧品や薬をドラッグストアで買い占めていらっしゃったんです。そうした方々に話を聞くと、台湾の方が多かった。加えて、台湾の人口の7割がFacebookを利用されている上、ヒアリングでも『Facebookで情報収集している』という回答が非常に多かったんです」
このように、単なるWeb上の頭でっかちな分析ではなく、地に足の着いた調査を含めた総合的な判断が、成功につながっているようだ。また、こうした成功ノウハウをそのまま後輩に受け継ぐのではなく、実作業という形で覚えてもらうことで継続的な運用に繋げていきたいと安倍氏は将来像を語っていた。
「先ほど、代理店を挟まずにという話をしましたが、単にきめ細やかな運用ができるという話だけではありません。会社の人間として、作業を1つ1つ自分でこなすことが、社員として会社に残せる財産になるのではないかと考えているんです。もちろん、代理店運用がダメというわけではありません。ただ、『ユーザーの方からの声を自分たちの目で見て、その声を原稿に活かす』といった作業は、社員でしかできないことだと思います。1年目、2年目の社員がそうした積み重ねを大事にやっていくことで、将来大きな結果に繋がると期待しています」