有機野菜などこだわり食材の宅配サービスを展開する「Oisix(オイシックス)」は、顧客とのリレーションシップと新規会員獲得を目的に、2012年からFacebookページを運用している。
現在はモバイルに重点を置き、オーガニックの記事は主に広報チームが担当。季節にあわせた情報発信で接点を広げる一方で、新規顧客の獲得には積極的にFacebook広告を活用している。こちらはプロモーションチームが担当し、定期会員の獲得に向けた第一歩となる「おためしセット」の購買へと結びつけている。
ちなみにこの「おためしセット」の累計販売数は、2015年夏時点で100万セットを突破。この数字はもちろん以降も伸び続けており、そのことにFacebook広告も貢献しているという。成功の舞台裏と現在進行中の新たな取り組みについて、Oisix EC事業本部 PR&リテイン室の白石 夏輝氏と井上 政人氏に話を伺った。
オーガニック投稿とFacebook広告で明確に役割を分担
2015年末時点で6万人近いファンを獲得しているOisixのFacebookページ。季節ごとの料理やリアル店舗のキャンペーン情報、食材へのこだわりといった記事が、たくさんのおしいそうな写真とともにタイムラインに並んでいる。
白石氏によれば、掲載するコンテンツは社内から募って決めているとのこと。
「毎週発信したい情報のある人を募集して、こういう新商品を準備しています、店舗でこういうことをしていますといった、内側の取り組みを紹介しています。メインのコンテンツはやはり食材と料理で、直接通販ページへつなぐものも多いですが、季節ごとに旬な話題を取り上げるなど、単なる宣伝にならないように心がけています」(白石氏)
オーガニックの投稿でユーザーとの接点を広げる一方で、Facebook広告では新規顧客獲得にフォーカスし、「おためしセット」の販売を促進してきた。「『おためしセット』は季節ごとに内容が変わり、キャンペーンも1週間に一度の頻度で変えています。広告も流用分を含めて5パターンくらい用意して、立て続けに同じものが表示されないように工夫しています」と井上氏。
メインのターゲットは子育て世代やプレママ世代の主婦層だが、「アクセスしているお客様の年齢層を調べたら、意外にシニアの方もたくさんいらっしゃることがわかったので、最近はターゲットの年齢を広げるなど、さらにいろいろなトライアルをしています。また過去には、他のECサイトに『いいね!』をしている人にターゲティングしたことも。そのときはやはり通販に親和性の高い人が多かったのか、比較的良い結果が得られました」(井上氏)。
狙った層にターゲティングできるのはFacebook広告の強味だが、「ターゲットを絞り込みすぎるのは危険」と白石氏はいう。たとえば「既婚」で絞り込んだ場合、結婚しているがステイタスをまだ変更していない人が、ターゲットから外れてしまうことがあるからだ。
「『豊かな食生活を、できるだけ多くの人に』という企業理念を実現するという意味でも、あまり対象を絞り込みすぎず、今Oisixに興味を持っていない人にもアプローチしていかなければならない。顕在的なニーズだけでなく、潜在的なニーズも呼び起こす必要があります」(白石氏)
白石氏はそのための場としても、FacebookをはじめとするSNSに期待しているようだ。
日々ユーザーが抱える悩みに答える広告でニーズを喚起
では、具体的に「SNSで潜在的なニーズを掘り起こす」とはどういうことか。
白石氏は店舗でのキャンペーンを例をあげて、こう説明する。
「たとえばお店の入り口で会員獲得のためのキャンペーンを展開しても、お客様は買い物がしたくてお店に来ているので素通りされてしまう。買い物後ならまだしも、そういう場所でふらっと立ち寄ってみようとはならないんです」(白石氏)
そしてこれは、オンラインでも同じことのようだ。メールのDMなどは今や簡単に素通りされてしまうし、リスティング広告ではユーザーが能動的に検索するのでマッチしたときのコンバージョン率は高いが、それ以外の人たちにはアプローチできない。対してSNSは、「それ自体がふらりと立ち寄るような場になっている」というのだ。
「従来のプロモーションのように、こちらから一方的に発信する形ではなく、FacebookなどのSNSでは、お客様がふらりと立ち寄ったタイミングで広告を配信することができます。何かないかなというところへ情報を提供すれば、能動的ではないにしても、嫌な気持ちにはならない。Oisixに興味がないお客様のハードルも、下げることができるのではないかと思っています」(白石氏)
ただ、ふらっと立ち寄ったタイミングを逃さないだけでなく、興味を持ってもらうようなアプローチも当然重要な要素だ。
これまで井上氏がトライしてきた中では、「お客様が抱える潜在的な悩みを、解決するといった内容に効果があった」という。
レシピとともに料理の材料が小分けされた「Kit Oisix おためしセット」という商品を、「お子様がテレビを見ている20分ほどの時間で作れる夕食キット」として訴求したところ、「おためしセットが1980円」というように価格で訴求していたときよりも、クリック率が1.5%ほど上がったという。
「ほかに、『私が献立を考えなくなった理由』というコピーで展開したケースも、クリック率が高かったですね。忙しいお母さんは献立を考えるのもすごくたいへんで、これはお客様インタビューなんかでも良く出てくる声。そこで、献立を自分で考えずに夕食が作れるキットがあるとアプローチしたら良い結果が出ました。Facebookではこのように潜在的なニーズに働きかけるような訴求が、ささりやすいという傾向があるかもしれません」(井上氏)
動画で商品理解や利用イメージを訴求し、定期会員を獲得
OisixではKPIとして、「おためしセット」の購入だけでなく、さらにそのユーザーが定期会員になるまでの「定期会員獲得コスト」を重視している。
「おためしセット」を購入したユーザーを定期会員に引き上げる「引き上げ率」は、やはり能動的にOisixを求めてやってくるリスティング広告に"分"がある。
ふと立ち寄ったSNSから「おためしセット」を買ったユーザーをどう定期会員に引き上げるか、「潜在的なニーズを呼び起こすだけでなく、いかにその先の能動的な購買につなげるかが課題」と井上氏はいう。
そのための取り組みのひとつが「動画」を使った訴求だ。先ほどの「20分で作れる夕食」や「私が献立を考えなくなった理由」も、動画を使って訴求した。
広告のクリック率自体は静止画でも動画でも大きく変わらないが、定期会員への引き上げ率は高くなるという傾向があったという。「商品への理解や、利用シーンがイメージできたことがプラスになったのではないか」と井上氏は分析している。
今後はLINEやInstagramなど、他のSNSにも横展開を広げ「ふらっと立ち寄った場所での接点を広げていきたい」という白石氏。
「チラシ的な直球の宣伝ではなく、役立つ読み物的なコンテンツを配信しながら、それを広告と組み合わせることで、より深くOisixを知ってもらえるようにしていきたいですね。食材1つ1つの良さを伝えながら、そこにチラシ的な要素があれば売上げにもつながっていく。そういうプロモーションを目指したいです」(白石氏)