クラブツーリズムは2009年から、訪日外国人向け国内ツアー「YOKOSO Japan Tour」のオンライン販売を手がけている。2010年からは海外のFacebookユーザーに向けて、英語と中国語のFacebookページを開設。現在ではそれぞれ約30万人ずつ、合計約60万人のファンを獲得するに至っている。

2020年の東京オリンピック開催に向けて、今後さらなる成長が期待されるインバウンド市場に対し、Facebookはどのようなポテンシャルを持っているのか。その先行事例として、自らFacebookページの運用を手がける、クラブツーリズム インバウンド推進部 顧問の浅川 恵司氏に、同社の取り組みについて伺った。

SNSはクチコミを重視する中華系との相性抜群

クラブツーリズム インバウンド推進部 顧問の浅川 恵司氏

クラブツーリズムが展開する「YOKOSO Japan Tour」の主要なターゲットは、中国や香港、台湾、タイ、シンガポール、マレーシアなど、アジア各国の中華系の人々。東京オリンピックの頃には、訪日外国人の約8割を中華系が占めるとも言われるように、彼らにどうリーチするかは、今後のインバウンドビジネスを考える上で避けては通れない課題と言える。

浅川氏が「2010年」という比較的早い段階からFacebookに目を付けた理由もまさにそこで、香港や台湾、シンガポールといった国や地域で、Faceebookの浸透率が日本より進んでいるという情報から、「海外のターゲットに効率的にリーチできる媒体」と判断したため。

「旅行のような体験型の商品は、もともとSNSとの相性がとてもいい。どんな宣伝よりも、家族や友だちから直接『あそこが良かった』『これが美味しかった』と聞かされたほうが、自分も行って見ようかなとなりやすいからです。加えて中華系の人達は我々日本人以上に、身内からのクチコミ情報を重要視する。そういう意味でもクチコミでレコメンドしてもらえる、SNSでのアプローチがとても重要だと考えています」

同社が運営する英語、中国語のFacebookページには、春は桜、秋は紅葉と季節に応じて、思わず「いいね!」や「シェア」がしたくなるような、美しい日本の風景が並ぶ。「Facebookページの一次的な目的は、きれいだな、おいしそうだな、日本に行ってみたいなと思ってもらうこと。我々のツアーで日本を楽しんでほしい、感動していただきたいという純粋な思いを伝えたい」と浅川氏。

Facebookページ「Wow Japan! Club Tourism」

ページを彩る写真の多くは、クラブツーリズムの添乗員やスタッフが実際に現地で撮影してきたもの。ストックフォトを利用することもあるが「より臨場感のある写真を」との思いから、浅川氏が社内の有志に声をかけ、Facebookページ用に提供してもらっている。

夏から秋に向かう今の時期は、ちょうどぶどう狩りのシーズン。タイムラインに並ぶ美味しそうなぶどうの写真には、オンライン販売サイトのぶどう狩り特集ページのリンクもしっかり添えられている。

Facebookページの二次的な目的はもちろん、ここから実際のツアーの販売促進につなげることだ。さらに効果的なリーチを考えるため、「国ごとのファンの数と、リーチ&アクションは常にチェックしている」という。

「たとえば同じ中華系でも国によって、タイは夏休みがほかとずれていたり、シンガポールにはクリスマス休暇があるなど、祭日も休暇のタイミングも異なる」と浅川氏。そういう国ごとの違いも加味しながら、そのときどきに最も有力なコンテンツは何かを考える材料にするためも、「どの国の人がいつ、どんなコンテンツに興味を持ったか」という情報が重要だという。

ラストクリックだけでない、アトリビューションに手応え

ページ投稿だけではリーチできないユーザーへアプローチするため、昨年から本格的に運用を始めたFacebook広告でも同様に、重視しているユーザー属性は「国」と「使用言語」だ。

Facebookでは、香港、台湾、タイ、シンガポール、マレーシアといった国ごとにターゲットをセグメントできるのはもちろん、ユーザーの使用言語、趣味趣向から、似た傾向を持つ「類似オーディエンス」にアプローチできる。これを活用して、コンバージョンされたユーザーと同じ国、なおかつ傾向が似たユーザーにリーチしたところ、好結果が得られたという。

ランディングページとなる自社サイトでも多彩な画像を使って各国のお客さまを日本へといざなう

「弊社では宣伝物はすべて独自の『媒体効率』をもとに効果測定をしています。媒体ごとの宣伝費÷販売高の目標値を定めていて、その目標値にどれだけ近づけたかが『媒体効率』になる。たとえば一般的なリスティング広告とFacebook広告を比較した場合、販売高のベースをラストクリックだけで考えるなら、どちらもまだ目標値はクリアできていませんが、アシストコンバージョンも含めたデータを見ると、リスティング広告よりも断然いい結果が出ている」(浅川氏)

Facebookでは広告が見られてから24時間、または広告がクリックされユーザーがサイトを訪問してから28日間のコンバージョンデータをデフォルトで提供しているが、これらの数字に「担当者として手応えを感じている」という。

カルーセル広告では複数の画像を四季の異なる写真で回している

「今はターゲット属性だけでなく、広告のクリエイティブも含めていろいろとトライしているところ」という浅川氏が、最近注目しているのは、スマートフォン向けのカルーセル広告(1つのユニット内に複数の画像を貼り、リンクを切り替えて表示できる広告)。

「アジアは日本以上にモバイルが強いんです。また動画にも可能性を感じているので、今後もいろいろ試してみたい」(浅川氏)

また、「当初はFacebookページでファンを増やせば、そのファンの友だちが、さらに新しいお客さんになってくれるだろうと考えていた」という浅川氏。「実際にやってみると、ことはそう簡単ではなかったですが、ファンはようやく60万人というところまで来ました」と振り返る。ここまで代理店任せにせず、中国人スタッフなどとともに自身が直接運用に携わってきた。だからこそ、「お客さんの反応がダイレクトに伝わり、国ごとのユーザーの反応やニーズも少しずつだが、わかるようになってきた」と話す。

今後はそれを「できればツアーの企画にも活かしてきたい」とのこと。

「マーケティング的には、Facebookで火がついて、そこから新しいツアー企画が生まれるという風になったら理想的ですよね。実際にはまだ、なかなかそこまではいきませんが、Facebookページの『いいね!』の数やユーザーの属性と、ツアーの売れ行きを比べて見ると、やはりそこはリンクしている。私は旅行とSNSの親和性の高さ、クチコミの力を信じてますから、Facebookには今後も期待していますし、引き続き注力していくつもりです」

浅川氏は代理店などの手を使わず、独力で60万人のファンを集めた