実物大の新聞折り込み広告やエイプリルフールのフェイクニュースなど、ユニークなプロモーションで話題を集めることの多いアウディジャパン。同社が近年特に力を入れているのがデジタルメディア、とりわけソーシャルメディアを活用したプロモーションだという。

なかでも、Facebookはユーザーの年齢層などから、ターゲットとのマッチング率が高いと見て、重視しているソーシャルメディアの1つだ。2011年秋から運用しているFacebookページのほか、広告も積極的に活用し、ブランド認知の向上に寄与するなど着実な成果を上げているという。アウディジャパン マーケティングコミュニケーション部のピーペンブルグあきさんに、Facebookを活用したプロモーションの手法とその効果について伺った。

アウディジャパン マーケティングコミュニケーション部 ピーペンブルグあきさん

正確なターゲティングでブランド認知が10%以上向上

アウディジャパンでは、Facebook広告の効果測定を目的に、過去2回のキャンペーンで、ブランド認知やAudiに対する好意の向上についての調査を実施。その結果10%を超えるブランド認知の向上、および好意の向上が見られたという。

「新車のローンチのような大きなキャンペーンはマス広告からデジタルまで、すべてを使ってプロモーションを展開します。単純な認知の向上という意味ではやはりテレビのようなマス広告が強いですが、それだけではリーチできない人たちもいます。また、マス広告では効果測定に時間がかかるだけでなく、結果もサンプルに対する試算ベースのことが多い。

その点、デジタルではより速く具体的に効果を測れます。実際にFacebook広告のブランドリフト調査を利用したところ、かなりポジティブな結果を得ることができました」(ピーペンブルグさん)

1回のキャンペーンだけでなく、2回にわたって良い結果を得られたことで、Facebook広告の効果について確信を持つに至ったという。

Facebook広告がこのように高い効果を発揮できるのは、「狙ったターゲットに対して、正確にリーチすることができるから」だと、ピーペンブルグさんは分析する。

「クルマに興味がない人にいくら広告を打ってもダメなのは当たり前ですが、Facebookはそのターゲティングの力が、マス広告だけでなく、他のデジタルメディアと比べてもずば抜けている。性別や年齢以外にも、車に興味を持っているかどうかなど、かなりピンポイントに狙ったユーザーをターゲティングできる。

つまり限られた予算の中で、本当に買ってくれそうな人たちにばっちり狙いを定めることができるということです。もしこちらの予算に余裕があればターゲットを広げることもできるし、なければピンポイントに狙える。この柔軟性がFacebookの最大の強みだと思います」

AudiといえばquattroのCMが有名だが、こうした広告のターゲティングも詳細にセグメントすることでCPAの向上などにつながる。
認知促進を目的とした1回目のキャンペーンでは、ブランドに対する好意度が+8.4%向上しており、
「自動車購入時の最優先事項がデザイン」という、アウディにとってコアな顧客層においても、「クアトロ」の助成認知が11.6%向上したという

では、アウディジャパンではどのようにターゲットを設定して、ピンポイントに当たる広告を実現しているのか。ピーペンブルグさんによれば、ターゲットのセグメントはキャンペーンごとに異なり、毎回かなり綿密に計画されているという。

「Audiでは数多くのサッカーのクラブチームをスポンサードしていますが、サッカーに関するキャンペーンをやる時は、それに関する「いいね!」をしている人を対象にすることにしています。

キャンペーンごとにその点は本当に考えて、今回はこういう人にリーチしたいが、そういう人はどういうものに「いいね!」をしているかということを、徹底的に吟味していますね。高級車に乗っている人にコンパクトカーの広告を当ててもダメなど、訴求したい車種によっても本当に異なりますから。

またFacebookではエリアでもセグメントができるので、ある映画と連動したキャンペーンでは、映画館のある東名阪だけに情報を出すといったこともやっています」

細かなターゲティングを行うことで、「より高い効果が得られる」と語るピーペンブルグさん。

効果の測定はゴールをどこに設定するかによっても違ってくるが、例えばキャンペーンサイトへ誘導する場合は単にクリックしたかどうかではなく、「その先のリードがとれたかどうかまでチェックしている」という。

リードの中身もキャンペーンによって違うが、「例えば、サイトに応募してもらって、アウディジャパンのCRMデータベースにデータを残してくれたかどうかといったことで測る場合もある」とする。

ランディングページにたどり着くだけでなく、その先まで。そうした緻密なプロモーション設計こそ、その先のブランド定着、ファン定着につながる要素と言えるだろう

キャンペーンサイトにアクセスしたうえで、さらにアンケートに回答するのはかなりハードルの高いアクションだと言えるが、「興味がある人にさえ、ちゃんとターゲティングができていれば結果は出ます。まさにこれがFacebook広告の最大の魅力で、うまくあてられさえすれば顧客獲得単価(CPA)を大きく下げられる」とのことだ。

ただし、いくらターゲティングが成功しても「露出頻度によっては逆効果になることもあり、注意が必要」とピーペンブルグさん。

「同じソーシャルメディアでもTwitterの場合は、情報がどんどん流れていくので、露出頻度が高くてもわずらわしいとは思われにくいですが、Facebookの場合は友達の情報を知りたいのであって、企業の情報をメインに求めているわけではありません。

YouTubeなどの動画広告にも同じことがいえると思うのですが、メディアの特性にあわせて、わずらわしいと思われない露出度を考えることはものすごく大切。Facebook広告ではフリークエンシー(ユーザーに対する広告の平均表示回数)をある程度コントロールできることも、重要なポイントだと思っています」

Faccebookページではファンへのロイヤリティを意識

キャンペーンに合わせて広告を効果的に活用する一方で、アウディジャパンのFacebookページでは、Audiファンへのロイヤリティを意識した情報発信を行っている。例えば、新車ローンチ時のCM動画の初出は、実はテレビではなくFacebookページであることが多いのだという。

「AudiのFacebookページをいいね!をしてくれている人や、フォローしてくれている人たちに、テレビCMの動画を1週間ほど前倒しして、ファン限定で公開するといったことを、ここ2年ほど特に意識をしてやっています。

通常キャンペーンなどのプロモーションはテレビからスタートし、ほかのメディアへと広げていくパターンが多いですが、アウディジャパンではメディアの役割をちゃんと考えて、そこを変えています。せっかくファンになってくださった人たちにファンで居続けてもらうために、Facebookページでは付加価値を提供して、アクティビティをあげておきたい。

アウディジャパンのSNSアカウントでは、誰よりも先にAudiの最新情報が見られる。そういう場になるように考えて、情報を発信しています」

2014年秋に、アウディジャパンFacebookページの20万いいね!達成を記念して作られたスペシャルムービーも、まさにそうしたファンへのロイヤリティの1つとして用意されたものだ。都内の銭湯に「Audi R8 Spyder」の銭湯絵を出現させ、そのイメージムービーは、Facebook外でも大きな話題になったという。

記念動画のキャプチャ。銭湯ではすぐに消さず、ファンが訪れることができるようにある種の"O2O"な仕掛けを作り上げた

「このキャンペーンではムービーを見たファンの人が、実際に銭湯に絵を見に行けるというのがポイントでした」と、ピーペンブルグさんは振り返る。

「銭湯にしたのはアウディジャパンのFacebookページなので、ほかの国ではできないものにしたかったから。ほかでまだやってないことをやることで、ファンの付加価値をあげたかったのです。裏話をすると、15万のいいね!から意外に伸びるのが速くて、スケジュールがかなりタイトになってしまい、大変だったんですけどね(笑)」

理解の速さ、理解度の高さでは動画が圧倒的に強い

20万いいね!のスペシャルムービーやCM動画など、アウディジャパンが近年、Facebookページや広告でよく用いているのが動画のクリエイティブだ。「1ショットだけでなく、360度フォルムが見せられる」など、クルマという商材が動画向きであることも、もちろん理由のひとつだが、ピーペンブルグさんは「動画のほうが理解のスピードが圧倒的に速い」という点を重視しているという。

動画のいいね!数だけでなく、再生されたという事実が大きい。一瞬でもブランドリフト効果があると言われる動画広告は、ブランド定着に一役買っている

「例えば、多くの人が朝や夜の通勤の時間帯にスマートフォンでFacebookをチェックしていますが、すごく疲れた仕事の帰りに満員電車で長いテキストは読まないでしょう。

その点、動画だとぱっと見ただけで理解してもらえ、メッセージを端的に伝えられる。そういう意味ではとても強いクリエイティブであり、コンテンツだと思うんです。今は予算の関係もあってテレビCMの素材をそのまま使うことが多いですが、将来的にはスマートフォンに最適化した動画をもっと作りたい。

今の若い人は卒論もスマートフォンで書くくらい、PCではなくスマートフォンが優先されています。そういうモバイルファースト世代の将来のお客さんにリーチするために、今後デジタルメディアはモバイルメインで考えていく必要があると思っています」

モバイルにも強いFacebookの活用頻度は、今後ますます高まるとしていた。