パラマウント・ジャパンは、言わずと知れた世界を代表する映画会社の日本法人。日本で公開する新作映画のプロモーションには、さまざまなメディアの広告を活用しているが、近年はオンライン広告の比率が高まりつつあるという。

なかでも、2014年の秋から本格的に活用しているFacebookでの動画広告は、大きな成果を上げているという。同社が、どのようにFacebookを運用しているのか、どのような効果が得られているのか、同社マーケティング本部長の星野 有香さんに話をうかがった。

パラマウント・ジャパン マーケティング本部長 星野 有香さん

オンライン広告の重要度は急速に高まっている

「映画の広告は、長らくテレビの比率がかなり高かった。2~3年前までは、広告予算の比率で言うとテレビが10に対し、オンラインは1くらい。ただ、最近は10:3、作品によっては10:5くらいまで増やしています」(星野さん)

映画の広告で最も効果的なアプローチは、予告編などを動画で見せること。

これを実現できるオンラインメディアとして、とくに「Facebook」と「YouTube」に力を入れているという。Facebookでは、2014年10月より、広告の動画も自動再生されるようになった。映画というコンテンツを取り扱う同社にとって、動画はもっとも重要なPR手法。特にパラマウントでは再生数を重視しており、動画を扱いやすくなったFacebookは以前にも増して有効なメディアとなり、昨年秋以降に公開した作品ではすべて、動画を用いた広告を展開しているという。

「今のところ、オンライン広告の投下数が最も多いのはYouTubeです。しかし、昨年の秋からFacebook広告の動画が自動で再生されるようになり、Facebookをより重視するようになってきました。Facebookに関して言えば、3~4年前までは『いいね!』の数を重視していましたが、最近は、ユニークリーチがどれくらいなのか、動画をどれくらい見てもらえるのか、そこにFacebookの価値がシフトしてきました」

Facebookのユーザーは、年齢や性別などの情報を登録して利用している。これにより、ターゲットを絞ったアプローチができることが、他のメディアの広告に対するアドバンテージとなっている。

パラマウントでは、作品ごとのターゲットに向けた広告展開だけでなく、よりターゲティングの精度を高めて、効率的なプロモーションを行うためにもFacebookを活用しているという。

「新作映画のプロモーションで最も効果的なのは公開直前です。そのため、テレビのスポットCMは、公開の2~3週間前からオンエアしています。Facebookでは、それよりも早い段階、具体的には公開の2~3か月前に3パターンくらいのテレビスポットを実験的に流しています。それにより、どのスポットが、どのターゲットに反応がいいかを調べることができます。

たとえば、7月に公開する『ターミネーター:新起動/ジェニシス』の場合、最初は昨年の12月にオールターゲットで広告を出しました。その反応から、興味を持ってくれた人の年齢層や男女比がわかりますし、若い世代からの人気が高いこともわかりました。『ターミネーター』は第1作の公開から30周年を迎えますが、20~30代のファンも多いんですよ。

それは、他のリサーチでもわかっていたことですが、Facebook広告によって、より精度の高い分析結果が得られました。潜在的なオーディエンスを掘り起こす意味も含め、あえて早めにオールターゲットに出して、そこから出てきた課題を対策したり、リーチした人に、公開直前にもう一度広告をあてるということもしています」

7月に公開されるターミネーター。広告運用はその高いターゲティング精度を前提に行われている

Facebookのビデオ広告は再生完了率が高い

「私たちが売るのは物語。それを動かす登場人物に興味を持っていただくことが一番大事」と語る星野さん。

「予告編を見て『この人、この後どうなるの?』と興味を持ってもらえたら、映画館に足を運んでくれますからね」

Facebookでの広告は、インプレッション、リーチ、動画再生数など明確な指標を得ることができる。その中でも、とくに重視しているのが、動画の再生完了率だという。Facebookでの動画広告は、他のメディアでの動画広告よりも再生完了率が高く出る部分があるそうだ。

「YouTubeには、主にインストリーム広告を出していますが、再生完了率は20%程度です。

一方、Facebook広告での再生完了率は約30%で、最も多い30秒の動画では30%を超えています。Facebookでは、ニュースフィードに流れている情報のひとつとして広告があり、ユーザーがさまざまな情報を取りに行くというフェーズの中で、自然に目が止まって見てもらっていると思います。

他のオンライン広告に比べると、広告然としていないというか、ユーザーの拒絶反応が少ないのではないかと認識しています」

日々、あらゆるSNSの広告運用状況を確認する星野さん

日本ではFacebookにアクセスするデバイスの約9割をモバイルが占め、その多くはスマートフォンだ。同社でも、Facebook広告は「スマートフォンで見られることを前提に制作している」という。

「スマートフォンでは、音を出さずに見る人も多いと思うので、字幕で内容がわかるように注意しています。また、文字が小さくなりすぎないようにも気をつけています」

オンライン広告では、FacebookとYouTubeのほかに、「Twitter」や「LINE」も活用し、作品のターゲットによって使い分けている。今後は「Instagram」の活用も視野に入れており、「スマートフォンで見るSNS」が重要な導線となりつつあるようだ。

なお、オンライン広告の代表的なフォーマットとして、ユーザーのクリックによって広告ページに導くバナー広告がある。パラマウントでも、数年前まではバナー広告を多用していたそうだ。しかし、「効果を実感できなかった」という理由で、最近は、バナー広告よりも動画広告にシフトチェンジしているそうだ。

ファンを増やしていくために、オーガニック投稿も活用

同社では「パラマウント ピクチャーズ ジャパン」という企業の公式アカウントのほかに、作品ごとの公式アカウントも設営し、オーガニック(広告ではない無料の情報配信)での投稿も頻繁に行っている。今夏の話題作である「ターミネーター」や「ミッション:インポッシブル」などのFacebookページには、多くのユーザーが「いいね!」と言っている。

「パラマウントでは、新作が公開されるたびに大ヒットを記録する人気シリーズ作品も多いので、作品ごとのアカウントを作って、ファンを増やしていくことに力を入れています。オーガニックでは、公開が近づくと毎日投稿していますし、いいね!がついた数などの効果測定も毎日のように行っています。

しかし、オーガニックでは、ファンになった人にしか見てもらえない可能性が高いですし、広告のような即効性はありません。瞬間的にリーチを増やすためには、やはり広告が効果的ですし、ネタになりそうな話題を、まずオーガニックで様子を見てから広告に切り替えることもあります」

オンラインでの広告展開に力を入れつつある同社だが、依然として、テレビスポットの広告効果も重視しているという。

「先にお話したように、Facebookでの反応を見てからテレビスポットを決めることもありますし、逆に、テレビを見た人がSNSで話題にしてくれたり、Fecebookやホームページを見にきてくれることもあります。テレビとインターネットは相互補完の関係にあるので、どちらも重要だと考えています。

オンラインでは、メディアの使い分けも意識しています。たとえば、Twitterでは、キャラクターを立てて、他のユーザーとコミュニケートしやすい仕掛けにしています。Facebookでは、さほど個性的なキャラクターは立てませんが、硬くなりすぎずに、軽めのコミュニケーションが取れるようにしています。

いいね!をくださる方には、作品に対してある程度の情報を持っていらっしゃる方も多いので、説明しすぎないようにも配慮しています」

Facebookなどのオンライン広告を増やした結果、Webサイトに訪れる人も増えたそうだ。作品を最初に告知するメディアとして、そして、その反応を分析し、ターゲットに向けてさらに拡散していくためのベースとしても、Facebookの重要性が急激に高まりつつあるという。