ExaFlopsには到達しないPost-Kスパコン
「Upcoming Exascale Computing」のセッションとは別に「Vendor Showdown」というセッションが行われた。各ベンダが5分程度の時間を与えられて、数枚のスライドで自社のシステムの長所などをアピールするものだ。
このセッション自体は以前からあるのだが、今年のやり方は昨年までと異なっていた。今回は、発表の後に主催者のAddison Snell氏とRupak Biswas氏が発表者に対して4問の質問を出す。2問は事前に通知されている質問なのだが、残りの2問は事前に通知がなくぶっつけ本番の質問である。
そして、プレゼンテーションと4問の質問に対する答えを会場の出席者が評価して、良し悪しをランキングするという形式で行われた。
富士通は、清水氏が登壇して、「Post-K Supercomputer for Application Performance」と題するトークを行って、主催者の質問に答えた。
清水氏の発表に対する質問の第1問はぶっつけ本番の質問で、富士通独特の他社にはないArmプロセサの改良は何かというものであった。第2問は、Tofuインタコネクトがエンハンスされていると書かれているが、具体的にはどのような改良かというものであった。第3問は、アプリ性能とユーザビリティを京コンピュータに比べて高めるために富士通は何を行っているのかという質問であった。
そして、第4問のぶっつけ本番の質問は、いつ、Post-KはExascaleの性能を達成するのかという質問であった。この予想外の質問に慌てたのか、清水氏は、Post-Kは京コンピュータの100倍のアプリケーション性能を目指しているが、ExaFlopsにはならないと答えた。
アプリケーション性能で、現在の10PFlops機の100倍の性能であるが、HPL性能で100倍は目指さないというのは以前から発表されている方針であるし、米国も同じ論理でExscaleシステムという言葉を使っている。
しかし、Post-KはExaFlopsには到達しないというダイレクトなステートメントは初めてである。
後で、清水氏に確認したところ、費用と消費電力に制限がなければExaFlopsは可能であるが、現在の費用と電力の制約の中ではHPLでの1ExaFlopsは無理とのことであった。また、後で石川氏にも質問してみたが、飛び道具(GPUのような高密度に演算器を詰め込んだアクセラレータ)を使わないと1ExaFlops達成は難しいとの見解であった。
米国のExascaleスパコン開発
米国はExascale Computing Initiativeという旗のもとにExascaleコンピューティングの開発を進めている。その中で、中核をなすのがExascale Computing Project(ECP)である。この講演を行ったOak Ridge国立研究所のKothe氏は、ECPのディレクタを務める。
ECPはExascaleのハードウェアの開発からインテグレーション、ソフトウェアテクノロジの開発、アプリケーションの開発、それらすべてのプロジェクトマネジメントを行う。
ECPのハードウェアインテグレーションは、PathForwardで開発するハードウェアとECPで開発するアプリケーションやSDKを組み合わせ、DoE(Department of Energy:エネルギー省)の計算センターで円滑に使えるようにする。
米国は、Argonne国立研究所のMiraやTheta、Oak Ridge国立研究所のTitan、Lawrence Berkeley国立研究所のCori、Lawrence Livermore国立研究所のSequoia、Los Alamos/Sandia国立研究所のTrinityなどのPre-Exaスパコンを持ち、最近、Oak Ridge国立研究所のSummitとLawrence Livermore国立研究所のSierraを加えた。
ECPはこれらの資源を使ってExascaleのSDKやアプリケーションを開発していく。さらに、2020年~2021年にはLBNLのNERSC-9、LANL/SNLのCrossroadsを開発する。
そして、Exascaleのマシンとして、2021年から23年にかけて、ArgonneのA21、ORNLのFrontier、LLNLのEl Capitanなどを開発していく。
ECPでは、エネルギー関係では風力発電、小型でモジュラーな原子炉など、製造を変革する物質関係では3Dプリンタのような追加型の製造ができる金属材料、極端な環境で使用できる材料など、経済関係では強靭な電力グリッドや地震のリスクアセスメントなど、地球システム関係では干ばつに強い作物などの研究が候補に挙がっている。
科学的発見の分野では、核融合炉の安定性制御、宇宙の元素の起源、力の標準モデルの評価など、ヘルスケア関係では、がんに対する精密医薬などのアプリケーションを取り上げる。
ECPのソフトウェアスタックは、ハードウェアの上にソフトウェアエコシステムとデリバリと書かれた層があり、その上に、プログラミングモデルとランタイム、数値計算ライブラリ、エンベッデッドデータと視覚化、開発ツールが載っている。この層と、その上のアプリケーション層の開発がECPの中心的な開発になる。
ECPは計算とデータ科学の新しい時代を招き寄せ、エクサスケールのエコシステムの到来を早めることにフォーカスしている。そして、ECPはDoEのHPCファシリティパートナーと協力して必要なテクノロジが開発され、利用され、ECPの範囲以外でも有用であるようにすることに務める。
Kothe氏は、これはHPCの歴史の中でも特別な時点であり、それを作り上げるのに参画することは格別な機会であると結んだ。
欧州のExascale開発
欧州の主要スパコンセンターであるBarcelona Supercomputing CenterのSergi Girona氏がEuroHPCについて発表を行った。
ヨーロッパは2017年3月に「#EuroHPC」の宣言を発表し、フランス、ドイツ、イタリア、ルクセンブルグ、オランダ、ポルトガル、スペインの7か国が宣言に署名した。それ以降、ベルギー、スイスなど13か国が宣言に加わり、20か国でHPCを推進する体制が作られている。
#EuroHPCでは2台のExascaleシステムと2台のPre-Exaシステムを作る計画である。それに加えて少なくとも2台のPetascaleシステムも作る。
Exascaleシステムの内の1台は2022年、もう1台は2023年と考えている。そして、少なくとも1台のExascaleシステムはヨーロッパのテクノロジで製造する。
これらのExascaleシステムのTCO(Total Cost of Ownership:マシンの調達費用に電気代、センターの人件費などを含む運営費を加えた総所有コスト)はそれぞれ5億ユーロを予定している。
Pre-Exaシステムは2021年の1月に稼働開始を予定する。それぞれのシステムのTCOは2億4000万ユーロを予定している。Petascaleシステムも稼働開始は2021年1月の予定で、予算は未定である。
予算の大枠が決まったので、どこに設置するかを決めることと、ユーザの要望を集約してRFP(Request for Proposal)を出すのが次の作業であるという。
次の図は工程を示したものであるが、EuroHPCのソフトウェアとアプリケーションが揃って全体がインテグレーションされるのは2023年になるようである。
(次回は7月26日に掲載します)