8月に英国の首都ロンドンで起きた大規模な暴動では、騒ぎを起こした若者らがBlackBerryのメッセージサービスやTwitter、Facebookを利用していたことにもスポットが当たった。中東をはじめ、このところの市民運動に共通した特徴だが、英国政府が最初に見せた反応も、規制や遮断と、中東諸国と似たものとなった。幸い規制や遮断という措置は免れたが、インターネットにより市民がこれまで以上のパワーを得たことを改めて示す事件のように思う。
英国暴動の顛末
事件は8月6日、ロンドン北部トッテナムで起こった。若者が放火、襲撃、略奪などを行い、周囲は騒然となった。この動きが飛び火してブリクストンなどの地区でも若者が同じような行為を行ったため、その週末は大混乱となった。週が明けても終息せず、月曜日の夜もあちこちでパトカーのサイレンが鳴り響いたようだ。結局、32あるロンドンの自治区のうち、22区が混乱状態に陥るという大規模な事件となった。死亡は5人、負傷者も多数出た。逮捕者は2100人以上といわれており、半数以上が有罪となったようだ。被害の規模は金額にして、2億ポンドにものぼるといわれている。
暴動を伝えるニュースでは、騒ぎを起こした若者がTwitter、Facebook、それにResearch In Motion(RIM)がBlackBerryユーザー向けに提供するメッセージサービス「BlackBerry Messenger(BBM)」を使っていることも報じた(個人的にはBBMがそれほど言及されたことに驚いた。ビジネスユーザーに人気のBlackBerryだが、Paris Hilton氏の効果で数年前から若者に人気が出てきたと聞いていた。英国情報通信庁によると、英国のティーンネージャーの3分の1がBlackBerryを持っているとのことだ)。
休暇をすごしていたイタリアから舞い戻った英国首相のDavid Cameron氏は11日、下院で急遽開いた臨時会議にて、仕掛けた若者らはソーシャルメディアを使って組織化していると述べた。そして、「情報の自由な流れはよいことにも使われる。だが、悪いことにも利用できる。暴力行為のためにソーシャルメディアを使うのならば、われわれはそれを停止しなければならない」、と規制を検討していることを示唆した。
なお、Cameron首相が用いた「流れ(flow)」は、エジプト政府がインターネット接続を遮断した際にTwitter創業者のBiz Stone氏が公式ブログで使った言葉だ。Stone氏はこのとき、「The Tweets Must Flow」というタイトルの下で、言論の自由を擁護する姿勢を示した。
Cameron首相のこの発言は議論を起こした。業界や識者、それに一部の政治家からも異論が出た。たとえば、熱心なTwitterユーザーであるTom Watson議員は、Cameron氏の見解をラッダイト運動(産業革命期のイギリスで、機械化に反対した人々が起こした運動)に喩えた。
だが、取り締まる側からは遮断できるものならしたかったという意見が出た。ロンドン警視庁トップのTim Godwin氏は内務委員会に報告する席で、何度も遮断を考えたが自分たちには権限がなかった、と漏らしたことが報じられている。
これに対し、Facebook、RIMはすでに緊密に協力していることを強調した。Twitterも、利用条項の下で違法な行為につながるようなやりとりは削除する点を改めて強調した。実際、警察はFacebookを使って暴動を扇動したとして、2人の若者を逮捕、懲役4年の実刑を命じている。また、逮捕者から押収したBlackBerryを使って暴動計画情報を入手、ストラットフォードにある2012年ロンドン五輪のメインスタジアム、繁華街オックスフォード・サーカスなど、いくつかの襲撃を未然に防ぐことができたと報告している。
結局、8月末に内務大臣のTheresa May氏ら政府関係者とFacebook、Twitter、RIMは話し合いを持ち、政府は遮断できる権限を追及する代わりに、ソーシャルメディアは情報収集に役立つものという認識を示した(それもそれで、過度になると検閲の恐れがあるが)。
ソーシャルメディアを活用した普及活動も
よい流れと悪い流れというCameron首相の言葉通り、今回の事件ではよい流れも生まれた。市民がその後の復旧・清掃活動にTwitterやFacebookを利用し始めたのだ。たとえばRiot CleanUpというコミュニティは、TwitterとFacebookで自分たちの町を元に戻すための運動を広げている。Twitterではすでに、7万5000人以上のフォロワーを集めている。
英国の暴動事件は、あらゆる政府にとって対岸の火事ではないはずだ。インターネットにより、市民は政治に不満があると簡単に意見を出せるようになった。アラブの春も、やはりネットなしにはあのスピードで進展しなかっただろう。ソーシャルメディアだけではなく、WikiLeaksのようなアプローチもある。
今回の英国暴動は、警官による29歳の男性の射殺事件に端を発するものだ。英国政府はまず、暴動の原因を解決するのに力を注ぐべきだろう。幸い、TwitterやFacebookを使えば、効果的に市民と対話を深めることができるのだ。