公開が迫っているBBC(英国放送協会)のモバイルアプリケーション提供計画に対し、英国のメディア業界が反対の声を発している。流通/課金体系が整いつつある新しい市場、モバイルアプリケーション分野をなんとか収益につなげようと取り組みを開始したところでBBCが無料アプリを提供する - これは出鼻をくじくものだという。
BBCはこれまでモバイル用サイトを提供してきたが今回これを拡大し、モバイルアプリの公開に踏み切る。まずは4月にニュースアプリケーションを公開し、ワールドカップの開催にあわせ6月にスポーツアプリケーションを公開する。共に無料で、まずはApple「iPhone」向けを公開、その後、BlackBerry、Symbian、Androidなどのプラットフォーム向けにも公開する。無料の根拠について、BBCでは英国内ではライセンス料(NHKでいう受信料のこと)でカバーされており、英国外では広告が付くと説明している。
2月のバルセロナでモバイルアプリケーション計画を発表したEric Huggers氏は、スマートフォンの普及によりモバイルアプリへの需要が高まっていることを公益性を結びつけ、「(われわれは)ライセンス料を支払う視聴者に、メリットがあるサービスを提供する必要がある」と述べた。
だがその直後、英国の新聞業界団体 The Newspaper Publishers Association(NPA)がこの計画を2つの点から批判した。1つめは、BBCの運営を監督する機関 BBC Trustの承認を得ていないこと、2つ目は有料のモバイルアプリを展開する他社に与える影響だ。「商業サービス(有料)としてモバイルでニュースを提供しようとするメディア各社のアイディアを踏みにじるものだ」とNPAは述べている。NPAにはFinancial Times、「The Independent」のIndependent Newspapers、「The Guardian」のGuardian Newspapers、News International、Telegraph Groupら主要紙が参加している。
米国同様、欧州でも既存出版社は強い逆風にさらされている。中でも新聞社はインターネットの無料コンテンツ、街頭で配布される無料の紙媒体により、購読料と広告の両方で打撃を受けている。無料が定着してしまったPCインターネットでのニュースコンテンツ提供については、昨年からあせりと苛立ちをあらわにしていたメディア王のRupert Murdoch氏が先週、自身が英国で所有するNews Internationalの「The Times」と日曜版「The Sunday Times」のオンライン版を6月より有料化することを明らかにしている。
PCでは無料から有料にするという難しさがある(The Timesはそのリスクについて、「無料化を続けることよりもリスクは低い」と述べている)が、モバイルでは"アプリケーションマーケット"という流通/課金の仕組みが形成されつつある。たとえば、Guardianは通常のインターネットサイトでは無料でコンテンツを公開しているが、iPhoneアプリは2.39ポンド(約330円)と有料にしている。BBCが無料でアプリを提供するとなれば、Guardianのように有料で提供するメディアに影響が出ると懸念される。
NPAは同時に、公共の放送機関であるBBCの拡大戦略も批判している。既存のサービスライセンス「BBC Online Service License」(2009年8月にBBC Trustが承認したもので、オンラインでのサービス目的や予算などを定めたもの)の領域を出ている、と主張している。NPAは下院の特別委員会に苦情を提出する構えだ。
これらの動きに対し、市民は「ライセンス料(2009年は年間142.5ポンド、約1万9,770円)の無駄遣い、品質の高いコンテンツ作成に集中せよ」というブロガーもいれば、モバイルアプリを歓迎する声もある。また、最初にiPhoneにのみ対応した点を批判する声もある。
BBCはインターネットをラジオ、TVに並ぶプラットフォームとしており、実際オンラインサービスは好調だ。番組キャッチアップサービス「iPlayer」は2月度、過去最高の6,870万のリクエストを記録した。これは前年同期比81%増となる。ユーザーは平均で週に64分のTVプログラムを、163分のラジオプログラムをiPlayer経由で視聴しているという。
BBCではiPlayerのプラットフォーム拡大も進めており、PCではLinux、Windows、Macに対応、ゲーム機、ケーブルTV、携帯電話、携帯メディアプレイヤーなどさまざまな端末に対応を進めている。2月には任天堂の「Wii」に対応した。
BBCは3月、「iPlayer 3.0」として、Facebook、Twitter、Beboなどのソーシャルアプリケーションとの統合する計画も明らかにしている。