欧州委員会(EC)と欧州宇宙機関(ESA)は1月7日、衛星を利用した測位航法システム「Galileo」プロジェクトが2014年前半にも初期運用に入る計画を発表した。当初の計画では、今年が初期運用スタートの年だったので、実質約4年の遅れとなる。それでも、紆余曲折を経てのプロジェクト前進に注目と期待が集まっている。

GalileoはEUとESAが進めている測位衛星システム。人工衛星から時刻と起動位置情報を発信するものだ。測位衛星システムというと米国のGPS(Global Positioning System: 全地球測位システム)があるが、GPSが軍事利用のために米国防総省が開発したシステムであるのに対し、Galileoは最初から民生利用を目的とする。精度と速度、信頼性を特徴とし、捜索/救命サービス、オープン(公用)サービス、商用サービス、政府規制サービスなどの用途向けとしている。精度では、GPSの場合位置情報は5 - 20メートルといわれているが、Galileoでは1メートル以下実現を目指す。

Galileo衛星のイメージ図

Galileoは「米国のGPS、ロシアのGlonassとともに、時刻と位置信号を欧州および世界に提供する」とEUは記しているが、政治的な狙い(米国依存からの脱却)が背景にあることは明らかだ(米国側もGalileoプロジェクトに批判的なコメントを寄せたことがある)。そのため、GPS対抗といわれることも多い。現在、中国、インド、イスラエル、ウクライナ、韓国などもGalileoプロジェクトに参加している。

欧州版GPS計画は、政治面でのほか、域内の研究開発促進を通じての技術効果、関連サービスや運輸やエネルギー効率化といった経済効果、と技術/経済面でも期待されている。EUでは、受信機、アプリケーション、サービスなどGalileoに関連した事業開発が進むと見ており、2010年から2027年のGalileo経済効果を900億ユーロ(約12兆円)と試算している。

Galileoプロジェクトはすでに10年以上の時を費やしてきたプロジェクトだ。1990年代後半、英、仏、独、伊の4カ国でそれぞれ進んできた測位衛星に関する構想が統合、その後ECとESAがEUプロジェクトとして承認した。

ECとESAは2002年、打ち上げる専用衛星の数を30基とし、2006年から2010年の間に打ち上げ、2010年には民間管理下でシステムの運用に入るとする計画を敷いた。2005年12月に一基目の「GIOVE A」を打ち上げ、2006年1月に試験電波発射を開始した。2008年4月には「Soyuz」ロケットを利用した「GIOVE B」の打ち上げにも成功している。

だが、複数国が抱くばらばらな狙いと利害関係というEUプロジェクトにつきものの課題のほか、膨大な費用もネックとなった。36 - 38億ユーロ(4,822 - 5,090億円)といわれるコストは民間企業も負担することになっていたが、官民プロジェクトの管理がうまくいかず、民間企業によるコンソーシアムは崩壊し参加する企業はなしに。プロジェクトは頓挫しかけた。そこでECは2007年5月、コスト全額を公費負担することを発表した。その後、他の分野の予算を回すなどして資金部分を何とかクリアした。なお、官民プロジェクトがうまくいかなかったことに対し、ECの監査部門である欧州会計監査委員は2009年6月のレポートで、Galileoプロジェクトを進めてきたGalileo Joint Undertakingを批判している。

ECは1月7日、30基打ち上げる衛星のうち、14基の製造、打ち上げ、システム支援サービスの3つの分野について、それぞれ独OHB System、仏Arienspace、伊ThalesAleniaSpaceと契約することを発表した。残る16基の製造メーカーについては、OHBとEADS Astrium(European Aeronautic Defence and Space Company(EADS)の子会社、EADSはAirbusも子会社に持つ複合航空宇宙防衛企業)の提案内容を見て、どちらかに決定するという。ECはGalileoの初期運用機能整備にあたって民間企業6社と契約する予定で、残る3社は2010年中旬までに決定する。

Galileoプロジェクトは、軌道上実証(In-Orbit Validation、IOV)と完全運用体制(Full Operation Capability、FOC)の2つのフェイズに分かれている。IOVは衛星4基のテストと運用、関連する地上インフラフェイズで、今年11月に計画中の最初の衛星2基を打ち上げ、2011年4月に残り2基を打ち上げる。その後のFOCでは、残りの宇宙および地上インフラの実装となる。最初に18基を打ち上げた後、最終的に衛星30基、欧州域内の制御センター、センサーステーションをつなぐネットワーク、地上に設置されるアップリンクステーションで運用されることになる。