2010年1月1日、フランスで"3ストライク法"こと新法「Creation et Internet」(通称: HADOPI)が施行に入った。この法律は違法ダウンロードの取り締まりを目的としたもので、著作権のある音楽などのファイルを共有したユーザーは2回の警告の後、3回目にインターネット回線が遮断される可能性がある。

HADOPIのスタートで2010年の欧州インターネット業界が幕を開けたわけだが、今年は英国でも類似した法案の審議が進む。一方で、インターネットを基本的権利とする欧州連合(EU)のテレコム新規制の動向もあり、ファイル共有が何かと話題になりそうな予感だ。

ファイル共有取り締りに関連した2009年の動きをまとめると、ファイル共有の震源といわれるBitTorrentの検索/共有サイト スウェーデンThe Pirate Bay(TPB)に有罪が下った(現在控訴中)一方、そのスウェーデンで、ファイル共有は犯罪行為ではないとするラディカルな新政党、海賊党が欧州議会選挙で1議席を獲得、世論を突きつけた。

フランスでは春にHADOPIが議会を通過、その後フランス憲法に反すると憲法院が判断したため、切断命令を下す機関を新設の政府機関 Haute autorite pour la diffusion des oeuvres et la protection des droits sur Internet(HADOPI)ではなく、裁判所と修正することで法が成立した。裁判所は、インターネット回線の遮断、もしくは罰金を科すことができる。

そして、秋には英国で、HADOPIに似た内容を含む新法案「Digital Economy Bill(DEB)」が発表された。今後議会で審議が進むことになる。

DEBもISPがインターネットトラフィックを監視し、違法ダウンロードがあった場合はユーザーに通知することになる。フランスのHADOPIと同様、書面により警告を通知することになるが、現時点では法案に制裁規定は含まれていないようだ。英国政府はDEBにより、違法ダウンロードを2年で70%減らす目標だ。

だが、DEBはISPに大きな負担増を強いることになる。フィルタリングなどの対策技術導入の結果、1世帯あたり年間25ポンド(約3,750円)の追加料金が必要という試算もある。値上がりすると、ブロードバンド契約を解約する世帯も出てくるだろう。これはブロードバンド普及という政府の目標に相反する、とISPは主張している。英BTをはじめ、複数のISPが法案に反対しており、大手ISPのTalk Talk(英Carphone WarehouseのISP事業社)の社員は、政府の電子陳情サイトに陳情を掲示している(この陳情にはすでに3万人以上の署名が集まっており、現在、署名数で第3位の陳情となっている)。

陳情には反対理由として、「Wi-Fiネットワークのハッキングにより罪のない人がインターネットから遮断される可能性がある、という根本的な欠陥がある」と書かれているが、実際に11月、Wi-Fiサービスを提供するあるパブが違法ダウンロードの責任を負わされるという事例が明らかになった。DEBはオープンなWi-Fiサービスを阻害する、と法律家らも反対や懐疑の声を上げている。

DEBに対しては、米Googleや米Facebookなどのインターネット企業数社も、違法ダウンロード問題に理解を示しつつ、ユーザーのデータをモニタリング可能になる点などに懸念を示している。

なお、フィンランドは10月、インターネットを基本的権利とする方針を発表している。

一方、HADOPIのような強制的な遮断措置の導入を禁じることになると期待されていたのが、欧州連合(EU)のテレコム新法案だ。11月、欧州議会と閣僚理事会の両者がなんとか合意にたどりついた妥協案では、インターネット回線の遮断を明確に禁じる文言はなく、「テレコム網経由でのサービスやアプリケーションへのアクセスに関する措置を設ける際、欧州人権条約で規定されているように、市民の基本的な権利と自由を尊重したものとすべき」とした。解釈にもよるが、HADOPIを禁じるものではない。このあいまいな法案が今後、加盟国でどのように消化されるのかは、フランスでのHADOPI導入の経過が左右しそうだ。

ファイル共有については、遮断措置を支持する側(レコード業界団体など)と反対側で引用するデータが異なる。反対派の中には、ブロードバンド加入者ではファイル共有は少なくなり、「Spotify」などの合法ダウンロードサービスの利用が増えているとする向きもある。ファイル共有対策だけでなく、業界構造を時代に合わせることも必要だろう。

時代に合わせるという点では、ニュースなどの既存メディアも課題に面している。Financial Timesなどの一握りの経済紙を除くと、ほとんどの新聞は現在、インターネットで無料でコンテンツを提供しているが、長期的な経営難から抜け出せずにいる。フランスではISPに課税という案もでているが、有料化に向かう流れとなりそうだ。だが、どのように&誰から課金するのか。これについては、また別の機会に取り上げたい。

追記(1/6)

フランス政府がHADOPIの施行を延期することが本稿執筆後の1月5日に明らかになった。HADOPIは予定通り、2009年12月末に正式発足したが、データ保持などについて政府のプライバシー監視機関CNILが詳細の調査が必要と判断したためだ。