米Googleの「Goole Street View」に対し、スイス連邦政府がプライバシーの要求を満たしていないとして連邦社会裁判所に苦情を提出した。Google側はこのような政府当局の苦情に不満を示しており、法廷で戦うことになりそうだ。Google Street Viewはこれまで数々の国で論議を呼んできたが、政府が法廷に持ち上げるのはこれが初めてとなる。
スイス政府の情報保護委員会は11月13日、Google Street Viewのプライバシー保護対策は不十分として裁判所に書類を提出すると発表した。委員長のHanspeter Thur氏はこの動きについて、Google Street Viewの全面停止を要求するものではなく、プライバシー要求を満たすよう対策強化を求めるもの、と説明している。Googleとの対立を意味するものではないと同氏は強調している。
「Google Maps」で探した場所の現実の様子が見れるGoogle Street Viewサービス、スイスでは8月にサービスがスタートしている。Googleは他の国と同様、Street Viewを開始する前にスイス政府の規制当局と合意を交わしており、承認を得てサービスをスタートしている。だが、Thur氏は、「Googleは当初の合意を守っていない」と非難する。
最大の問題は、他の国と同じく、人物の顔と車のナンバープレートに入れるぼかしが不十分という点だ。特に、病院、刑務所、学校の近くなど、注意を要する場所で人や車が特定できないよう対策を徹底する必要があるとThur氏は述べている。また、現在のカメラは地上2.75メートルから撮影しており、これでは私有地や私道のプライバシーが保護されないとも述べている。日本のように、カメラの高さを低くするよう要求する可能性がありそうだ。
さらには、Google側は当初、大都市のみとしていたのに他の市街地にもサービスを拡大しているとして、「Googleが当初提出した書類は不完全だった」ともThur氏は主張している。人が多く写っているにぎやかな都市部と比べ、写っている人物や車が少ない場合は特定がしやすくなる。大都市と大都市以外では、同じぼかし技術では対応不十分とみているようだ。
Thur氏によると、Street Viewがスタートした後、Googleに対して勧告を行ったが、Googleはこれを拒否したという。当局にはすでに、約150件の苦情が寄せられているとのことだ。ただし、サービスの全面的な停止を求めているのではなく、Street Viewは観光などの目的で利用するユーザーには便利なサービスにもなりうると見ているようだ。その上で、住宅地などを例に出し、現在のレベルは「便利なサービス」を上回ってプライバシーを侵害していると述べている。
スイス政府は同時に、写真の撮影とオンライン公開の1週間前までに、市町村にその旨を通告するよう要求している。
一方のGoogleは、開始前に合意していたのに、方針を転換するという当局の動きに「失望した」とし、精力的に戦うつもりだと述べている。Street Viewは合法であり、法廷でそれを実証していく意志を表明している。なお、GoogleではStreet Viewはスイスでも人気で、80%のユーザーが「便利」と回答しているという。ぼかし処理などの要求が寄せられる率は、「2万ビューにつき1件を下回るレベル」と主張している。
Google Street Viewがスタートすると珍画像/迷画像をはじめさまざまな画像の"発見"が報告されるが、スイスでは既婚議員が配偶者ではない女性と歩いているところ(後にこの女性は秘書とわかった)、街頭でビラ配りをしていたレストランオーナーがドラッグディーラーと間違えられるなどの騒ぎが起こったようだ。
Google Street Viewは2007年にスタートして以来、各地で論議されている。便利さとプライバシーの妥協点はどこなのか? 個人(使う人も使わない人も)と時代によって妥協点は異なるだろう。英国では3月にサービスがスタート後、プライバシー保護団体が政府に苦情を申し立てた。その後、Googleはこの団体と和解したものの、ミルトンキーンズで住民が撮影車の侵入を阻止するなど、一部に根強い反対があるようだ。ギリシャでは、Googleが撮影したデータを保持する期間などを中心に、調査を続けているところだ。