11月10日、Orangeが英国で「iPhone」の発売を開始した。英国ではO2が2年前よりiPhoneを提供しているので大きなニュースではないはずだが、Orangeによると発売初日で3万台を売り上げたという。改めて、iPhone需要の強さ、人気の強さを実証するものとなった。
2009年11月10日というのは、英国でiPhoneが登場してきっかり2年後となる。米Appleと「複数年」の独占契約を交わしたO2は、2007年11月9日にiPhoneを発売した。Orange(仏France Telecomのモバイル事業部)はこの独占契約が切れることを受け、Appleと販売契約を結んだ。今年9月にOrangeが「iPhone」を提供することを発売した数日後には、Vodafoneも英国で「iPhone」提供を発表した。Vodafoneはクリスマス商戦に間に合わず、2010年に入ってすぐに発売を開始する予定だ。なお、OrangeもVodafoneも、複数国で事業を展開しており、他国ではiPhoneを発売している経験豊富なオペレータである。
OrangeとVodafoneのiPhone発売により、英国でのiPhoneは、日本や米国のように1社が独占的に提供するモデルからマルチオペレータとなる。マルチオペレータは、フランスやイタリアなどで実現しており、欧州ではドイツでもT-Mobileの契約切れによりマルチオペレータになると予想されている。
複数のオペレータがiPhoneを提供することになるため、程度の価格競争を予想したのだが、予想は外れた。発売直前まで料金プランを公開しなかったOrange、ふたを開けてみると、O2に類似した(というより、酷似した)料金プランとなった。
発売から2年が経過し、iPhoneが欲しい/使ってみたいという人(初期ターゲットユーザー)の多くはオペレータの乗り換えという障害があってもすでにiPhoneを手に入れていることだろう(英国ではオペレータの乗り換えは珍しくない)。料金が下がったわけでもないのに、「初日に3万台完売」というのだから、iPhoneの人気は底堅く、人気が人気を呼んでいると思い知らされる。iPhoneの料金が下がらなかった理由に、AppleがiPhone提供で課す売り上げ共有レベルが高いことが考えられるが、それよりも消費者の需要が上回っている - これは明白だ。
2社の料金を比較すると、サービスプランは、最下位の29ポンド(約4,330円)ラインこそ、大きく異なる(Orangeは通話時間150分/SMS250件で29.36ポンド、O2は通話時間75分/SMS125件で29.38ポンド、O2はほぼ2倍割高といえる)が、残りの34ポンド(約,5080円)ライン、44ポンド(約6580円)ライン、73ポンド(1万920円)ラインの3種類は、まったく同じ通話時間とSMS件数で0.01ポンド程度の差だ。
端末価格も然りで、前機種「iPhone 3G」の場合はOrangeが割安だが、最新の「iPhone 3GS」は契約期間(18カ月または24カ月)と容量(16GBモデルと32GBモデル)ともに同じような料金だ。たとえば34ポンドライン/契約期間18カ月の場合、Orangeは16GBモデルが184.50ポンド(約2万7600円)、32GBモデルが274ポンド(約4万1,000円)、O2が16GBモデルが185.98ポンド(約2万7,800円)、32BGモデルが274.23ポンド(約4万1,030円)となっている。
だが、2社の差はある。1つは「無制限インターネット」だ。両社ともに「無制限インターネット」をうたっているが、後発のOrangeは「フェアユース」としてデータ伝送量の上限として月750MB程度を目安にしていることを明らかにしている。Orangeはその理由について、フランスなど他の国でiPhoneを提供している経験から、ユーザーの平均利用量は月200MB程度であり、750MBは十分であると説明している。見えにくい差だが、ヘビーユーザーには障害となるかもしれない。
もう1つの差はカバーエリアだ。これは見えやすい差で、ロンドンなど都市部では両社の3Gカバーエリアは十分だが、国全体となるとOrangeの方が充実している。
Orangeのローンチ成功発表の後、11月12日の四半期決算発表の場で、O2側は余裕の態度を見せた。O2のCEOは、OrangeのiPhone提供はiPhoneユーザーの裾野を広げることになり、自社にもメリットがあること、OrangeやVodafoneによるiPhone提供が売上げに与えるダメージはほとんどないと見ていること、などを明らかにしたという。
O2は元々はBTのモバイル事業部がスピンオフした企業で、2005年にスペインTelefonicaが買収した。買収当初、英国のモバイル市場はO2、Vodafone、Orange、T-Mobileが仲良くシェアを分け合っていたが、数年前からO2のリードが鮮明になり、iPhoneがそれを確定的にした。iPhoneで2年先行しただけでなく、米Palmの会心作「Palm Pre」でもO2は独占契約を獲得している。
現在、O2のシェアは約28%、Vodafoneは約25%、Orangeは約21%、T-Mobileは約14%で、OrangeとT-Mobileは9月に合併計画を発表している。