泥沼化のように思われたSkype(eBay傘下)とSkype創業者の関係だが、eBayは11月6日に合意を発表。米国と英国で進行していた二者間の訴訟も取り下げとなり、形としては全面和解となった。この和解の下、Skypeは創業者2人を再度取締役に迎え入れて再出発することとなった。だが、その過程で表面化してしまった事実を見ると、いくぶん、すっきりしないようにもみえる。

eBayは9月、Skypeの株式65%を投資グループに売却することを発表した。投資グループを率いるのはSilver Lakeで、Index Ventures、Andreessen Horowitz、Canada Pension Plan Investment Board(CPPIB)で構成されていた。金額は約19億ドル。eBayは2005年10月、約31億ドルでSkypeを買収していた。

11月6日に発表された和解内容を見ると、取引金額は同じだが、株主メンバーと株式保有率が異なる。eBayの保有率は35%から30%となり、投資グループ(Silver Lake、Andreessen Horowitz、CPPIB)も65%から56%に減少、その代わり、新たに創業者のNiklas Zennstrom氏とJanus Friis氏、それに2人の企業である英Joltidが14%を保有することになる。そして、投資グループからはIndex Venturesの名前が消えている。

この和解、おそらくはZennstrom氏とFriis氏の勝利といえるだろう。Zennstrom氏らは、eBayがSkype売却を示唆した当初から買い戻しに興味を示していたとうわさされていた。Skypeの買い戻しにあたって、Zennstrom氏らは投資グループに接触するのと平行して、Skypeの土台となるP2P技術「Global Index」という知的所有権を武器に使った。Global Indexは、Zennstrom氏とFriis氏が設立した英Joltidが所有し、Skypeにライセンスしている。つまり、eBayはSkypeを所有しているが、その中核技術はJoltidを通じてZennstrom氏らの手中にあるということになる。Zennstrom氏らは3月、Skype/eBayを相手取ってIP訴訟を起こし、Skypeは自分たち抜きには存続しないことを示そうとした。

ではなぜIndex Venturesは参加しないのか。真相はわからないが、Index Ventures、というよりも同社のパートナー、Mike Volpi氏がSkypeの取得(とZennstrom氏らの介入の阻止)に大きく絡んでおり、Zennstrom氏とFriis氏は和解にあたり、Index Venturesの参加を拒んだと予想できる。

米Cisco Systemsで手腕が認められたVolpi氏は、Zennstrom氏とFriis氏が立ち上げたP2Pの動画サービスベンチャー、JoostのCEOを務めていた。Volpi氏は今年6月、Joost CEOを辞任(取締役は継続)し、Index Venturesのパートナーに転身する。Zennstrom氏らが席をもつJoostの取締役会は9月、Volpi氏の取締役解任を発表、同時にCEO任期中のVolpi氏の行為について調査を開始するとした。両氏はその後、米国デラウェアなど裁判所で、相手先にVolpi氏を含む訴訟を起こしている。

10月14日付けのWall Street Journalによると、一連の調査によりいくつかの証拠が明らかになったようだ。たとえば、Volpi氏は、JoostのCEOを務めていた2月の時点で、Index VenturesにSkypeの取引に乗るよう勧めていたと分かる電子メールが公開された。Volpi氏はIndex VenturesのDanny Rimer氏に対し、Skypeを買収して、Skypeの土台技術を(Global Indexから)標準技術であるSIPに変えることを提案していたという。また、これは、Zennstrom氏、Friis氏、Skypeの取締役で両氏と関係が深いMark Dyne氏を「非常に落胆させるだろうが、まあしょうがない」といったことも記していたという。

また、6月6日付けのRimer氏への電子メールでは、eBayのCEO、John Donahoe氏とのミーティングを報告しており、「(Donahoe氏は)Skypeとなると大きなビジョンを持ってはいない」「自分の考えには受容的だった」などと記していたという。その2日後、今度はVolpi氏はDonahoe氏宛ての電子メールで、モバイル強化や他のインターネットサービスとの連携のため、SkypeをSIPベースにすることなどを提案していたという。SkypeがSIPへ移行すれば、Zennstrom氏らの影響力が弱まることになる。なお、Volpi氏がJoostのCEOを退任したのはその後、6月30日のことだ。

これらが真実だとすれば、Zennstrom氏らの疑いを実証するものとなる。そしてこれが、Index Venturesが投資グループから降りた理由といって間違いなさそうだ。なお、Volpi氏がまめに報告していたIndex VenturesのRimer氏は、Marc Andreessen氏のNetscape支援に関係していた人物とのことだ。もうお気づきだろう。Andreessen氏は、今回の投資グループの1社であるAndreessen Horowitzでこの取引に参加している。

Skypeは現在、加入者数は5億2,000万人を超え、国際音声通話シェア8%を占めるといわれている。主として「Skype Out」などの有料サービスにたよる売り上げも、第3四半期は前年同期比29%増で伸びている。だが、競争もある。安価になる携帯電話や固定電話サービス、米Googleの「Google Voice」のような直接の競合のほか、「Facebook」など便利になるソーシャルネットワークもSkype通信を置き換える可能性がある。

創業者の2氏をはじめ、Skype取得に参加したベンチャーキャピタルは、Skypeの可能性を評価し、さまざまなビジネスアイディアを持っているはずだ。たとえばAndreessen氏は、Skypeはビジネス分野で大きな可能性があると評価している。Skypeは今度こそ、ビジネスモデルを確立しなければならない。独立企業となれば、これまでのように時間はかけられない。