世界不況をものともしないスマートフォンブームに沸く携帯電話業界だが、最大手の携帯電話メーカーNokia(フィンランド)には苦しい時期が続いているようだ。10月15日に同社が発表した第3四半期(7月 - 9月期)の業績報告書によると、売上高は全四半期比19.8%減の98億1,000万ユーロ。四半期ベースでの赤字計上は1996年以来となった。
Q3決算のポイントは、
- "コンバージド"とするスマートフォン分野の不振
- Nokia Siemens Networksの評価減
- 業界全体の今後の見通しを上方修正(2009年通年の携帯電話の予想出荷台数を前年比7%減から10%減に修正)
の3つだろう。
1のスマートフォンの詳細を見てみると、第3四半期、同社のスマートフォンの出荷台数は1,640万台、第2四半期の1,690万台から減少となった。同期、業界全体のスマートフォン出荷台数は4,700万台で第2四半期より増加、Nokiaのシェアは第2四半期の41%から6ポイント減の35%となった。
減少について、Nokiaは部品不足を主な原因としている。それでも、米Apple「iPhone」の躍進、カナダResearch In Motion(RIM)の「Blackberry」の底堅い成長、そして「Palm Pre」で話題を呼んでいる米Palmなどのニュースがにぎわう中、Nokiaの主力製品「Nokia N97」は話題性に欠けている。6月に発売を開始したN97の推定出荷台数は180万台、それほどのインパクトを与えていない。一方のiPhone、9月度の出荷台数は「ウォール街の予想値である700万台を25 - 30%上回る」とする調査会社もあるようだ(英Gardian報道)。
この業績発表の翌日となる10月16日、Nokiaは人事異動を発表、CFOのRick Simonson氏ががデバイス事業部内の「モバイルフォン」部隊を率いることとなった。Nokiaはこの人事異動と同時に、デバイス事業部を「モバイルフォン」と「スマートフォン」の2つの組織体制にすることも発表している。モバイルフォンは「Series 40」などのローエンド携帯電話をカバーし、スマートフォンは「Symbian」「Maemo」を搭載したハイエンド端末をカバーすることになるようだ。(なお、現在のCEO Olli-Pekka Kallasvuo氏もCFO→デバイス事業トップ→CEOのコースを経ており、Simonson氏が次期CEO候補かという憶測も出ている。)
Nokiaは先にも、サービスを強化するための組織再編を行っているが、サービス事業はなかなか起動に乗っていない。たとえば、インターネットサービス「Ovi」はまだ相乗効果を生んでいないし、無制限に楽曲をダウンロードできる"画期的なサービス"のはずの「Nokia Comes With Music」は、英国など9カ国で合計10万7,000人を集めたにとどまっている。
このような前例もあってか、人事異動発表後もNokiaに対する評価は厳しく、多くの金融機関がNokia株の格付けを下げているようだ。
Nokiaはなぜ、ぱっとしないのか?
Nokiaはマス向けの端末を作ることで台数を稼ぎ、シェアを増やして成長してきた企業だ。大量生産は得意だが、その欠点として特定セグメントへのフォーカスが甘くなったことは否めない。Nokiaがスマートフォンで出遅れたという指摘があるが、Nokiaはライバル企業とともに英Symbianを立ち上げ、スマートフォン分野を確立した1社だ。だが、スマートフォンをマスにするための既存プレイヤーの試みは決定打に欠けた。たとえばユーザーインタフェース、Nokiaの幹部は携帯電話が高機能/多機能化するのに対し、ユーザーが使いこなせていないという課題を認識していた。だが、Symbianでは実現は難しく、この分野で画期的なイノベーションを起こせなかった。結果として、Symbian陣営と米Microsoftはスマートフォンの第1世代を築いたが、離陸という次のステージに引き上げたのはAppleやRIMとなった。
次に、米国市場での弱さだ。米国市場は市場規模だけでなく、インターネット企業が集まる中心地だ。モバイルインターネット時代、重要性はさらに大きくなっている。だが、Nokiaの米国でのシェアは縮小しており、New York Times紙によると、2002年には35%だったのが、2008年には10%、2009年6月には7%。文字通り小さくなっている。
この理由はさまざまだろうが、2008年に撤退した日本と共通していることが2つある。1つ目は市場の特性だ。米国は欧州と違ってキャリアが強く、端末にキャリアのロゴを入れるなどのカスタマイズ端末を作ることが要求される。2つ目はCDMA方式の存在だ。Nokiaはこれらの特性に自社戦略を柔軟に適応させることができず、LGやSamsungなどの韓国勢にも追い越されている。
だが、Nokiaも手をこまねいてみているわけではない。以前このコラムで紹介したとおり、Maemoを搭載した「Nokia N900」、そして「Windows 7」を搭載する初のネットブック「Nokia Booklet 3G」が控えている。
端末、サービス(Ovi)とともに重要になるのが、開発ツール「Qt」だ。Qtは、2008年に買収したTrolltechのクロスプラットフォームUI/アプリ開発ツール。Symbiaに対応済みで、10月9日にはMaemo向けポーティングを発表した。
10月13日、14日、Qtの開発者向け会議「Qt Developer Days」に参加したが、Nokia色はまだ薄く、Nokiaの青よりもQtの緑のロゴが目立つ。Qtは容易さを特徴としており、難しいと敬遠されがちだったSymbian開発を活気づけたいところだ。今後、モバイルでもアプリケーションが重要になる中、QtはNokiaの戦略にとって大きな部分を占めることになりそうだ。