Google Books Searchには著作者の許可なしでスキャンしたものも数多く含まれる。Googleはこういったことを"先取り"してやってしまい、あとから許可をめぐって騒がれることが多い。結果としてはやった者勝ちなのか? |
米Googleが進める書籍デジタル化プロジェクト「Google Books Search」についての議論が欧州でも進んでいる。米国で合意した和解案に対する回答とコメントの提出期限が9月8日だったことを受け、先週は欧州委員会(EC)が和解案や書籍デジタル化全体の課題について聴聞会を開催した。ドイツ、そしてフランスなどの加盟国が和解案に反対意見を表明する中、ECは官民協力によるメリットを強調する姿勢を見せた。
Google Books Searchの和解案は、Googleが2008年10月末に米国の作家団体(Authors GuildとAAP)と合意したもので、図書館との提携の下でデジタル化した書籍について、著作権の保護期間内でも絶版本や著作権保有者がわからない本("Orphan books")へのアクセスを可能とするもの。Googleは売り上げの63%を権利者に支払うほか、レジストリ管理団体Books Rights Registryの設立も約束している。Googleはそれ以前に許可なくデジタル化した書籍について、1冊あたり60ドルを支払う。
この和解案は米国企業が米国の作家、出版社らと合意したものであるにもかかわらず、日本と同様、著作権の国際規約であるベルヌ条約により、欧州の作家や出版社も関係する。欧州と米国との著作権法の違いにより、米国では著作権が切れたが、欧州では著作権がある書物もデジタル化の対象となりうるなどの事態が生じることが指摘されたほか、Google一社がデジタル書籍の管理役を務めることへの懸念が持ち上がっていた。
こと文化においては反米精神が強いフランス、「Google Street View」をはじめプライバシーでGoogleとよく衝突するドイツは、同和解案は自国の著作権法を侵害するとして異議を表明した。
だが、欧州連合(EU)としての立場となると微妙だ。ICTでは米国にリードを許したが、要となるコンテンツでも主導権を握られるというあせりは大きい。印刷物のコレクションは、欧州が誇る文化資産だ。和解案が承認された場合、教育や研究リソースで米国との間に格差が生まれてしまう。
これに対し、プロジェクトをスムースかつ迅速に進めたいGoogle側は9月7日の聴聞会の場で、欧州向けに2つの提案を発表、緊張緩和を図った。1つ目は、米国で著作権が切れていても欧州では保護期間内にある著作物についてはデジタル化の対象としないこと、2つ目は、Books Rights Registryの理事に、欧州の作家および出版社から各1名を代表として入れる、だ。
ECの情報社会/メディア担当委員Viviane Reding氏と域内市場/サービス担当委員のCharlie McCreevy氏は9月7日、連名で声明文を発表した。両委員はここで、著作権法の改正の必要性を示唆したほか、オンライン時代に向け書籍デジタル化の必要性を確認、政府が主導する必要があるが、企業の協力も不可欠とした。
たとえば、現在の著作権の問題として、加盟国がばらばらの著作権法を持ち、EU規模でのサービスの実現が難しいといわれている。柔軟性がないため、「欧州の文学作品へのアクセスが、(地元の)欧州よりも米国で容易という事態が生じる」とデジタル著作権を考える組織、Open Rights Groupは懸念を示している。
官だけではプロジェクトが進まないのは、欧州のデジタル化プロジェクト「Europeana」が実証している。Europeanaは2008年11月に開設したEUのデジタル博物館だ。現在、Europeanaは460万点の書籍、地図、写真、フィルムをスキャンしたが、当初の目標は、"2010年までに蔵書を1,000万冊規模"だった。つまり、まだ半分にも達していないことになる。著作権法により、著作権保護期間にあるが所有者がわからないOrphan books、絶版本は含まれていないが、欧州では、著作権保護下にある書籍のうち10 - 20%が著作権所有者がわからないOrphan booksであり、欧州の公共図書館にある蔵書のうち90%が絶版本といわれている。
一方のGoogleは、すでに1,000万冊をスキャン済みといわれており、このうち200 - 400万冊が欧州の図書館のものという(Googleは、英国やベルギーなどいくつかの国の大学図書館と蔵書スキャンについて提携している)。
Europeanaはコレクションの偏りも問題となっている。現在、Europeanaに展示されている作品のうち47%がフランスのもので、ドイツは15.4%、英国とオランダが8%など、"欧州"のデジタル博物館とは程遠い現実だ。Europeanaは、Google Books Searchに対抗するフランス主導で始まった経緯を持つが、Google側は「補完の立場」と余裕を見せている。
ECは11月中旬まで、Europeanaをはじめデジタル化全体に関する意見を知るため、パブリックコンサルテーションを実施する。Google Books Searchを機に、EUで著作権改正が進むかどうかに注目が集まる。