EU競争政策担当委員のNeelie Kroes氏

既報の通り、欧州連合(EU)の欧州委員会(EC)は1月15日、米Microsoftに対しEU競争法違反の疑いがあるとして異議告知書を送付した。異議告知書は、独禁法調査の最初のステップだ。今回の争点は、OSへのWebブラウザ「Internet Explorer」バンドル。だが、そのタイミングに"なぜ?"の声もある。

ECは声明文の中で、「シェア90%を占める独占的OSへのIEバンドルは、Webブラウザ市場の競争を阻害し、製品イノベーションを損ない、最終的には消費者の選択を限定している」と主張している。この仮判断は、2007年9月の欧州第一審裁判所(CFI)の見解を土台としたものという。このCFIの見解は、9年という長い月日を費やした前回のEU対Microsoftの争いが、Microsoftの降伏と言う形でピリオドを打つきっかけとなったものだ。

ECがIEバンドルにメスを入れたのは、ノルウェイOpera Softwareが2007年末に提出した申し立てを受けてのものだ。Operaは、

  1. OSへのIEバンドル
  2. IEがWeb標準に対応していない

の2点を主張していた。今回の異議告知書は1にフォーカスしたもののようだが、声明文中、「IEが多くのPCにインストールされている事実により、コンテンツプロバイダやソフトウェア開発者がIEを主眼に置いてWebサイトやソフトウェアを設計するという状況が生まれている」と、間接的ではあるが2に触れている。

だが、IEのシェアは減少しつつある。Mozilla Foundationはオープンソースの「Firefox」でWebブラウザ市場に選択肢と競争をもたらし、昨年には米Googleが「Google Chrome」で参入した。欧州でFirefoxのシェアは高く、仏AT Internet Instituteの最新値によると、Webブラウザのシェア上位5位は、IE(59.5%)、Firefox(31.1%)、Opera(5.1%)、Safari(2.5%)、Chrome(1.1%)となっている(2008年11月時)。そう、IEは6割を切っているのだ。OSのシェアが90%であれば、欧州のWindowsユーザーの3割以上が他のWebブラウザを選択していることになる。さらには、OSそのものでも、Windowsのシェアは減少傾向にある。

そんな時期に始まった今回の調査に対し、ECの動きを疑問視する声もある。きっかけとなったOperaは、クラウドやSaaSなどでWebブラウザの重要性が高くなりつつあることを背景に挙げている(Operaの"One Web"構想を考えると、Operaは2を問題視している気がする)。

前回同様、今回も長期化するのだろうか -- その可能性は否定できない。

Microsoftは、ECが断固とした態度を崩さないことを体験しているだけに、今回は最初から柔軟路線をとるかもしれない。一方、EC側は是正措置を変えてくる可能性が高い。前回の是正措置の結果生まれた「Window XP N」(「Windows Media Player」をバンドルしていないエディション)は、バンドルしたものと同価格で販売されたこともあり、ほとんど需要がなかった(Microsoftによると、発売後1年の時点で、XP Nが欧州でのXPの総売上げに占める比率は0.005%だったという)。OperaのJon von Tetzcher CEOは、ComputerWorldの取材に対し、「複数のWebブラウザを含むWindowsを提供する、あるいは"インターネットアイコン"のみがデスクトップに表示され、ユーザーがどのブラウザを使いたいのかを選択できるようにする」などの措置を提案している。

EUは、米国の大手ハイテク企業に対する独禁法訴訟の震源地になりつつある。長期化する米Intel、最近では米IBMもターゲットとなった。対Microsoftでは、IEバンドルと平行して、「Office」の相互運用性についても調査を行っている。