Jeffrey Cole氏

6月23日と24日、スウェーデンのEricsson本社で開催された「Ericsson Business Innovation Forum 2009」で、1999年より継続的に世界のインターネット動向を調べている大規模なプロジェクト「World Internet Project(WIP)」を率いるJeffrey Cole教授が登場し、統計と見解を披露した。欧州に限定した話題ではないが、このコラムで紹介したい。

WIPは、南カリフォルニア大学アネンバーグ校デジタル未来研究所で進んでいる長期的かつ世界的なプロジェクトだ。日常生活におけるインターネットの利用や用途、携帯電話の利用などを調べるもので、現在、北米、欧州、オセアニア、アジア、中東から約30カ国が参加している。

Cole氏はこの日、WIPの調査を土台にSNSとTVの2つにフォーカスしてトレンドを分析した。

SNSは、ティーンネージャーの間に一大ブームを起こしたMySpaceが契機となったインターネットサービス。あれから約5年が経過した現在、「ハイプを脱して現実のものとなった」とCole氏。だが、火付け役のMySpaceについては、米News Corp.の買収を失敗と見ているようだ。「当時、MySpaceはクールなナイトクラブのようなものだった。クラブがメジャー、ポピュラーになると、流行に敏感なティーンネージャたちの足が遠のくのと同じで、News Corp買収後、MySpaceは当時の先進的なイメージを失った」とCole氏は見る。もちろん、どの"クラブ"も無料だから、乗り換えは簡単だ。

その後登場した米Facebookは、創業者や投資家の戦略として独立を保っているが、MySpaceの教訓があってのことだろう。

Cole氏は、SNSの分岐点は2006年とみる。2006年、「オンラインコミュニティはオフラインと同じぐらい大切」と回答した人は43%だったのが、翌2007年には57%に急増、以来、数字は安定しているという。それまでは、PCにログオンすると電子メールをチェックしていた習慣が、現在ではSNSサイトのチェックに変わりつつある。今後は、「SNSが携帯電話に移行することは必至」とも続ける。

TVについては、Cole氏は並々ならぬ期待をうかがわせた。

「音楽、映画、印刷物、TVなどの既存メディアはすべて生き残る」としながらも、TVを除くと、Webにおいてはその役割や重要性は低くなると予想する。「TVが登場した後、ラジオや映画が生き残ったのと同じ」とCole氏。

そのTVは、縮小するどころか、「大きな成長のチャンスがある」とCole氏は語る。TVは、これまでのように決められた時間に決められた場所(居間にあるTV)から、フォーマットを変える。

モバイルTVは端的な例だ。音楽クリップや映画の予告編など2、3分のコンテンツにとどまらず、30分、それ以上の番組の可能性も十分考えられるという。「TVははじめて、家を飛び出す」とCole氏。

一方、家庭のTVの画面は巨大化し、「映画館と自宅の画面の差は縮小し、映画館と自宅のコンテンツの差(封切後からTV放映までの時差)も縮小する」とCole氏は見る。ユーザーは番組により画面の大小を使い分け、携帯電話は時間が空いたときに楽しむ「コンスタントなコンパニオンになる」と予想する。

1975年、発展国では平均して週60時間TVを視聴していたのが、2008年には34時間に減少した。今後、3、4年で50時間程度に増加するというのがCole氏の予想だ。

それぞれのトレンドで気になるのは課金モデルだ。

現在、コンテンツに対価を支払う方法は、

  1. 盗む(ファイル共有など)
  2. サブスクリプション
  3. 広告

の3つが考えられる。Cole氏は、新聞などの印刷物は「インターネットのインパクトを正しく理解することなく、無償化に走ってしまった」と2を確立しなかったことに言及しながら、TVもSNSも広告モデルが主流となると見る。WIPの調査でも、インターネットユーザーは無料と引き換えに広告モデルを受け入れはじめていることが明らかになっているという。

だが、無差別に打つ広告キャンペーンは逆効果で、ネットワークの特性を活用したターゲット広告にチャンスがあるという。中でもSNSはパーソナルな場所であり、「広告側はコミュニティのメンバーとして、存在理由を明確にする必要がある」とCole氏。こういった背景から、広告をどのように挿入していくかはFacebookの次の課題という。

広告を展開する側は、良い企業市民(Cooperate Citizen)かどうかなど、厳しいチェックを浴びるが、「自分たちのメッセージをターゲットできるまたとない時代」とも言う。「興味深い広告こそ、デジタルコンテンツが長期的に生き残るために必須である」と相互依存関係にあることを指摘した。